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番外編

二人の女性とへクセ

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「へクセさん、あの子もよく来るの?」


 明るい桃色の女性がへクセに話しかける。さっきまでの気まずそうな様子は、いつの間にかなくなっていた。


「そうだね。僕がお店を始めた頃からのお客さんだよ」
「……へー! そうなんだ!」
「あの、ソルシエール様。その方は……?」
「えっと、最近……といっても半年くらい前だけど、よく来てくれるお客さんだよ」
「そうなんですね」


 女性二人が互いを気にしている。ちらちらと様子を伺っている。

 ……修羅場?

 恐らく、どちらもへクセのことが好きなんだろう。見た感じ、へクセへの視線に熱がこもっている。あれは、恋する乙女の目だ。間違いない。

 恋敵の登場。そのせいか、二人の間にピリピリした空気が流れている。関係ない私まで緊張してきた。

 ちらりとへクセを見る。頬笑みを浮かべたまま表情を保っているが、気まずそうな様子が隠せていない。目が泳いでいる。

 ……へクセ、あの子たちが自分に好意を持っているの分かっているのか? 

 反応が浮気がバレた時みたいだ。本命と浮気相手が遭遇してしまったのを、慌てている感じ。例えが酷いけれど。

 いや、単に空気が悪いと感じて困っているのかもしれない。理由は分からないけれど、ピリピリしている……と思っている可能性もある。


「……僕、ちょっと後ろから商品とってきてもいい? 仕入れたやつ出すの忘れちゃってた」
「全然いいですよ、へクセさん!」
「私も、まだ色々と見たいので……大丈夫ですよ、ソルシエール様」
「ありがとう。ゆっくり見ててね」


 へクセはそう言ってそそくさと裏へ消えていった。逃げたな。商品を出すのは二人が帰ってからでもできるはずだ。わざわざ今やる必要は無い。恐らく、面倒が起きる前に退散したのだろう。


「ちょっと抜けてて、おっちょこちょいなのもかわいいよね! へクセさん」
「……そうですね。ソルシエール様は包容力があって大人で色気がありますが、たまに見せる少年らしさが素敵ですよね」
「分かるー!」


 急に盛り上がり始めた。へクセに対する熱量がすごい。一見仲良さそうに聞こえるが、空気は未だピリついている。


「……ところで、単刀直入に聞くけど」
「なんですか?」


 空気がより一層張り詰めた。二人の声が低くなって、まるで獣が威嚇しあっているみたいだ。


「へクセさんのこと、狙ってる?」
「……ええ。……貴女も、ですか?」
「うん」
「……渡しませんから」
「それはこっちのセリフ」


 二人の間に火花が散る。互いに睨みあっている。私まで逃げたくなってきた。緊張で手汗をかいているのが分かる。

 まさか小説で描かれるようなことを、目の当たりにするなんて。
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