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第4部 手負いの獣に蝶と花
第3話 愛する人
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「テオ! どこに行ってたんだ!」
宮殿前の祭事の広場に戻るなり、リアムは僕に駆け寄り腕を掴んだ。傷口に触れられ顔を歪ませると、彼は慌てて手を離す。
「怪我……? なぜ……ギード! ギード!」
「なんだなんだ! 紙でも落ちていたのか!」
リアムに呼ばれて国王陛下が向かってくる。彼らは僕には理解できない冗談で通じ合っている。その幸福そうなやりとりをぼんやり眺めた。今日の祭事では最敬礼は禁止されていた。その配慮が忌々しく感じる。
「アシュレイから報告があった。そのうち捕らえてくるだろうから静かに待っていろ。今回は誰の命もかかっていないのだ、気楽なものだろう」
「違う! テオが怪我をしている」
「ああ、そういえばそんなことも言っていたな。テオ、見せてみろ」
陛下が腰を折って僕に近づいてくる。手負いの兵卒も気を留めず、リアムの願いだから仕方なしに心配する。そんな国王の雑な対応が無性に腹立たしくて、手に力が入った。その時顔の横から大きな熱に包まれた。
「陛下、矢尻に毒が塗布されていないか一度駐屯地常駐の医者に手当てをさせたいと存じます。私は軍を退役して久しく、可能であれば駐屯地への入場許可を」
カミルは僕をすっぽりと抱きしめて、陛下を静止させようと右手を前に出した。
「テオ、お前がそう望むのであれば手配をしよう。すまんが訓練中の事故とか適当に言い訳をしておいてくれ。おい! オットー!手配をしろ!」
陛下に命じられたバーンスタイン家の庸人の使用人はなにか喚き散らしながら用意をはじめた。
陛下は僕の気持ちを知っていてそう仰っているに違いない。一度護衛で行動を共にしたことがあったが、何もかも見抜いているような節すらあった。だから、リアムに正直な気持ちを伝えた。
「リアム、せっかくの晴れの日にこんなことになってしまって、ごめん。リアム、また風見鶏を聴かせてね」
「宮殿で暮らすといってもこれからも街に出るし、ピアノだって弾く。テオとの友情はずっと変わらない」
心配そうに眉を下げるリアムの顔を見ていられなかった。俯いたまま彼を抱き寄せて、額に祝福のキスを落とす。そのまま駐屯地に向かい歩き始めた。
その後ろからまたしても熱に包まれる。見上げると、カミルが真っ直ぐ駐屯地を見ていた。
「カミル、1人で大丈夫です。貴方は残ってどうか彼らを祝福してください」
「私のせいで負傷した人を、そのまま放りだすとでも思いますか?」
別に彼1人でもあの程度の襲撃は対処できただろうに、僕が余計なことをしたせいで、ここにいる全員に迷惑をかけてしまった。それが僕が心から祝福していないことを象徴しているようにも思えるのだ。惨めで情けない心が胸を締め付ける。
「それに、こういう時は1人じゃない方がいい」
カミルのいう「こういう時」にいろんな憶測が駆け巡り、歩みを止めてしまう。
「貴方は立派だ。テオ」
頭上から降ってきた言葉で、僕がリアムを愛していることを彼に知られたのだと悟った。僕が陛下に抱いたわずかな怒りを感じ取ったのだ。だから駐屯地に逃してくれた。
「カミル……ありがとうございます……。折角の庭園を見そびれてしまいましたね」
「テオと歩きたかった口実です。どうかその願いだけは叶えてください」
今考えついたであろう口実で、カミルは僕を慰める。これ以上の温情は変な気を掻き立てそうだった。だから話題を変え、駐屯地までいつもの善良な兵卒を演じた。
宮殿前の祭事の広場に戻るなり、リアムは僕に駆け寄り腕を掴んだ。傷口に触れられ顔を歪ませると、彼は慌てて手を離す。
「怪我……? なぜ……ギード! ギード!」
「なんだなんだ! 紙でも落ちていたのか!」
リアムに呼ばれて国王陛下が向かってくる。彼らは僕には理解できない冗談で通じ合っている。その幸福そうなやりとりをぼんやり眺めた。今日の祭事では最敬礼は禁止されていた。その配慮が忌々しく感じる。
「アシュレイから報告があった。そのうち捕らえてくるだろうから静かに待っていろ。今回は誰の命もかかっていないのだ、気楽なものだろう」
「違う! テオが怪我をしている」
「ああ、そういえばそんなことも言っていたな。テオ、見せてみろ」
陛下が腰を折って僕に近づいてくる。手負いの兵卒も気を留めず、リアムの願いだから仕方なしに心配する。そんな国王の雑な対応が無性に腹立たしくて、手に力が入った。その時顔の横から大きな熱に包まれた。
「陛下、矢尻に毒が塗布されていないか一度駐屯地常駐の医者に手当てをさせたいと存じます。私は軍を退役して久しく、可能であれば駐屯地への入場許可を」
カミルは僕をすっぽりと抱きしめて、陛下を静止させようと右手を前に出した。
「テオ、お前がそう望むのであれば手配をしよう。すまんが訓練中の事故とか適当に言い訳をしておいてくれ。おい! オットー!手配をしろ!」
陛下に命じられたバーンスタイン家の庸人の使用人はなにか喚き散らしながら用意をはじめた。
陛下は僕の気持ちを知っていてそう仰っているに違いない。一度護衛で行動を共にしたことがあったが、何もかも見抜いているような節すらあった。だから、リアムに正直な気持ちを伝えた。
「リアム、せっかくの晴れの日にこんなことになってしまって、ごめん。リアム、また風見鶏を聴かせてね」
「宮殿で暮らすといってもこれからも街に出るし、ピアノだって弾く。テオとの友情はずっと変わらない」
心配そうに眉を下げるリアムの顔を見ていられなかった。俯いたまま彼を抱き寄せて、額に祝福のキスを落とす。そのまま駐屯地に向かい歩き始めた。
その後ろからまたしても熱に包まれる。見上げると、カミルが真っ直ぐ駐屯地を見ていた。
「カミル、1人で大丈夫です。貴方は残ってどうか彼らを祝福してください」
「私のせいで負傷した人を、そのまま放りだすとでも思いますか?」
別に彼1人でもあの程度の襲撃は対処できただろうに、僕が余計なことをしたせいで、ここにいる全員に迷惑をかけてしまった。それが僕が心から祝福していないことを象徴しているようにも思えるのだ。惨めで情けない心が胸を締め付ける。
「それに、こういう時は1人じゃない方がいい」
カミルのいう「こういう時」にいろんな憶測が駆け巡り、歩みを止めてしまう。
「貴方は立派だ。テオ」
頭上から降ってきた言葉で、僕がリアムを愛していることを彼に知られたのだと悟った。僕が陛下に抱いたわずかな怒りを感じ取ったのだ。だから駐屯地に逃してくれた。
「カミル……ありがとうございます……。折角の庭園を見そびれてしまいましたね」
「テオと歩きたかった口実です。どうかその願いだけは叶えてください」
今考えついたであろう口実で、カミルは僕を慰める。これ以上の温情は変な気を掻き立てそうだった。だから話題を変え、駐屯地までいつもの善良な兵卒を演じた。
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