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番外編

猫になりたい

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「はぁ……私も猫になりたいですわ」


 猫ライルの写真や絵を眺めながら、ため息とともにボヤく。

 猫を愛でるのはもちろん好きだが、そんな猫本体になってみたいという願望はずっとある。

 なんなら、猫ライルを見て少し羨ましいとも思ってしまったくらいだ。実際、人に戻れなくなるのは困るかもしれない。だが、一日……いや一週間は猫になりたい。


「へクセに頼んだら、やってくれるかしら……」


 お願いして、対価を払えば叶えてくれるだろう。へクセは優しいし、約束は守る。

 それに、魔女だから理論的には可能だ。ライルを猫にした張本人で、魔女の力は何回も見た。


「けれど、頼りすぎな気がするのよね」


 幼なじみとはいえ礼儀や節度は持つべきだろう。ライルを人間に戻してもらったあとも、へクセには色々とやってもらっている。魔女としても友人としても。

 この前なんて、喧嘩の相談にも乗ってもらっちゃったし……おかげで仲直りはできたけれど。

 いつでも来てとは言ってくれている。しかし……。


「一応、へクセも店を経営している立場ですからねぇ」


 あまり人は入っていなさそうなアンティークショップだけれども。私が行く時や見かけた時にたまたま人がいないだけという可能性もある。

 接客しているのを何度か遠目に見たことはある。へクセのことだから、接客時は真面目な態度なんだろう。顔がいいし、意外と女性にも人気がありそう。

 そもそも、客がいなくともへクセは仕事中だ。何度も邪魔しておいて今更だが、仕事の邪魔をするのはよろしくない。

 へクセは温厚だからあまり怒らないし、言ってこない。でも迷惑がっているかもしれない。


「そういえば……へクセが接客しているの、間近で見た事ないわね」


 私やライル以外への態度がどんな感じか気になるな。なんとなく予想はつくけれど、働いている姿に興味がある。あと、どのくらい客が入るのかも。一日観察してみようか。

 変装して客のフリしてみるか。バレたら、猫になりたいとお願いしに来たと言おう。……結局、邪魔しに行っているけれど。

 しかし、好奇心が迷惑かもしれないという心配を上回ってしまった。


「なにか手土産でも持っていきますか」


 へクセが好きそうなお菓子や紅茶などを持って、屋敷を出た。

 少しでも感謝や詫びの気持ちを表明するためだ。やはり、こういうものは大事だろう。ないよりはあった方がいい。

 街を歩いてへクセの店を目指す。

 暖かくて生ぬるい風が頬を撫でる。今日は少し、暑い。
 
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