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3部番外編
ブラウアー兄弟の夜営テント(ルーク視点)
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アシュレイの旅団に引き抜かれてから、私たち兄弟もわずかに出世した。ささやかなものだったが、それでもこうして野営をすれば、そのありがたみを感じる。
士官にはテントが与えられ、その他兵のほとんどがその辺に雑魚寝だ。ランタンの灯が羊皮をぬらぬらと照らしている。そこにジルの影が不自然に動いた。
「ジル、また考え事をしているのか? 考えたって仕方がないだろうに。明日も早いから早く寝るんだ」
ジルは私とは反対側を向いたまま動かない。
「お前だって眠れんのだろう」
ジルは今回の捕虜引き渡しのための先導以外に抱えている問題があった。その当事者となりうるリアムに作戦の全容を伝えるべきかずっと悩んでいる。リアムの愛した女性が、リアムが憎む領主と共謀しているかもしれない。これを言えないのには確証が薄いということだけではなかった。領主は今、証拠隠滅のため、リアムの愛する女性を消そうとしている。知るタイミングを間違えばリアムに様々な苦悩を与えるとジルは考えあぐねているのだ。
ジルがこの件の責任者になった理由はいくつかあるが、最大の要因は備に裁判を傍聴していたからということに他ならない。ジルは先の謀反で私が愛しかけた者を惨殺したことを心のどこかで悔いていた。私には当然のことをしたと言いながらもジルは暇さえあれば査問や裁判に赴いていたのだ。
「おやすみのキスをしてやる」
ジルが唐突にこっちを向いて、私が1番恐れることを言う。彼なりの罪滅ぼしなのかもしれないが、他に手段があるだろう、と毎回思う。
「ルイスがいる時だけにしろ」
「兄さんを愛している」
「やめろ、やめろ、やめろ!」
「いい加減慣れろ」
慣れるか! 心の中でそう毒づいている間に、ジルがガッチリ私の肩をホールドし、マウンティングポジションで逃げ場を奪った後、額にキスを落とした。
キスを落とされた時、ジルの胸が鼻先に覆い被さり、懐かしい匂いがした。
「なんだか懐かしいな」
「おやすみのキスが?」
「いや、ジルの匂いが」
「じゃあほら」
ジルはそう言いながら私の唇にキスを落とした。あまりの恐怖に戦慄し、私はガタガタと震えだす。
「なんだ? 寒いのか?」
ジルは俺を横に寝転がし、後ろから抱きしめる。
「やめろ、やめろ、やめろ!」
「お前は細かいことを気にしすぎなんだ。だからハンスに怒られていたのに、自分の短所というのはなかなか直せないものだな」
「なにをしたり顔で言ってるんだ! ふざけるな!」
「こうしたら、安心して眠れる」
ジルが普段からは考えられないほど純朴な声を出す。その声を聞いたら、さっきまでのむず痒さがどこかへ吹き飛んだ。ジルもジルなりに、私との距離感を思い悩んでいるのだ。
しかし、どちらかしかルイスと一緒になれないとお互い思い悩んでいた頃に比べれば、何百倍も心が軽く、幸福だった。
「ルイスの方が柔らかい」
「お前! 無理やりしておきながら文句を垂れるなど……!」
「お前がいないと俺もルイスも泣いてしまうからな」
ジルはさっきの宴の席で私が放った冗談を根に持ってるようだった。
「そうだ……だからいなくならないよう、兄様を寂しがらせないでくれ」
腕をそっと撫でたら、ジルの方へ寝返り、頭を胸に抱き寄せる。
「はやく寝るんだ」
ランタンの燃料がわずかなのか、炎が大小と安定しない。その風景が私を眠りに誘い、ジルより先に意識を手放してしまった。
士官にはテントが与えられ、その他兵のほとんどがその辺に雑魚寝だ。ランタンの灯が羊皮をぬらぬらと照らしている。そこにジルの影が不自然に動いた。
「ジル、また考え事をしているのか? 考えたって仕方がないだろうに。明日も早いから早く寝るんだ」
ジルは私とは反対側を向いたまま動かない。
「お前だって眠れんのだろう」
ジルは今回の捕虜引き渡しのための先導以外に抱えている問題があった。その当事者となりうるリアムに作戦の全容を伝えるべきかずっと悩んでいる。リアムの愛した女性が、リアムが憎む領主と共謀しているかもしれない。これを言えないのには確証が薄いということだけではなかった。領主は今、証拠隠滅のため、リアムの愛する女性を消そうとしている。知るタイミングを間違えばリアムに様々な苦悩を与えるとジルは考えあぐねているのだ。
ジルがこの件の責任者になった理由はいくつかあるが、最大の要因は備に裁判を傍聴していたからということに他ならない。ジルは先の謀反で私が愛しかけた者を惨殺したことを心のどこかで悔いていた。私には当然のことをしたと言いながらもジルは暇さえあれば査問や裁判に赴いていたのだ。
「おやすみのキスをしてやる」
ジルが唐突にこっちを向いて、私が1番恐れることを言う。彼なりの罪滅ぼしなのかもしれないが、他に手段があるだろう、と毎回思う。
「ルイスがいる時だけにしろ」
「兄さんを愛している」
「やめろ、やめろ、やめろ!」
「いい加減慣れろ」
慣れるか! 心の中でそう毒づいている間に、ジルがガッチリ私の肩をホールドし、マウンティングポジションで逃げ場を奪った後、額にキスを落とした。
キスを落とされた時、ジルの胸が鼻先に覆い被さり、懐かしい匂いがした。
「なんだか懐かしいな」
「おやすみのキスが?」
「いや、ジルの匂いが」
「じゃあほら」
ジルはそう言いながら私の唇にキスを落とした。あまりの恐怖に戦慄し、私はガタガタと震えだす。
「なんだ? 寒いのか?」
ジルは俺を横に寝転がし、後ろから抱きしめる。
「やめろ、やめろ、やめろ!」
「お前は細かいことを気にしすぎなんだ。だからハンスに怒られていたのに、自分の短所というのはなかなか直せないものだな」
「なにをしたり顔で言ってるんだ! ふざけるな!」
「こうしたら、安心して眠れる」
ジルが普段からは考えられないほど純朴な声を出す。その声を聞いたら、さっきまでのむず痒さがどこかへ吹き飛んだ。ジルもジルなりに、私との距離感を思い悩んでいるのだ。
しかし、どちらかしかルイスと一緒になれないとお互い思い悩んでいた頃に比べれば、何百倍も心が軽く、幸福だった。
「ルイスの方が柔らかい」
「お前! 無理やりしておきながら文句を垂れるなど……!」
「お前がいないと俺もルイスも泣いてしまうからな」
ジルはさっきの宴の席で私が放った冗談を根に持ってるようだった。
「そうだ……だからいなくならないよう、兄様を寂しがらせないでくれ」
腕をそっと撫でたら、ジルの方へ寝返り、頭を胸に抱き寄せる。
「はやく寝るんだ」
ランタンの燃料がわずかなのか、炎が大小と安定しない。その風景が私を眠りに誘い、ジルより先に意識を手放してしまった。
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