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出会い
三話
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突拍子もない話は到底信じられるはずもなかったが、目を伏せた彼を見てしまえば適当にあしらう訳にもいかないだろう。とりあえず話を聞いてみようと決意し、手当たり次第思いつく質問をなげかけた。
「死んでるって……どうしてですか?」
交通事故や水難事故、もしかしたら病気だったのかもしれない。ともかくなにか理由があるはずだ。
「それはよく分からないんだ」
彼は小さく首を横に振る。死因は覚えていないらしい。考えてみれば、突然死んだのだとしたら覚えていなくても仕方ないだろう。
「じゃあ……なんで成仏できなかったんですか?」
「それも分からない」
幽霊になったからには何か未練があるのだろう。そんな思いから聞いた質問だった。しかし、彼からは具体的なことは何も出てこない。だが、未練とは案外自分では分からないものなのかもしれない。
「あの、何を覚えているんですか?」
何を聞けばいいか分からなくなった私は、少し投げやりではあるものの相手から話してもらうという方法に切り替えた。逐一聞くよりもこうした方が早い気がする。
「えっと、自分の名前とここが俺の住んでいた街だってことかな……?」
「それって、ほとんど覚えていないということですよね」
「う、うん」
突然雑な物言いになった私に驚いたのか、たどたどしく彼は答える。どうしたものか。溜息を吐けば、彼は捨てられた子犬よろしく縋るような目で見てくる。
初めはからかってる可能性も考えた。だがこの様子では彼の言葉に嘘はないのだろう。とはいえ、事情を知った所で私が何かできるわけでもない。今更ながら気づいたその事実に悩んでいると上から声が降ってきた。
「その、良かったら俺の話し相手になってくれないかな?」
「話し相手、ですか?」
「うん」
「それなら全然いいですよ」
話し相手になるぐらいは全然構わない。というよりも、幽霊とはいえこんな美青年と話せる機会など滅多にないので普通に嬉しい申し出である。
「……ありがとう」
花の咲くようなふわりとした笑顔に見蕩れ、私も釣られて口元が緩むのを感じる。できるだけ明るく、彼の笑顔を真似て返事を返した。
「どういたしまして!」
その後、帰ろうと踵を返すと彼は慌てて呼び止められた。何かと思い振り返ると、暇な時でいいから公園に来て話し相手になって欲しいと一言告げられた。彼の話に拠れば、移動できる箇所が少ないからだという。所謂、地縛霊といった感じだろう。
どうせ学校からの帰りに通る道だ。特に遊ぶ予定も入れていない。また明日あの公園に寄ってみよう。毛布に包まり、ざっと翌日のことを考えている内に眠気に包まれ、ふわふわと夢の中へと落ちていくのであった。
「死んでるって……どうしてですか?」
交通事故や水難事故、もしかしたら病気だったのかもしれない。ともかくなにか理由があるはずだ。
「それはよく分からないんだ」
彼は小さく首を横に振る。死因は覚えていないらしい。考えてみれば、突然死んだのだとしたら覚えていなくても仕方ないだろう。
「じゃあ……なんで成仏できなかったんですか?」
「それも分からない」
幽霊になったからには何か未練があるのだろう。そんな思いから聞いた質問だった。しかし、彼からは具体的なことは何も出てこない。だが、未練とは案外自分では分からないものなのかもしれない。
「あの、何を覚えているんですか?」
何を聞けばいいか分からなくなった私は、少し投げやりではあるものの相手から話してもらうという方法に切り替えた。逐一聞くよりもこうした方が早い気がする。
「えっと、自分の名前とここが俺の住んでいた街だってことかな……?」
「それって、ほとんど覚えていないということですよね」
「う、うん」
突然雑な物言いになった私に驚いたのか、たどたどしく彼は答える。どうしたものか。溜息を吐けば、彼は捨てられた子犬よろしく縋るような目で見てくる。
初めはからかってる可能性も考えた。だがこの様子では彼の言葉に嘘はないのだろう。とはいえ、事情を知った所で私が何かできるわけでもない。今更ながら気づいたその事実に悩んでいると上から声が降ってきた。
「その、良かったら俺の話し相手になってくれないかな?」
「話し相手、ですか?」
「うん」
「それなら全然いいですよ」
話し相手になるぐらいは全然構わない。というよりも、幽霊とはいえこんな美青年と話せる機会など滅多にないので普通に嬉しい申し出である。
「……ありがとう」
花の咲くようなふわりとした笑顔に見蕩れ、私も釣られて口元が緩むのを感じる。できるだけ明るく、彼の笑顔を真似て返事を返した。
「どういたしまして!」
その後、帰ろうと踵を返すと彼は慌てて呼び止められた。何かと思い振り返ると、暇な時でいいから公園に来て話し相手になって欲しいと一言告げられた。彼の話に拠れば、移動できる箇所が少ないからだという。所謂、地縛霊といった感じだろう。
どうせ学校からの帰りに通る道だ。特に遊ぶ予定も入れていない。また明日あの公園に寄ってみよう。毛布に包まり、ざっと翌日のことを考えている内に眠気に包まれ、ふわふわと夢の中へと落ちていくのであった。
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