上 下
8 / 17

8.抜け道

しおりを挟む
 酸欠の体に鞭打って、二人は走り続けた。

 追っ手は増える一方だった。

 それでも、フーガ達は諦めなかった。


「……サーシャ……大丈夫か?」
「ええ……平気よ……」


 どうにか追っ手を撒いて、抜け道へとたどり着いたフーガとサーシャは息を整えていた。

 二人のいる場所は見取り図には載っていたものの、傍から見たら分からない隠し部屋だ。外へ繋がる通路もある。

 王族の住む城には、万が一のために一部の人間しか知らない隠し部屋がある。

 クーデターや反乱などが起き、身分の高い王族の身が危険に晒された場合を考えてのことだ。

 フーガはそこに目をつけた。使用人でも下っ端の人間ならば知らないはずだろうと考えたのだ。

 身内に紛れ込んだ裏切り者を想定した場合、本当に信用のおける者にしか教えないはずだと。


「もう行けるか?」
「うん、大丈夫」


 念の為、周囲の様子を伺っていたフーガがサーシャに尋ねた。

 今のところ追っ手が来る様子はないが、一刻も早くフーガはここを出たかった。

 いつまでもここが気がつかれないとは限らなかったからだ。


「……行くぞ」
「うん」


 フーガは外への通路を隠している床の板を退かした。薄暗く狭い、けれど二人にとっては希望に満ち溢れた道が姿を現す。


「僕が先に行く。すぐに後を着いてきてくれ」
「分かった!」


 フーガは素早く身を潜らせた。

 人の気配へ気を配る。あまり人のいる様子はない。

 サーシャを振り返る。


「大丈夫そうだ。早くこっちに」


 サーシャへ手を伸ばす。

 手と手が触れ、再び二人の手が繋がれた。

 そのままフーガはサーシャを引き寄せる。自分のすぐそばにサーシャがいることを再度確認し、追っ手に気がつかれないように床を元に戻した。


「よし……ここを出れば街に出る。そうしたらそのまま街を抜けて、遠くへ逃げよう。誰も僕らを知らない土地へ行こう」


 サーシャの手を強く握りながら、フーガはそう伝えた。


「……うん。フーガと一緒に行きたい。遠くへ、私たちを誰も知らない土地へ。逃げて……貴方と生きたい」


 フーガの黄色い瞳とサーシャの青い瞳が見つめ合う。

 数秒見つめ合った後、二人は外へ出るために道を進み始めた。

 誰にも気がつかれないことを祈りながら、誰とも出会わないことを願いながら。

 できるだけ早く、慎重に。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私とは婚約破棄して妹と婚約するんですか?でも私、転生聖女なんですけど?

tartan321
恋愛
婚約破棄は勝手ですが、事情を分からずにすると、大変なことが起きるかも? 3部構成です。

聖女にはなれませんよ? だってその女は性女ですから

真理亜
恋愛
聖女アリアは婚約者である第2王子のラルフから偽聖女と罵倒され、婚約破棄を宣告される。代わりに聖女見習いであるイザベラと婚約し、彼女を聖女にすると宣言するが、イザベラには秘密があった。それは...

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす

皐月 誘
恋愛
クリーヴス伯爵家には愛くるしい双子の姉妹が居た。 『双子の天使』と称される姉のサラサと、妹のテレサ。 2人は誰から見ても仲の良い姉妹だったのだが、姉のサラサの婚約破棄騒動を発端に周囲の状況が変わり始める…。 ------------------------------------ 2020/6/25 本編完結致しました。 今後は番外編を更新していきますので、お時間ありましたら、是非お読み下さい。 そして、更にお時間が許しましたら、感想など頂けると、励みと勉強になります。 どうぞ、よろしくお願いします。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

王太子に婚約破棄され奈落に落とされた伯爵令嬢は、実は聖女で聖獣に溺愛され奈落を開拓することになりました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...