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26.猫になった婚約者と詐欺師

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「なぁ、カレン……魔女の手がかりになりそうなものは、まだなにも見つからないのか……?」


 横に座っていたライルがしょんぼりとした様子で言った。

 魔女について調査を使用人に頼んでから、既に二週間以上が経っている。一刻も早く元に戻りたいであろうライルにとって、一つでも手がかりが欲しいところだろう。


「……使用人からは何も。魔女と騙る者はいても、大抵が詐欺師のようで」
「魔女の手がかりと言えるものはない……ということか?」
「ええ。残念ながら」


 魔女を騙る奇術師や手品師は多い。それを詐欺に利用する者も。それだけ奇跡に縋りたい人がいるのだろう。

 だからこそ、使用人にこういった理由で調査を頼んだ。これが予想していたよりも現実には多かった。

 そのせいで肝心の本当の魔女の手がかりが出てこない。噂を聞いて洗ってみれば、悪質な詐欺師。


「魔女の名を借りた詐欺師の検挙率は、お陰様で上がっているようですけれど……」
「それは良いことだが……」


 治安が良くなるのは良い。詐欺師が減るのも。しかし、ライルが一番望んでいる魔女の話が出てこない。


「本当の魔女は用心深いのかもしれませんね」
「だから情報が出てこないと?」
「ええ。偽物ほどよく語り、本物は口を噤む」
「よくあることだな」


 これは本当にどこの世界でもそうだ。偽物ほどよく語る。口八丁で上手く騙し、信じさせる。なぜなら、示せる実力がないからだ。

 反対に本物は語らない。語る必要がないからだ。実力があり、確かな事実を示すことができる。わざわざべらべらと話さずとも信用を得られる。


「それに……もし、私が魔女だとしたら、簡単にバレないように注意しますわ」
「俺もだ。できる限り慎重に動く」


 魔女だと周囲に分かれば色々と面倒だからだ。力を上手く使えば商売になるかもしれない。だが、リスクも大きい。

 見世物にされるか、人体実験されるか、はたまた都合の良いように扱われるか。少なくとも平穏な生活は遠のくだろう。


「仕方ないが、もう少し待ってみるしかないのか……」
「そうですね……それで情報が集まらなければ、お父様の力を借りるなりなんなりするしかありませんわ」


 使用人に伝えた話をよりリアルなものにして、お父様に伝え協力してもらう。魔女などという与太話を簡単には信じてもらえないだろう。動いてもらうための策を練っておいた方が良い。


「早く戻りたいなぁ……」


 ライルは小さい声で言って寝転んだ。近いうちに、情報が手に入れば良いのだが。
 
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