幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
238 / 240
第4部 手負いの獣に蝶と花

第29話 花よりお菓子?(アシュレイ視点)

しおりを挟む
 テオは随分と幸せそうで、しばらく諜報活動は任せられないほどに心の中がダダ漏れだった。しかし自分もそうだった、と思えば心がくすぐったくなる。そういえば最近ノアに花を買っていなかったと思い出し、今日は花と菓子を買ってやろうと決めた。

 しかし今日はルイスの研究が捗っているようで、なかなかどうして2人きりになれない。菓子はルイスの分も買ってきていた。ちょうどいいかと2人がかじりつく机の端にそっとそれを置く。

「差し入れだ。今日はなかなか捗っているようだな」

「え、ええーー! アシュレイありがとう、お腹空いてたんだ! アシュレイも一緒に食べよう?」

 ルイスは思っていた以上に喜んだ。こんなに喜ばれると2人きりがいいとは言い出せない。

「今日は帰る。それに買ってきてなんだが、俺はあまり菓子は得意じゃなくてな」

 俺は立ち上がり、出口の扉に向かおうとした時、ノアが俺を呼び止めた。そして鼻を高くあげて匂いを嗅ぎはじめる。

「アシュレイ……花……?」

 ノアは驚きの嗅覚で俺が隠し持っていた花を
見つけだす。

「ああ、オットーに頼まれていたんだ。ノアも欲しいか?」

 ルイスがいる手前気恥ずかしくて、よくわからない嘘をついてしまった。なんともいえない空気が、2人を欺けていないことを物語っている。

「兄様たちが早く帰ってこいって言ってたの忘れてた。はやく帰らないと兄様たちがキスをしてくれないんだ」

 あんな溺愛しておいてキスをしてくれない日などなかろう。

「ルイス、俺はもう帰るから……」

「アシュレイは僕が気を使ってるように思ってるかもしれないけど、本当なんだ。ノア、続きは明日ね?」

 ノアは手を前にウロウロさせて困っているようだった。ルイスはノアの返事を待たずして塔を後にする。

「研究の邪魔をしてしまったな……すまん……」

「そ、そんな! 僕が花のことなんか言ったから……!」

「花などオットーに頼まれたって死んでも買わない。本当はノアに渡したかったんだ。この花、ノアが好きだと言っていただろう……?」

「はい……」

 差し出した花を受け取るノアは、あまり喜んでいるようには見えなかった。菓子や研究の方がいいに決まっている。大失敗だ。

「アシュレイ、僕はこの花を国境に立ちはだかる高い山を登って、いっぱい摘んで、それで……それで……アシュレイにもらった分の愛を返したい。僕は一輪だって……!」

 ノアの瞳に魔法灯の光が入り込み、美しく輝く。ノアは花を俺からの愛だと思っている。それを今日のこの日まで、与えた本人がお菓子と同等くらいにしか考えていなかった。

「ノア……花を摘んでもらうより……その……今日もこの前のように……俺を愛してくれないか?」

 ノアが信じられないという顔で花を机に置いたので、俺は大慌てで取り繕う。

「いや! 男たるものこんなお願いは恥も承知で、しかし! ノアのように優しく愛したいのだが、俺には……!」

 言ってるそばからノアは俺に抱きつき、王も使っていたあの魔法で動きを封じた。

「で……できればその魔法は使わずに……」

「はい……はい……僕の愛を受け取ってください……」

 フッと体に自由が戻ったから大慌てでノアを抱き上げ、頬に唇に余すことなくキスをする。

 花は愛だ。優しくノアを愛せない俺にとって、花はノアへの愛そのものだ。今度からはそのつもりで真剣に選び、ノアに俺の愛を伝えよう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...