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第4部 手負いの獣に蝶と花
第29話 花よりお菓子?(アシュレイ視点)
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テオは随分と幸せそうで、しばらく諜報活動は任せられないほどに心の中がダダ漏れだった。しかし自分もそうだった、と思えば心がくすぐったくなる。そういえば最近ノアに花を買っていなかったと思い出し、今日は花と菓子を買ってやろうと決めた。
しかし今日はルイスの研究が捗っているようで、なかなかどうして2人きりになれない。菓子はルイスの分も買ってきていた。ちょうどいいかと2人がかじりつく机の端にそっとそれを置く。
「差し入れだ。今日はなかなか捗っているようだな」
「え、ええーー! アシュレイありがとう、お腹空いてたんだ! アシュレイも一緒に食べよう?」
ルイスは思っていた以上に喜んだ。こんなに喜ばれると2人きりがいいとは言い出せない。
「今日は帰る。それに買ってきてなんだが、俺はあまり菓子は得意じゃなくてな」
俺は立ち上がり、出口の扉に向かおうとした時、ノアが俺を呼び止めた。そして鼻を高くあげて匂いを嗅ぎはじめる。
「アシュレイ……花……?」
ノアは驚きの嗅覚で俺が隠し持っていた花を
見つけだす。
「ああ、オットーに頼まれていたんだ。ノアも欲しいか?」
ルイスがいる手前気恥ずかしくて、よくわからない嘘をついてしまった。なんともいえない空気が、2人を欺けていないことを物語っている。
「兄様たちが早く帰ってこいって言ってたの忘れてた。はやく帰らないと兄様たちがキスをしてくれないんだ」
あんな溺愛しておいてキスをしてくれない日などなかろう。
「ルイス、俺はもう帰るから……」
「アシュレイは僕が気を使ってるように思ってるかもしれないけど、本当なんだ。ノア、続きは明日ね?」
ノアは手を前にウロウロさせて困っているようだった。ルイスはノアの返事を待たずして塔を後にする。
「研究の邪魔をしてしまったな……すまん……」
「そ、そんな! 僕が花のことなんか言ったから……!」
「花などオットーに頼まれたって死んでも買わない。本当はノアに渡したかったんだ。この花、ノアが好きだと言っていただろう……?」
「はい……」
差し出した花を受け取るノアは、あまり喜んでいるようには見えなかった。菓子や研究の方がいいに決まっている。大失敗だ。
「アシュレイ、僕はこの花を国境に立ちはだかる高い山を登って、いっぱい摘んで、それで……それで……アシュレイにもらった分の愛を返したい。僕は一輪だって……!」
ノアの瞳に魔法灯の光が入り込み、美しく輝く。ノアは花を俺からの愛だと思っている。それを今日のこの日まで、与えた本人がお菓子と同等くらいにしか考えていなかった。
「ノア……花を摘んでもらうより……その……今日もこの前のように……俺を愛してくれないか?」
ノアが信じられないという顔で花を机に置いたので、俺は大慌てで取り繕う。
「いや! 男たるものこんなお願いは恥も承知で、しかし! ノアのように優しく愛したいのだが、俺には……!」
言ってるそばからノアは俺に抱きつき、王も使っていたあの魔法で動きを封じた。
「で……できればその魔法は使わずに……」
「はい……はい……僕の愛を受け取ってください……」
フッと体に自由が戻ったから大慌てでノアを抱き上げ、頬に唇に余すことなくキスをする。
花は愛だ。優しくノアを愛せない俺にとって、花はノアへの愛そのものだ。今度からはそのつもりで真剣に選び、ノアに俺の愛を伝えよう。
しかし今日はルイスの研究が捗っているようで、なかなかどうして2人きりになれない。菓子はルイスの分も買ってきていた。ちょうどいいかと2人がかじりつく机の端にそっとそれを置く。
「差し入れだ。今日はなかなか捗っているようだな」
「え、ええーー! アシュレイありがとう、お腹空いてたんだ! アシュレイも一緒に食べよう?」
ルイスは思っていた以上に喜んだ。こんなに喜ばれると2人きりがいいとは言い出せない。
「今日は帰る。それに買ってきてなんだが、俺はあまり菓子は得意じゃなくてな」
俺は立ち上がり、出口の扉に向かおうとした時、ノアが俺を呼び止めた。そして鼻を高くあげて匂いを嗅ぎはじめる。
「アシュレイ……花……?」
ノアは驚きの嗅覚で俺が隠し持っていた花を
見つけだす。
「ああ、オットーに頼まれていたんだ。ノアも欲しいか?」
ルイスがいる手前気恥ずかしくて、よくわからない嘘をついてしまった。なんともいえない空気が、2人を欺けていないことを物語っている。
「兄様たちが早く帰ってこいって言ってたの忘れてた。はやく帰らないと兄様たちがキスをしてくれないんだ」
あんな溺愛しておいてキスをしてくれない日などなかろう。
「ルイス、俺はもう帰るから……」
「アシュレイは僕が気を使ってるように思ってるかもしれないけど、本当なんだ。ノア、続きは明日ね?」
ノアは手を前にウロウロさせて困っているようだった。ルイスはノアの返事を待たずして塔を後にする。
「研究の邪魔をしてしまったな……すまん……」
「そ、そんな! 僕が花のことなんか言ったから……!」
「花などオットーに頼まれたって死んでも買わない。本当はノアに渡したかったんだ。この花、ノアが好きだと言っていただろう……?」
「はい……」
差し出した花を受け取るノアは、あまり喜んでいるようには見えなかった。菓子や研究の方がいいに決まっている。大失敗だ。
「アシュレイ、僕はこの花を国境に立ちはだかる高い山を登って、いっぱい摘んで、それで……それで……アシュレイにもらった分の愛を返したい。僕は一輪だって……!」
ノアの瞳に魔法灯の光が入り込み、美しく輝く。ノアは花を俺からの愛だと思っている。それを今日のこの日まで、与えた本人がお菓子と同等くらいにしか考えていなかった。
「ノア……花を摘んでもらうより……その……今日もこの前のように……俺を愛してくれないか?」
ノアが信じられないという顔で花を机に置いたので、俺は大慌てで取り繕う。
「いや! 男たるものこんなお願いは恥も承知で、しかし! ノアのように優しく愛したいのだが、俺には……!」
言ってるそばからノアは俺に抱きつき、王も使っていたあの魔法で動きを封じた。
「で……できればその魔法は使わずに……」
「はい……はい……僕の愛を受け取ってください……」
フッと体に自由が戻ったから大慌てでノアを抱き上げ、頬に唇に余すことなくキスをする。
花は愛だ。優しくノアを愛せない俺にとって、花はノアへの愛そのものだ。今度からはそのつもりで真剣に選び、ノアに俺の愛を伝えよう。
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