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第4部 手負いの獣に蝶と花
第6話 手折られた花と蝶
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片足の縄が解けるとカミルは僕の上着を跳ね除け、ぐるっと仰向けになった。彼からすれば使用人以外の者の気配に恐怖を感じていたのだろう。僕と認識すると彼は目を見開き、だんだんと色が無くなっていく。唇から滲む血は、彼がどれだけの苦痛に耐えていたのかを物語っていた。
それを見ていられずに視線を落とすと更なる惨状を目の当たりにする。細い紐で陰茎をきつく結ばれていたのだ。僕は再びもう片方の足の縄を解き、そして腕の縄を解いた。
「なぜこんなことを……! あの男を探し出し、必ずや制裁を加えます!」
カミルは少し息を漏らしながら体を起こし、ベッドの上にあぐらをかいた。目のやり場に困って顔を背けてしまったので、漏らした息の意味がわからず困惑する。
「こういう商売ですので」
さっきから考えないようにとしていた真実を突きつけられ、頭を殴られたような感覚に陥る。
「商売で、血が出るほど唇を噛み締めますか? 血が滲むほど食い込ませて縄を解こうとしますか!?」
「演出ですよ。こういった大男が泣き喚き、痛がる方が客が喜ぶんです。貴方のような小さな魔人の客が」
その侮辱を含んだ言葉に顔をあげると、カミルは冷淡な顔で微笑んだ。
「丁度よかった、お礼がしたいと思っていたのです。私を試してみますか?」
お代は結構ですよ、そう言いながら微笑むカミルは、先日とは別人のようだった。しかし僕が呆然と時を忘れていたら、嘲笑うかのように言ったのだ。
「手折られた花には興味が無いんでしたね。手折る勇気もないくせに」
今まで半信半疑だった心が一気に壊される。彼は明確な意思を持って、僕を侮辱している。今、投げつけられた侮辱を返すこともできただろうし、彼を犯すこともできただろう。でも、僕は思っている以上に傷ついていた。
重苦しい沈黙を縫うように、突然使用人が僕の前を通過する。僕は驚き体を仰け反らせるが、使用人は全く動じず、ティーセットをベッドの横のテーブルに並べはじめた。
その常軌を逸した光景に驚愕していると、カミルがひっそりとつぶやいた。
「今日はなにをしにきたのです?」
ハンカチを取り出そうと思ったが、さっき上着と共に床に落としたことを忘れて、ただ手が胸を撫でた格好になった。僕はベッドの横に投げ出された上着だけを持って足速に部屋を後にする。しかし、扉を通過した時に未練に囚われた。
しばらく扉の前で、もう一度彼に話しかけようか迷う。1週間言い訳を考えてここにきたのだ。彼に対する想いの方が上回っていて、未だなにか誤解があったのではと思ってしまう。
「クルト、なぜ客がいると知りながら彼を通したのだ」
カミルの声が部屋からひっそりと漏れ出す。クルトとは使用人の名前だろうか。詰め寄るような言葉とは裏腹に、カミルの声は優しかった。それが不気味で仕方がなかった。
「彼に軽蔑されれば、こんな商売をやめると思った。だから通したのだろう?」
使用人はなにも答えず、カチャカチャと食器を片付けていた。
「クルトは優しいな」
「ではこんな商売はもうやめて……」
「遅かれ早かれ知ることになったんだ」
「坊ちゃん……もう……おやめください……坊ちゃん……」
使用人は泣き出し、僕が入っていけるような雰囲気ではなくなってしまった。使用人はカミルの商売をやめさせたいようだったが、カミルの意思は固い。それを知れて十分だと感じ、僕は屋敷を後にした。
それを見ていられずに視線を落とすと更なる惨状を目の当たりにする。細い紐で陰茎をきつく結ばれていたのだ。僕は再びもう片方の足の縄を解き、そして腕の縄を解いた。
「なぜこんなことを……! あの男を探し出し、必ずや制裁を加えます!」
カミルは少し息を漏らしながら体を起こし、ベッドの上にあぐらをかいた。目のやり場に困って顔を背けてしまったので、漏らした息の意味がわからず困惑する。
「こういう商売ですので」
さっきから考えないようにとしていた真実を突きつけられ、頭を殴られたような感覚に陥る。
「商売で、血が出るほど唇を噛み締めますか? 血が滲むほど食い込ませて縄を解こうとしますか!?」
「演出ですよ。こういった大男が泣き喚き、痛がる方が客が喜ぶんです。貴方のような小さな魔人の客が」
その侮辱を含んだ言葉に顔をあげると、カミルは冷淡な顔で微笑んだ。
「丁度よかった、お礼がしたいと思っていたのです。私を試してみますか?」
お代は結構ですよ、そう言いながら微笑むカミルは、先日とは別人のようだった。しかし僕が呆然と時を忘れていたら、嘲笑うかのように言ったのだ。
「手折られた花には興味が無いんでしたね。手折る勇気もないくせに」
今まで半信半疑だった心が一気に壊される。彼は明確な意思を持って、僕を侮辱している。今、投げつけられた侮辱を返すこともできただろうし、彼を犯すこともできただろう。でも、僕は思っている以上に傷ついていた。
重苦しい沈黙を縫うように、突然使用人が僕の前を通過する。僕は驚き体を仰け反らせるが、使用人は全く動じず、ティーセットをベッドの横のテーブルに並べはじめた。
その常軌を逸した光景に驚愕していると、カミルがひっそりとつぶやいた。
「今日はなにをしにきたのです?」
ハンカチを取り出そうと思ったが、さっき上着と共に床に落としたことを忘れて、ただ手が胸を撫でた格好になった。僕はベッドの横に投げ出された上着だけを持って足速に部屋を後にする。しかし、扉を通過した時に未練に囚われた。
しばらく扉の前で、もう一度彼に話しかけようか迷う。1週間言い訳を考えてここにきたのだ。彼に対する想いの方が上回っていて、未だなにか誤解があったのではと思ってしまう。
「クルト、なぜ客がいると知りながら彼を通したのだ」
カミルの声が部屋からひっそりと漏れ出す。クルトとは使用人の名前だろうか。詰め寄るような言葉とは裏腹に、カミルの声は優しかった。それが不気味で仕方がなかった。
「彼に軽蔑されれば、こんな商売をやめると思った。だから通したのだろう?」
使用人はなにも答えず、カチャカチャと食器を片付けていた。
「クルトは優しいな」
「ではこんな商売はもうやめて……」
「遅かれ早かれ知ることになったんだ」
「坊ちゃん……もう……おやめください……坊ちゃん……」
使用人は泣き出し、僕が入っていけるような雰囲気ではなくなってしまった。使用人はカミルの商売をやめさせたいようだったが、カミルの意思は固い。それを知れて十分だと感じ、僕は屋敷を後にした。
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