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第7話 魔女の横顔 (※)
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あれから僕はほとんど無意識に、真下さんが男だということを自分に言い聞かせるようになった。そして男に突っ込む側なのだということも、やはり自分自身に言い聞かせるようになった。それは自分の中に芽生えた感情がこれ以上大きくならないよう、性別や性癖を言い訳に自分は対象外なんだと思い込みたかったのだと思う。そうやって言い訳を探すため観察するうちに、彼女の横顔はそう単純なものではないということに気づかされた。
特別な来客以外にも来客はある。それから収支管理をしていてわかったが、探偵業は繁盛していた。それは真下さんに寄せられる客からの信頼がどれほどのものかを物語っていた。
浮気調査や人探しなどで訪れる来客は、次第に心を開き真下さんに信頼を寄せるようになる。それは、彼女の仕事のスキルが高いという理由だけではないと最近理解した。真下さんは生きることに躓いた人を心から愛し、そして尊敬していた。僕にそうしてくれているように。
ただ、問題が解決し来客を見送る真下さんの横顔に、僕は毎回違和感を覚える。それは真下さんの横顔に安堵や達成感とは違う感情を垣間見るからであり、なぜ男と最後までしないのか? という疑問に似ていた。
今日も特別な来客があって、いつものように真下さんの下半身は膨れている。この会社に来てからもう2ヶ月が過ぎようとしていた。
「好きな人でもできたか?」
僕の股にしなだれて真下さんは自慰を始める。僕が疑問を口にしたその日から、真下さんは僕と自分を慰めるようになった。必ず僕から見えないところで自分の下半身を弄る彼女の姿に、疑問を浮かべてはそれを打ち消す。
「鉄工所に来る仕出屋の女の子だったんです」
何かを隠そうとして関係のないことを口走る。それが呼水になった。
「一生懸命働く姿に惹かれました。こんな性格だから話しかけることもできなかったんです」
「同じくらいの歳なのか?」
「飲み会の時に年齢を知ったのですが、僕よりちょっと年上でした」
「仕出屋と飲み会なんてあるのか? 鉄工所はいい会社だな」
「会社の先輩が僕のために開いてくれたんです。きっと僕はわかりやすかったんだと思います」
「名前はなんていうんだ?」
「染谷さん……」
そう言って、僕は当時名札に書かれた苗字しか知らなかった事実を思い返す。名前も年齢も知らない女性に一方的な思いを寄せ、夜な夜な自慰に耽った。
「先輩の親切を踏みにじって、酔った勢いで彼女を犯しました」
「だから酒を飲まないのか?」
真下さんは酒を嗜むので、買い出しのリストには必ず酒が入っているが、僕は書かれている半分しか買ってこなかった。
「母は水商売をしていましたが、もともと僕は酒を飲まなかったんです」
「じゃあリハビリに酒も加えなければな」
「それってなんのリハビリなんですか?」
「また女性を愛せるようになるリハビリだ」
その言葉はまるで冷や水のようだった。そう感じてしまう自分にも罪悪感を抱き、感情が複雑に入り乱れる。
「彼女を愛する」
混乱し、言い訳のように僕は呟いた。その言葉に真下さんは笑い出した。
「執行猶予中は、か? でもそれは償いではない。示談金でその愛は精算されたんだ」
「でも執行猶予中の犯罪者だ……」
「それは強姦の罪だ。童貞は拗らせると大変だな」
簡単なことのように言うが、僕には真下さんの言葉が難しくて理解できなかった。僕が混乱しているうちに、真下さんは僕の性器を咥える。会話はここで終了した。
いつもはすぐに服を整えて仕事に戻る真下さんが、今日は終わったあとも僕の股間にしなだれていた。
「ノブ、明日旧友が遊びに来るんだ。お弁当を持ってきてくれるらしいから、明日の昼食は作らなくていいぞ」
「わかりました。外で適当に食べてきます」
それは特別な来客という意味だと思った。
「ノブの分も……作ってきてくれるらしいから……一緒にどうだ……?」
目を背け、恥ずかしそうに言う真下さんの横顔をまじまじと見てしまう。初めて見る横顔だったからだ。はい、と僕は答えてその横顔に触れたい衝動をグッと堪える。
「女性なんですか?」
「男友達と、その娘だ。父親はいい加減な輩だが、娘がとてもかわいくて美しい。私なんかよりもすごい魔女なんだぞ」
「魔女にも序列があるんですね」
「私は幻術と現象魔法くらいしかまともに使えないが、円華は魔法代謝系の肉弾戦もできるんだ。あんなのが敵になったら恐ろしいと思えるくらい偉大な魔女なんだぞ」
真下さんの言っていることの大半が専門用語でわからなかった。でも嬉しそうに語る顔をもっと見ていたくて質問をする。
「お父さんも魔女なんですか?」
とても自然な質問だと思うが、真下さんは信じられない、という顔をした。
「男は魔法使いというんだ。後学のために言っておくが、30歳まで童貞だと魔法使いになれるなんていうのは嘘だぞ」
多分誰も信じていないであろうその俗説を、真下さんはまるで風評被害にあったかのように言う。その表情がとてもかわいくて、つい髪の毛を撫でてしまう。それに言い訳するように付け加えた。
「明日、楽しみですね」
特別な来客以外にも来客はある。それから収支管理をしていてわかったが、探偵業は繁盛していた。それは真下さんに寄せられる客からの信頼がどれほどのものかを物語っていた。
浮気調査や人探しなどで訪れる来客は、次第に心を開き真下さんに信頼を寄せるようになる。それは、彼女の仕事のスキルが高いという理由だけではないと最近理解した。真下さんは生きることに躓いた人を心から愛し、そして尊敬していた。僕にそうしてくれているように。
ただ、問題が解決し来客を見送る真下さんの横顔に、僕は毎回違和感を覚える。それは真下さんの横顔に安堵や達成感とは違う感情を垣間見るからであり、なぜ男と最後までしないのか? という疑問に似ていた。
今日も特別な来客があって、いつものように真下さんの下半身は膨れている。この会社に来てからもう2ヶ月が過ぎようとしていた。
「好きな人でもできたか?」
僕の股にしなだれて真下さんは自慰を始める。僕が疑問を口にしたその日から、真下さんは僕と自分を慰めるようになった。必ず僕から見えないところで自分の下半身を弄る彼女の姿に、疑問を浮かべてはそれを打ち消す。
「鉄工所に来る仕出屋の女の子だったんです」
何かを隠そうとして関係のないことを口走る。それが呼水になった。
「一生懸命働く姿に惹かれました。こんな性格だから話しかけることもできなかったんです」
「同じくらいの歳なのか?」
「飲み会の時に年齢を知ったのですが、僕よりちょっと年上でした」
「仕出屋と飲み会なんてあるのか? 鉄工所はいい会社だな」
「会社の先輩が僕のために開いてくれたんです。きっと僕はわかりやすかったんだと思います」
「名前はなんていうんだ?」
「染谷さん……」
そう言って、僕は当時名札に書かれた苗字しか知らなかった事実を思い返す。名前も年齢も知らない女性に一方的な思いを寄せ、夜な夜な自慰に耽った。
「先輩の親切を踏みにじって、酔った勢いで彼女を犯しました」
「だから酒を飲まないのか?」
真下さんは酒を嗜むので、買い出しのリストには必ず酒が入っているが、僕は書かれている半分しか買ってこなかった。
「母は水商売をしていましたが、もともと僕は酒を飲まなかったんです」
「じゃあリハビリに酒も加えなければな」
「それってなんのリハビリなんですか?」
「また女性を愛せるようになるリハビリだ」
その言葉はまるで冷や水のようだった。そう感じてしまう自分にも罪悪感を抱き、感情が複雑に入り乱れる。
「彼女を愛する」
混乱し、言い訳のように僕は呟いた。その言葉に真下さんは笑い出した。
「執行猶予中は、か? でもそれは償いではない。示談金でその愛は精算されたんだ」
「でも執行猶予中の犯罪者だ……」
「それは強姦の罪だ。童貞は拗らせると大変だな」
簡単なことのように言うが、僕には真下さんの言葉が難しくて理解できなかった。僕が混乱しているうちに、真下さんは僕の性器を咥える。会話はここで終了した。
いつもはすぐに服を整えて仕事に戻る真下さんが、今日は終わったあとも僕の股間にしなだれていた。
「ノブ、明日旧友が遊びに来るんだ。お弁当を持ってきてくれるらしいから、明日の昼食は作らなくていいぞ」
「わかりました。外で適当に食べてきます」
それは特別な来客という意味だと思った。
「ノブの分も……作ってきてくれるらしいから……一緒にどうだ……?」
目を背け、恥ずかしそうに言う真下さんの横顔をまじまじと見てしまう。初めて見る横顔だったからだ。はい、と僕は答えてその横顔に触れたい衝動をグッと堪える。
「女性なんですか?」
「男友達と、その娘だ。父親はいい加減な輩だが、娘がとてもかわいくて美しい。私なんかよりもすごい魔女なんだぞ」
「魔女にも序列があるんですね」
「私は幻術と現象魔法くらいしかまともに使えないが、円華は魔法代謝系の肉弾戦もできるんだ。あんなのが敵になったら恐ろしいと思えるくらい偉大な魔女なんだぞ」
真下さんの言っていることの大半が専門用語でわからなかった。でも嬉しそうに語る顔をもっと見ていたくて質問をする。
「お父さんも魔女なんですか?」
とても自然な質問だと思うが、真下さんは信じられない、という顔をした。
「男は魔法使いというんだ。後学のために言っておくが、30歳まで童貞だと魔法使いになれるなんていうのは嘘だぞ」
多分誰も信じていないであろうその俗説を、真下さんはまるで風評被害にあったかのように言う。その表情がとてもかわいくて、つい髪の毛を撫でてしまう。それに言い訳するように付け加えた。
「明日、楽しみですね」
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