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35.猫になった婚約者とへクセ

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「その……カレン達の言うところに魔女はいないと思う……」


 目を泳がせて、へクセは言った。


「可能性が低いことは分かってる! その上で頼んでるんだぞ!」


 ライルがシャーッと吠えた。苛立った様子でへクセに向けて声を荒らげる。


「可能性が低いっていうか……そこに猫ちゃんに変えた魔女がいないって断言できるんだよ」


 断言? そんなこと可能なのだろうか。確かに噂は怪しいとはいえ、得た情報の中では有力だと思えた。

 調査してみる価値はあるはずだ。

 ライルを猫に変えた魔女のことをへクセが知っているのなら、絶対に違うと言えるだろう。

 しかし、そんなことが有り得るだろうか?


「なぜ断言できるんだ! そんなの俺を猫に変えた奴か、そいつを知ってる奴にしかできないだろう!」


 シャーッと再びライルが声を荒らげる。


「あー……そうなんだけど……」


 へクセは目を泳がせている。

 気まずそうに自らの手をいじっている。相変わらずはっきりしない物言いだ。


「まさか、知っている……なんて言わないわよね?」
「えーと……その、まさか……なんだけど……」
「知っているの!?」
「あー、まあ……うん……」
「知っているのか!?」
「……知ってる……けど」


 まさか、本当に知っている? 信じるものなんてほとんどいないであろう魔女を?

 だが、へクセが冗談を言っているようには思えない。そもそも、性格的に冗談だったら平然と言ってのけただろう。本当に知っていたからこその反応だとも言える。

 へクセはそわそわとしていて落ち着きがない。私やライルをチラチラと見て様子を伺っている。


「知っているなら教えてくれ!」
「えっ……わ、ちょっと……!?」


 ようやく人間に戻れるかもしれない手がかりを得たライルは興奮していた。

 目を輝かせて、へクセに擦り寄っている。

 前足をへクセの腹に乗せて、後ろ足で体を支えて詰め寄っていた。

 ライルが勢いよく体当たりしてきたせいで、ライルの体重が加わりへクセはバランスを崩していた。

 後ろに倒れそうになっているへクセに、ライルは構いもせず登ろうとしている。


「ライル様、へクセが困っていますわ」


 後ろから声をかける。

 ライルはハッとした様子でへクセの上から退いた。

 へクセの服にはライルの毛が大量に着いていた。


「す、すまない。つい興奮して」
「ん……いや、大丈夫だよ」


 謝るライルに、毛を軽く払いながらへクセは言った。


「……魔女を知っているとは本当なの?」
「ほ、本当だよ?」
「嘘だったら承知せんぞ!」
「嘘じゃないって!」


 へクセはため息をついた。困ったような顔をして、頬をかく。
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