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38.猫になった婚約者と魔女のルール

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「ところで、どうしてへクセはライル様を猫に?」


 へクセもライルへの私怨で呪いをかけたのではないはず。さっきは怒られて呪いをかけていたけど、あれも約束を反故にしなければ発動しないようだった。変わり者だとは思うが、基本的にはいい人だ。


「お前、誰かに頼まれたとか言ってたよな?」


 そうだ、最初にライルは依頼人に頼まれて魔女が呪いをかけに来たと言っていた。

 つまり、へクセに依頼した人がいる。


「あー、うん……そうだよ」
「その依頼人とは誰なんですの?」
「ごめん、名前は言えない」
「なぜだ!」
「僕が相手と結んだ契約の中に、名前を明かさないっていうのがあって……破ると僕も影響を受けるんだ」
「それは……さっきの呪いのようなもの?」
「そうだよ。正式な契約は魔女も契約者も、破ったらペナルティがあるんだ」


 契約や約束は魔女でも破れないのか。確かに、契約者が破ったらペナルティがあるのに魔女にない場合、契約者が一方的に不利だ。魔女側は報酬を先に受け取ったのにも関わらず、内容を遂行しないということも考えられる。

 魔女が頼みを遂行してから報酬を渡すという方法が確実だろう。しかし、魔女側にペナルティがないとそれも抜け道が出てくる。

 そもそも、魔女側に力を求めて頼る以上、依頼人は立場が下だ。魔女が頼みを聞いてくれなければ、何も出来ない。

 対等な関係を築くために、魔女もペナルティを受けるようになっているのだろう。


「なぜそんな面倒なことをするのだ? 契約者はともかく、お前にメリットはないだろう」


 契約者にとっては嬉しいが、魔女にとっては邪魔なものだ。ライルの言う通りメリットはない。


「んー……魔女の中で決まってる規約っていうか……守らないとそれはそれで面倒なんだよねー」


 へクセはのんびりとした口調で言った。魔女の中で決まってる規約か。やはり、魔女は複数いるのか。

 魔女も特有のコミュニティがあるのかもしれない。


「魔女も魔女で大変なんですね」
「そうなんだよー、まあやばいペナルティは設定しないけどさ」
「自分で設定できるのか?」
「そうだよー。ま、契約内容によるけどね。ちゃんとした場面では契約者にも伝えるよ。双方が合意して契約するんだ」


 色々、魔女のルールがあるみたいだ。どこの誰が決めているのかは知らないが、決まりが厳しそうだ。


「だが、お前。さっきは俺に伝えなかったではないか!」
「あれは約束だもん。そんな義務ないし」
「約束と契約は違いますの?」
「全然違うよー」


 同じものかと思っていた。さっきの話から推察すると、約束よりも契約の方が重いのか?


「約束は契約の軽い版って感じ」
「そうなのか……」
「説明するの面倒だから詳細は省くけどねー」


 へクセはお茶を飲んだ。ふうっと一息ついて、カップを置いた。
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