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12.猫になった婚約者と美味しいおやつ

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「そういえば、ライル様」


 声をかけるとライルがハウスから出てきた。尻尾を垂直にピンと伸ばし、とことこと歩いてくる。

 歩きながら、ライルは「なんだ?」と答えた。


「前に、お店で液状のおやつを買ったでしょう?」
「ああ、そんなものあったな」
「せっかく買ったのに、まだ一度も食べていないと思って」
「……確かに、口にしていない」


 机の引き出しに手をかけ、棒状の包みを一つ取った。中身は液体状になっている。これはどんな猫もひとっ飛びで寄ってくる。猫にとってはそれくらい美味しいらしい。

 子供の頃、こっそり家を抜け出してあの雑貨屋でこれを買っていた。もちろん、庭に来た野良猫にあげて愛でるためでだ。


「どうぞ、ライル様。おやつですよ」
「……これは、このまま……?」
「あら、お皿に出した方が良かったですか?」
「いや……その、お前の手から食べるのが少し恥ずかしくて……」


 緑の瞳を逸らして俯き、呟いた。とても可愛い。このアングルだと後頭部がよく見える。猫耳ともふもふの毛のコラボがたまらない。ああ、本当に可愛い。猫の後頭部は見ているだけで癒される。

 恥ずかしいって、ライルにそんな感情あったんだ。と少し頭に浮かんだが、後頭部で全てがどうでも良くなった。


「おい、大丈夫かカレン。おい、おいってば」


 ふにっとした柔らかい感触と軽めの重力が手に伝わる。何かと思って下を見れば、いつの間に横に来ていたらしい。ライルが私の手を、肉球で叩いていた。


「はぁ……天国ですわ……」
「どっ、どうしたんだ……?」


 首を傾げ、上目がちに覗いてくる。今日はとことん可愛い。ライルには悪いが、猫にされて正解だったと思う。こんな美形の猫になれて、どの仕草をしても可愛くなるのだから。

 ああ、いけない。いつまでもぼーっとしていてはだらしない。すました顔に引き戻さなくては。


「申し訳ありません、少々考え事を」
「考え事? なんだそれは」
「些細な問題ですわ。それより、おやつを食べましょう」
「あ、ああ……そうだな」


 ライルの目の前にそれを差し出す。少し躊躇い、ほんの一瞬だけ間が空いた。そして、ちろりと舌を出して舐めた。


「……お、美味しい!」


 一言、そう言って夢中になって食べ始めた。私は必死におやつを舐めるライルを眺めていた。

 途中から両手でおやつを抱え始め、可愛さが今日見たうちの最高潮に達した。

 ああ、本当に……可愛いなぁ。ただそれだけの感情でご機嫌そうなライルを見つめていた。
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