【完】口癖

翠月 歩夢

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あと5分

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「待って! あと五分!」


 私と一番仲のいい友達、夏香なつかはこれが口癖だ。一緒に課題をやっている時も遊びに行く時の待ち合わせに遅れた時も、そろそろ帰ろうかと別れる時も……いつも必ず言う。


「はいはい、あと五分ね」
「へへっ、ありがと!」


 ほぼ毎日聞く口癖。もう慣れてしまったため、元から「あと五分」のつもりで動く。今日は帰り際に言ってきた。どうせ一緒に帰るのに、ここであと五分話してから帰ろうなんて変わってる。


「放課後の教室ってさ、めっちゃ雰囲気良くない!?」
「まぁねー、なんか青春って感じ」
「だよね! この瞬間を生きてるって思うもん!」
「大袈裟だなぁ」


 この瞬間を生きてる。あと五分の次に夏香がよく言う台詞。大体セットで言うんだ。多分、夏香にとっては常に名残惜しさがあるんだろう。ここを逃せば二度と見られない、体験できない、みたいな。


「ほら、もう五分経ったよ」
「えー! もうそんなに!?」
「そんなにって……だってたったの五分だよ?」
「いや、私にとっては一瞬なんだよ!」
「まあまあ、また明日見ればいいじゃん」
「それもそうだけどさー……」


 こんなことを言いながらも五分経てば必ず夏香はその場を離れる。しつこいんだかあっさりしてるんだか分からない。

 鞄を持って、駅まで一緒に歩く。時間は十五分くらいだ。駅に着いたらそこからは別れる。そして、そこでもまた、夏香は言う。きっとそろそろ言うだろう。


「待って! あと五分話そうよ!」


 ほらやっぱり。でもこんな時間も悪くないって思っている自分もいる。なんだかんだ言って、私もこの五分が好きなんだ。
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