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第4部 手負いの獣に蝶と花
第11話 複雑な兄弟愛
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「なるほどね……そもそも男に抱かれることに嫌悪感を抱いているかもしれないし、それが許容できても兄を慕っている可能性があると……」
ルークの言葉にバーンスタイン卿は少し頭を下げた。きっと僕に望みがない回答しか述べられなくて考え込んでいるのだろうと思う。
「カミルはお互いの自己紹介をした時に、真っ先に僕の兄弟について質問しました。家名の継承について話していたので自然な流れでしたが……兄になにか思うことはあるのかと」
「残された唯一の家族ともなれば、そこに特別な愛がなくても、戻ってきてほしいと願うのは当たり前のことだとは思う。ブラウアー家は兄2人がルイスを愛しているが、長男は次男を他の男の練習台に差し出すくらいだしな」
ジルがルークを見ながら笑って話す。さっきジルの貞操を守ろうと立ちはだかったルークを見た後だから笑える冗談だった。
「兄は探せないかもしれないが、その商売とやらはやめさせなければな。これはテオの心情を慮って言っているのではない。そういった常軌を逸した斡旋は犯罪の温床になっているんだ」
ルークは苦々しい表情で俯く。それだけではカミルの心を救済できないことを前提にした苦渋の決断だからだ。
「訪問時にテオは客とすれ違ったと言ったな。そいつを締め上げて斡旋した人物を吐かせるのはどうか?」
バーンスタイン卿が事態を好転させようと提案をした。しかしルークの顔は益々曇る。
「なるほどな。しかし同意があるとはいえ犯罪ギリギリの組織だぞ。締め上げたくらいで口を割るとは思えんし、我々にそんな権限もないからな……ジル、こういうの得意だろう?」
「提供者と装って近づくか、別の斡旋元に興味を抱かせるかしかないのではないか? 基本的に常識的感覚が麻痺した変態野郎は、自分の趣味に利のある動機でしか動かせない」
「メルヒャー卿と同じってわけか……」
ルークの呟きに、バーンスタイン卿の表情が一気に固くなる。それを見たルークが小さく謝罪を述べた。
「そういえば、すれ違った時になんだか気味の悪いことを言われました。あまりに不愉快で今まで忘れていましたが、僕を子どもと勘違いしたのか……端的にまとめると、優しく抱いてやるから一晩どうだ? と」
ルークが吹き出して笑い転げる。
「テオはなんて返したんだ?」
「家名を尋ねたら、舌打ちして去りました」
「テオに演技の才覚は……ないな……あんな大きな獲物を狙う男なんだ……ははは!」
ルークがなぜそんなに笑うのか分からなかったが、突然なにかに気づき真顔になった。
「おい、ここにそんな演技ができる奴はいないじゃないか……」
全員が全員の顔を見合わせる。確かに男を口説き落とすことが専門で、男を誘惑する演技ができるように思えなかった。
そこから経験者による誘惑エピソードをかき集めてみたが、バーンスタイン卿は裸が好きだの一点張り、ブラウアー兄弟は弟ルイスの特徴を述べるばかりで、汎用性が全くなかった。
話の筋書きは決まっていた。同じような商売をしたいから、客を紹介してもらうのはどうしたらいいか、という展開に持っていけばいい。しかしこれは結末でありそれまでの筋書きが一切描かれていないのだ。
時計の鐘が鳴る。夜もいい時間だった。
「皆さん……別の案を考えましょう。失敗するだけならまだしも、カミルに被害が出てしまう恐れもあります」
「いや! 明日まで待ってくれ! 今日ルイスに誘惑してもらってみる! アシュレイも裸以外のことを学べ!」
エピソードが無かったことが悔しいのかルークは今までにない真剣な声で喚き散らす。ここで今日はお開きとなり、ブラウアー兄弟はルイスを連れて帰り、僕は駐屯地の宿舎に戻った。
ルークの言葉にバーンスタイン卿は少し頭を下げた。きっと僕に望みがない回答しか述べられなくて考え込んでいるのだろうと思う。
「カミルはお互いの自己紹介をした時に、真っ先に僕の兄弟について質問しました。家名の継承について話していたので自然な流れでしたが……兄になにか思うことはあるのかと」
「残された唯一の家族ともなれば、そこに特別な愛がなくても、戻ってきてほしいと願うのは当たり前のことだとは思う。ブラウアー家は兄2人がルイスを愛しているが、長男は次男を他の男の練習台に差し出すくらいだしな」
ジルがルークを見ながら笑って話す。さっきジルの貞操を守ろうと立ちはだかったルークを見た後だから笑える冗談だった。
「兄は探せないかもしれないが、その商売とやらはやめさせなければな。これはテオの心情を慮って言っているのではない。そういった常軌を逸した斡旋は犯罪の温床になっているんだ」
ルークは苦々しい表情で俯く。それだけではカミルの心を救済できないことを前提にした苦渋の決断だからだ。
「訪問時にテオは客とすれ違ったと言ったな。そいつを締め上げて斡旋した人物を吐かせるのはどうか?」
バーンスタイン卿が事態を好転させようと提案をした。しかしルークの顔は益々曇る。
「なるほどな。しかし同意があるとはいえ犯罪ギリギリの組織だぞ。締め上げたくらいで口を割るとは思えんし、我々にそんな権限もないからな……ジル、こういうの得意だろう?」
「提供者と装って近づくか、別の斡旋元に興味を抱かせるかしかないのではないか? 基本的に常識的感覚が麻痺した変態野郎は、自分の趣味に利のある動機でしか動かせない」
「メルヒャー卿と同じってわけか……」
ルークの呟きに、バーンスタイン卿の表情が一気に固くなる。それを見たルークが小さく謝罪を述べた。
「そういえば、すれ違った時になんだか気味の悪いことを言われました。あまりに不愉快で今まで忘れていましたが、僕を子どもと勘違いしたのか……端的にまとめると、優しく抱いてやるから一晩どうだ? と」
ルークが吹き出して笑い転げる。
「テオはなんて返したんだ?」
「家名を尋ねたら、舌打ちして去りました」
「テオに演技の才覚は……ないな……あんな大きな獲物を狙う男なんだ……ははは!」
ルークがなぜそんなに笑うのか分からなかったが、突然なにかに気づき真顔になった。
「おい、ここにそんな演技ができる奴はいないじゃないか……」
全員が全員の顔を見合わせる。確かに男を口説き落とすことが専門で、男を誘惑する演技ができるように思えなかった。
そこから経験者による誘惑エピソードをかき集めてみたが、バーンスタイン卿は裸が好きだの一点張り、ブラウアー兄弟は弟ルイスの特徴を述べるばかりで、汎用性が全くなかった。
話の筋書きは決まっていた。同じような商売をしたいから、客を紹介してもらうのはどうしたらいいか、という展開に持っていけばいい。しかしこれは結末でありそれまでの筋書きが一切描かれていないのだ。
時計の鐘が鳴る。夜もいい時間だった。
「皆さん……別の案を考えましょう。失敗するだけならまだしも、カミルに被害が出てしまう恐れもあります」
「いや! 明日まで待ってくれ! 今日ルイスに誘惑してもらってみる! アシュレイも裸以外のことを学べ!」
エピソードが無かったことが悔しいのかルークは今までにない真剣な声で喚き散らす。ここで今日はお開きとなり、ブラウアー兄弟はルイスを連れて帰り、僕は駐屯地の宿舎に戻った。
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