3 / 8
3.会合
しおりを挟む
「ごきげんよう、ローム様」
「わざわざお呼びだてして申し訳ない、アンさん」
ロームとアンはにこやかに言葉を交わす。二人が顔を合わすのはこれが初めてだった。
会ったこともない婚約者。互いに他人行儀になるのも仕方ないともいえる。
この会合も二人の両親が決めたものだ。二人が望んだわけではない。だが、ロームもアンもこの機会に婚約破棄をするために動き出そうとしていた。
「ふふ、こんなに素敵な殿方と婚約だなんて……驚きましたわ」
「はは、こちらこそ貴方のような美しい令嬢と婚約できるだなんて思ってもみなかったよ」
上辺の言葉を交わすロームとアン。互いの両親の目が光るこの場では、友好的な態度でいる方が良い。
二人はそう考え、粛々と二人だけで話せる機会を狙っていた。
「あの……ローム様にお願いがあるのですが」
アンはおずおずと切り出した。
「どうしたんだね? 言ってごらんなさい。ロームにできることならなんだっていいぞ」
ロームの父親、ヴァンが答える。
アンは窓の外へ目を移した。
「私、こちらへ来る時にちらりと見えたお庭が素敵だと思いまして。よろしければ、ローム様に案内して頂きたいです。……ローム様とゆっくりお話もしたいですし……」
アンはロームと二人きりで話す口実を口にした。二人きりになった時に、ロームから婚約破棄されるように動こうと考えていたのだ。
アンは庭に微塵も興味を持っていなかった。ただ、外へ出るために。ロームだけと話す機会を得るための言葉だった。
ロームはアンの思惑には気がついていなかったが、その誘いはロームにとっても都合が良かった。
ロームもロームで、アンだけと話す機会が欲しいと考えていた。
ゆえに快く返事を返した。
「もちろんだよ。俺もこの庭が好きでね、ぜひ案内させてくれ。それに、貴方と二人で話したいと思っていたところだったんだ。いいよね? 父上?」
邪魔をされないようにと、ヴァンに先手を打つローム。
ヴァンは酒を飲んでいい気になっているようで、ロームの言葉を警戒することもなく受け入れた。
「せっかくだから、二人で親交を深めなさい」
「ありがとう」
そして、ロームとアンは会合の席を離れ、二人で並んで歩きながら庭を目指した。
傍目から見たら、相性の良さそうな婚約者。しかし、実際は互いに婚約破棄を目論む赤の他人。
全ては婚約破棄をして、幸せを掴むために。
「わざわざお呼びだてして申し訳ない、アンさん」
ロームとアンはにこやかに言葉を交わす。二人が顔を合わすのはこれが初めてだった。
会ったこともない婚約者。互いに他人行儀になるのも仕方ないともいえる。
この会合も二人の両親が決めたものだ。二人が望んだわけではない。だが、ロームもアンもこの機会に婚約破棄をするために動き出そうとしていた。
「ふふ、こんなに素敵な殿方と婚約だなんて……驚きましたわ」
「はは、こちらこそ貴方のような美しい令嬢と婚約できるだなんて思ってもみなかったよ」
上辺の言葉を交わすロームとアン。互いの両親の目が光るこの場では、友好的な態度でいる方が良い。
二人はそう考え、粛々と二人だけで話せる機会を狙っていた。
「あの……ローム様にお願いがあるのですが」
アンはおずおずと切り出した。
「どうしたんだね? 言ってごらんなさい。ロームにできることならなんだっていいぞ」
ロームの父親、ヴァンが答える。
アンは窓の外へ目を移した。
「私、こちらへ来る時にちらりと見えたお庭が素敵だと思いまして。よろしければ、ローム様に案内して頂きたいです。……ローム様とゆっくりお話もしたいですし……」
アンはロームと二人きりで話す口実を口にした。二人きりになった時に、ロームから婚約破棄されるように動こうと考えていたのだ。
アンは庭に微塵も興味を持っていなかった。ただ、外へ出るために。ロームだけと話す機会を得るための言葉だった。
ロームはアンの思惑には気がついていなかったが、その誘いはロームにとっても都合が良かった。
ロームもロームで、アンだけと話す機会が欲しいと考えていた。
ゆえに快く返事を返した。
「もちろんだよ。俺もこの庭が好きでね、ぜひ案内させてくれ。それに、貴方と二人で話したいと思っていたところだったんだ。いいよね? 父上?」
邪魔をされないようにと、ヴァンに先手を打つローム。
ヴァンは酒を飲んでいい気になっているようで、ロームの言葉を警戒することもなく受け入れた。
「せっかくだから、二人で親交を深めなさい」
「ありがとう」
そして、ロームとアンは会合の席を離れ、二人で並んで歩きながら庭を目指した。
傍目から見たら、相性の良さそうな婚約者。しかし、実際は互いに婚約破棄を目論む赤の他人。
全ては婚約破棄をして、幸せを掴むために。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】あなただけがスペアではなくなったから~ある王太子の婚約破棄騒動の顛末~
春風由実
恋愛
「兄上がやらかした──」
その第二王子殿下のお言葉を聞いて、私はもう彼とは過ごせないことを悟りました。
これまで私たちは共にスペアとして学び、そして共にあり続ける未来を描いてきましたけれど。
それは今日で終わり。
彼だけがスペアではなくなってしまったから。
※短編です。完結まで作成済み。
※実験的に一話を短くまとめサクサクと気楽に読めるようにしてみました。逆に読みにくかったら申し訳ない。
※おまけの別視点話は普通の長さです。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる