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16.夜明け

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 まだ夜も明けきらないうちに、フーガとサーシャは出発した。

 山を越え、森を抜け、ただただ歩き続けた。

 途中、二人は何人かの兵士と遭遇した。だが、兵士は気がつかなかった。

 二人は兵士よりも先に気がつき、上手く身を隠していたからだ。


「……だいぶ離れたのに、まだ兵士がいるのか」
「でも、服装も変えたし人手も少ないから気がつかれにくいみたいだね」
「そうだな。だが、油断はできない」
「うん……分かってる」


 逃げられたことに対する安堵と、まだ追っ手がいるという緊張感を交互に味わいながら二人は遠くを目指していた。

 毎日、隠れられそうな洞窟や洞穴、廃墟に身を隠して休憩しながら進む。

 そんな生活が、一ヶ月あまり続いた。

 フーガもサーシャも服装だけでなく、髪型や髪色も変えて、より元の姿を分かりにくくしていた。

 どうしても街に行かなければならない時は、ことさら注意を払い、必要最低限の物資を手に入れて帰った。

 名前を名乗らなければならない時は、偽名を使った。

 国から離れるにつれて、兵士を見かけることは少なくなっていった。


「……流石に僕達を探している奴らとはほとんど出会わなくなったな」
「うん。いくつもの国を通り過ぎたもんね」


 二ヶ月、三ヶ月と逃げ続けた頃にはすっかり追っ手とは出会わなくなっていた。

 二人は元居た国からは程遠い場所へいた。

 沼地を越え、砂漠を越え、平原を通り過ぎた。

 そして辿り着いたのは、とある国の郊外の、小さな小さな村の、さらにその外れ。

 フーガとサーシャは、当初の目的通り、誰も彼らを知らない地へ来ていた。

 フーガの名を知るものも、サーシャの名を知るものもここにはいない。そもそも王都の国から逃げ延びてきたとは、村の人々は想像もしなかった。

 王女でも悪女でも犯罪者でもない、ただの平民として暮らす権利を二人は手に入れた。
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