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51.猫になった婚約者と解呪

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 さっきまで茶色い猫がいた場所には、薄い金色の髪と緑の目を持つ端正な美青年が立っていた。


「……おお……本当に戻ったのか……」


 ライルが感嘆の声を上げる。

 もふもふの毛も、愛らしい三角の耳も、長いしなやかな尻尾も、今のライルには見当たらなかった。


「よしよし、ちゃんと戻ったね!」


 へクセはにっこり笑って言った。

 いつの間にか、部屋の空気もへクセの雰囲気もいつも通りに戻っていた。

 幻想的でどこか恐ろしくて、艷容だった空気はぱったりなくなっていた。


「……ライル様」
「か、カレン……」


 人間の姿のライルと話すのは何ヶ月ぶりだろう。

 猫として過ごした一ヶ月は会話はしていても人間の姿ではなかった。

 しかし、その前は……人間の姿であってもまともな会話などしただろうか。

 話しにくかったし、話したくなんてなかった。それに、ライルもライルで私のことは眼中に無い様子だった。

 婚約はしたものの、ほぼ他人。そんな状態だった。


「……ありがとう。お前のおかげで、元の姿に戻れた」


 急にライルが私を抱きしめた。


「えっ、ら、ライル様!?」
「お前がいなくては俺はどうしようもできなかった。……カレンがそばにいてくれて、本当に良かった」


 私よりも一回り大きい体が私を包む。男らしい、ゴツゴツした骨の感覚と人肌の体温が伝わってくる。


「わぁ、急に僕の店でいちゃつき始めちゃった~」
「い、イチャついてなどいない!」
「そうですわ! 茶化さないでくれます!?」


 へらへら笑ってからかうへクセに慌てて返す。

 ライルはばっと離れて、元いた場所へ座った。

 別にこれはイチャイチャしているというわけではなく、人間に戻れたことの感激でライルが飛びついてきただけだ。

 人間の姿だから驚いたものの、猫の姿ならよくライルは飛びついてきていたし、それと同じ感覚だ。多分。


「あはは、そんなに必死になって言わなくてもいいのに」
「お前が変なことを言うからだろう!?」
「えぇ、別に変なことなんて言ってないよ~?」
「からかうのも大概にしてくれます!?」
「もう、二人とも声大っきいなぁ……」


 やれやれ、とでも言いたげな様子でへクセは紅茶を飲んだ。

 空になったカップを置いて、へクセは崩れた前髪を耳にかけた。


「……ソルシエール」
「ん、なあに?」
「俺に呪いをかけたことはあれだが……依頼者の令嬢のことを話してくれたり俺を元の姿に戻してくれたり……協力してくれたこと感謝する」
「あはは、どういたしまして」


 ライルは律儀に礼を述べた。へクセは笑って軽く受け流していた。

 和やかな空気が流れる中、へクセは今度は三人分の紅茶を用意しに、また奥の方へ消えていった。
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