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21.猫になった婚約者と庭の散歩2

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 中庭を散策しその後、外庭へ抜けた。


「おっ、蝶がいるぞ!」
「ええ。あれはアゲハですかね」
「む、たんぽぽが咲いている」
「綺麗ですね」


 庭をゆっくり歩きながら、気になるものがあれば立ち止まって眺める。それをただ繰り返していた。

 人間の時のライルならば、興味なんて欠片も向けないだろう。そう思うようなものも今のライルには違って見えるのか、嬉々として観察していた。


「庭を歩くのがこんなに楽しいものだとはな……今まで気がつかなかった」
「あら、それはもったいないことを」
「うむ。しかし、気がつけた。気がついた時から楽しめば良いのだ」
「ふふ、そうですね」


 芝生の上をライルはとことこ歩く。芝を踏む感触が楽しいのか、数歩進んでは立ち止まる。座って肉球を見て、もう一度歩く。その繰り返し。

 歩く際は尻尾を垂直に立てている。その様子を見ると、楽しんでいることが分かる。

 たまに走ってみたり、ごろりと寝っ転がってみたり。思い思いに楽しんでいるようだ。


「日向ぼっこも良いなぁ……」


 陽射しを体いっぱいに浴びて、目を細めている。確かに、暖かい太陽の光を浴びながら寛ぐのは心地が良い。

 ごろごろと喉を鳴らしている。とてもリラックスしているようだ。


「あの、ライル様」
「なんだ……?」
「撫でてもよろしいでしょうか?」
「うむ……良いぞ……」


 眠いのかもしれない。いつものハキハキした物言いではなく、むにゃむにゃと話している。可愛い。

 うとうとしてはいるものの、許可は頂いたので遠慮なく撫でる。

 毛が熱い。暖まったせいだろう。

 手を上下に動かす。陽射しを浴びた猫はもふもふ具合が増す気がする。柔らかな毛に手が包まれて気持ちいい。癒される。


「今日は良い天気ですね」
「そうだな……良い天気だ……」


 雲ひとつない、真っ青な空を見上げる。太陽を遮るものがないから眩しい。風はふわりと髪を揺らす程度に吹いている。優しい風だ。


「たまには……こんな日も、良い……なぁ……」


 それだけ言ってライルは目を閉じた。規則正しい息遣いが聞こえる。とうとう眠ってしまったようだ。

 ライルが起きるまで、私もここでのんびりしていよう。実は部屋を出る前に、本を一冊持ってきていた。

 本を開く。

 文字の上に目を滑らせる。時折、ライルに目をやりながら、ページを進めていった。
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