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第4部 手負いの獣に蝶と花
第19話 迫真の演技
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遣いガラスの返信には、客層や来客の日、更に客の好みなど知りたくもないようなことまで事細かに書かれていた。しかしそれはクルトがなんとしてでも主人を救いたいと願いを託している証でもあった。
バーンスタイン卿とブラウアー兄弟はその情報の中から定期的に訪れる客をチョイスして非番の日取りを決めた。注目したのはクルトが客のオーダーに応えてカミルの手足を縛る点。そういった趣味だったならば自分で縛り上げるものを、わざわざ使用人に準備をさせるということは、カミルが元軍人であることを知っている可能性が高いとの見解だった。
その客は決まった日時に訪れることから、一行は前日に王都を出発し、近場の宿で一泊。そこでクルトと落ち合い、次の日の打ち合わせをすることとなった。
そして今。ジル以外の面々はクルトに用意された部屋で固唾を呑んでことの顛末を見守っている。客の帰りではなく来訪時に接触する。これはブラウアー兄弟からの提案だった。欲望を満たす前と後では格段に成功率が違うだろうと。
思い返せば、僕が偶然会った客も、帰り際だったから揶揄われる程度で深追いをされなかったのだ。聞けばジルは先の謀反の調査の際も、的確に相手の分析を行なっていたという。自分一人ではきっと失敗していただろう。そう思うと心がジンと痺れる。
その時、玄関の扉が勢いよく開け放たれた。
玄関のエントランスには先ほどからジルが待機していた。一発勝負だ。祈るように見つめる。
「ここの使用人か?」
ジルは振り返りざま来客に無躾な質問をする。しかし振り返った先にいたのは使用人とは思えない毅然とした紳士だった。計算通りだ。
「失礼。先ほどから使用人が見当たらず、当の本人も姿を現さないので途方に暮れておりました。貴殿もカミルに?」
「ええ。ジルベスタ=ブラウアー様」
ジルのみならず別室で見ている全員が体を強張らせる。ここで失敗かと思ったが、ジルは平然と続けた。
「どこかで……? 貴殿も武官ですか?」
「いいえ。しかし貴方が思っている以上に貴方は有名ですよ。奇跡の器なんかよりも、ずっと」
紳士はジルを品定めするように見ては顎を触る。体格はジルよりもずっと小さいが、魔人らしい魔人だった。
「王都からはここは遠かったでしょう。しかし約束も無しに来るのは懸命ではありませんね」
「なぜそれを……」
「私が先約です」
ジルは項垂れて、そうですかと落胆した。ジルがなにかを言おうと顔を上げた時、紳士は遮るように言った。
「カミルとはクレマー師団長配下で一緒でしたね。しかし2年も前の話だ。今日はどういったご用件で? もしよろしければ私がお伝えしましょう」
エントランスに静寂が訪れる。僕はここまでかと目を瞑る。バーンスタイン卿も、ルークもきっと同じように思ったに違いない。しかし僕たちはジルを侮っていたのだ。
「軍人であることも友人であることも関係がない。今日は全く個人的な話をしに来た。貴殿が先約であれば先に上がりください」
「おやおや、軍に知られてはまずい話ですか? 私もカミルに同じような相談をされているのですよ」
「どうせカミルの相談など金の無心でしょう。私の相談はそんなものではない」
「軍にも友人にも明かしたくない、金の話でもない。それはカミルに相談して解決するのですか?」
紳士はジルににじり寄る。ジルはそれを真正面から待っていた。演技なのか不明だが、困惑している雰囲気を出す。
「貴殿は私の名を存じ上げていた……なぜです! 私がここに来たことをカミルにも……誰にも……!」
「ええ、誰にも言いませんよ。私は貴方の力になりたいのです」
紳士の手がジルの胸板を撫でた時、ドアの隙間を僕の上で覗くルークが体を揺らした。
「誰にも言えない……欲望があるのです……カミルはそれで金を稼いでいると……」
紳士の手がどんどんとジルの体を下っていく。
「ああ、素晴らしい体だ。ブラウアー家当主はは国の金庫番。兄弟二人は今や指折りの軍人。金ではないのなら女ですか……?」
「違う……」
ジルは恐る恐る紳士の手を掴みゆっくりと尻にあてがう。
「おやおや、どうしました、ここをどうしてほしいのです?」
「1人では……足りないのだ……金を払ったっていい……!」
紳士はうっとりとため息を吐く。そしてジルの尻の割れ目を指で何度もなぞりはじめた。ルークはさっきからバーンスタイン卿に羽交い締めにされ、口も塞がれている。
「一晩に1人では足りない……何度も何人からも……突き上げられたい……」
「貴方ならば金を払ってでもそうしたいと願う人間がごまんといますよ。貴方は幸運だ。私がその相談にうってつけです」
「もう準備はしてある……今晩貴殿だけでもいい……もし可能なら……他にももっと、この際カミルでもいい……」
「カミルは使い物になりません、もしよろしければすぐに出発しましょう」
「カミルにするよりも何倍もしてほしいのです」
「約束しますよ。貴方のような体を求める者が集まっています。馬車で構いませんか? 今ここの使用人と話をつけてきますから、先に馬車へ」
紳士はウキウキと階段を登っていく。それを見届けたジルがこっちにジェスチャーで合図した。バーンスタイン卿もルークも部屋の奥で静かに暴れていたので、僕がドアから手だけを出して、尾行する、と伝えた。
バーンスタイン卿とブラウアー兄弟はその情報の中から定期的に訪れる客をチョイスして非番の日取りを決めた。注目したのはクルトが客のオーダーに応えてカミルの手足を縛る点。そういった趣味だったならば自分で縛り上げるものを、わざわざ使用人に準備をさせるということは、カミルが元軍人であることを知っている可能性が高いとの見解だった。
その客は決まった日時に訪れることから、一行は前日に王都を出発し、近場の宿で一泊。そこでクルトと落ち合い、次の日の打ち合わせをすることとなった。
そして今。ジル以外の面々はクルトに用意された部屋で固唾を呑んでことの顛末を見守っている。客の帰りではなく来訪時に接触する。これはブラウアー兄弟からの提案だった。欲望を満たす前と後では格段に成功率が違うだろうと。
思い返せば、僕が偶然会った客も、帰り際だったから揶揄われる程度で深追いをされなかったのだ。聞けばジルは先の謀反の調査の際も、的確に相手の分析を行なっていたという。自分一人ではきっと失敗していただろう。そう思うと心がジンと痺れる。
その時、玄関の扉が勢いよく開け放たれた。
玄関のエントランスには先ほどからジルが待機していた。一発勝負だ。祈るように見つめる。
「ここの使用人か?」
ジルは振り返りざま来客に無躾な質問をする。しかし振り返った先にいたのは使用人とは思えない毅然とした紳士だった。計算通りだ。
「失礼。先ほどから使用人が見当たらず、当の本人も姿を現さないので途方に暮れておりました。貴殿もカミルに?」
「ええ。ジルベスタ=ブラウアー様」
ジルのみならず別室で見ている全員が体を強張らせる。ここで失敗かと思ったが、ジルは平然と続けた。
「どこかで……? 貴殿も武官ですか?」
「いいえ。しかし貴方が思っている以上に貴方は有名ですよ。奇跡の器なんかよりも、ずっと」
紳士はジルを品定めするように見ては顎を触る。体格はジルよりもずっと小さいが、魔人らしい魔人だった。
「王都からはここは遠かったでしょう。しかし約束も無しに来るのは懸命ではありませんね」
「なぜそれを……」
「私が先約です」
ジルは項垂れて、そうですかと落胆した。ジルがなにかを言おうと顔を上げた時、紳士は遮るように言った。
「カミルとはクレマー師団長配下で一緒でしたね。しかし2年も前の話だ。今日はどういったご用件で? もしよろしければ私がお伝えしましょう」
エントランスに静寂が訪れる。僕はここまでかと目を瞑る。バーンスタイン卿も、ルークもきっと同じように思ったに違いない。しかし僕たちはジルを侮っていたのだ。
「軍人であることも友人であることも関係がない。今日は全く個人的な話をしに来た。貴殿が先約であれば先に上がりください」
「おやおや、軍に知られてはまずい話ですか? 私もカミルに同じような相談をされているのですよ」
「どうせカミルの相談など金の無心でしょう。私の相談はそんなものではない」
「軍にも友人にも明かしたくない、金の話でもない。それはカミルに相談して解決するのですか?」
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「貴殿は私の名を存じ上げていた……なぜです! 私がここに来たことをカミルにも……誰にも……!」
「ええ、誰にも言いませんよ。私は貴方の力になりたいのです」
紳士の手がジルの胸板を撫でた時、ドアの隙間を僕の上で覗くルークが体を揺らした。
「誰にも言えない……欲望があるのです……カミルはそれで金を稼いでいると……」
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「ああ、素晴らしい体だ。ブラウアー家当主はは国の金庫番。兄弟二人は今や指折りの軍人。金ではないのなら女ですか……?」
「違う……」
ジルは恐る恐る紳士の手を掴みゆっくりと尻にあてがう。
「おやおや、どうしました、ここをどうしてほしいのです?」
「1人では……足りないのだ……金を払ったっていい……!」
紳士はうっとりとため息を吐く。そしてジルの尻の割れ目を指で何度もなぞりはじめた。ルークはさっきからバーンスタイン卿に羽交い締めにされ、口も塞がれている。
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