幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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3部 王のピアノと風見鶏

第59話 友情の証

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 ルイスはルークに出かけることを伝えてくるから準備をしろ、と言い残し先に風呂を出た。準備とはなにかと呆然としていたが、服を着たルイスが再度風呂に入ってきて、見覚えのある器具を手渡した。

「お、俺は!」

「友達の助言は聞いてもらいたいな。ちゃんと今日を超えないうちに王宮まで送るから、ね?」

 ルイスは目配せをして、そそくさと出て行ってしまう。友達、その言葉に少しくすぐったさがあって、心がぐちゃぐちゃになる前に言われた通り準備した。

 風呂からあがり、服を着て脱衣所を出ると、ルークが俺にマントを被せた。胸元の留め具にブラウアー家の紋章が刻印されている。

「大した家柄じゃないけど、宮廷の門を通り抜ける程度の力はある」

「ルーク、俺は迷惑をかけるかもしれない」

「ああ、いいな。王に会う前に不審者として捕まったら、それはそれで面白い。王はどんな反応をするだろうな?」

「兄様、そういうところですよ。冗談は許しませんからね」

 ピシッとルイスが言い放つと、ルークは慌ててルイスに縋りついた。

「違う、リアムを安心させようと思って! 兄様を嫌いにならないで!」

「兄様はもう大丈夫です。ジルをよろしくお願いいたします。リアム、行こう。馬は疲れてるかもしれないけど、あと少し辛抱してもらおう」

 ルイスは縋るルークを引き剥がし、玄関に向かう。打ちひしがれるルークを心配していると、ルイスは笑顔で振り返った。

「すぐに帰ってきます。兄様、今日は僕だけでも可愛がってくれますか?」

「ああ、ああ! リアム、ほらはやく行け! ルイス、兄様は待ってるからな!」

 さっきまでの悲しみはどこへやら、ルークに追い出される形で出発した。

 ルイスと馬で王都を駆け抜ける。蹄の音がよく響く街道は、昼と違い人の往来がない分、楽に走る抜けることができた。心配していた宮廷の入り口も難なく抜けることができる。これはルイスが日々の出入りで得た信頼からだろう。

「リアム、塔に寄るよ」

 そう言うと、ルイスは急に進路を右に振って、鬱蒼とした道に入った。ノアのいる塔にこんな形で行くことになるなんて思いもよらなかった。本当に不思議な巡り合わせで今が成り立っていると感じる。

 茂林を抜けた先で景色が急に広がる。ノアが幽閉されているという塔は話に聞くよりも禍々しいものだった。湖の中央にそびえ立つその塔は、外観から来るものを拒む雰囲気が漂っている。その塔から一本細い道が伸び、そこが唯一の道のようだ。

 その一本道の前でルイスは馬を止め、俺にも降りるよう歩いてきた。2頭の手綱を湖の柵に設られた留木にかけ、ルイスは労うように馬を撫でた。

「さあ、行こう」

 ルイスは俺の手をとり、不気味な一本道を駆ける。なぜ馬をここに留めて行くのか全くわからないまま、俺はルイスの後を追った。

 塔の頑丈な木戸にルイスは鍵を突っ込み開錠する。その物音に驚いたのか中からノアの声がした。

「ルイス!? どうしたのこんな時間に」

「アシュレイ、なんとなく予想はしてたけど、ノアから少し離れてもらっていいかな」

「友だからといって、なぜ従わなければならないのだ。ルイスはもう就業時間外だろう」

 なにか言い争いをはじめたので、ルイスの横から顔を出した。そこにはノアの長い装束の裾から手を突っ込み、尻や胸を撫でまわすバーンスタイン卿がいた。

「リアム!? なぜ……ジルと共に国境に向かったのではないのか!?」

「アシュレイ、とりあえず落ち着いて。ノアから手を離して」

 バーンスタイン卿は我にかえり、真っ赤な顔でノアから離れた。とんでもないものを見てしまった。

「ノア、友達の一大事だよ! リアムは一刻もはやく王様に会うために、無理な日程で帰ってきたんだ! リアムを王様のところへ連れて行ってあげて!」

「は、はい!」

 ノアはバーンスタイン卿の膝から飛び降り、そして俺の手を引き塔を駆け上がった。最上階に着くと、ノアは部屋の中を横断して反対側にある鉄格子をガコっと外した。どこにそんな力があるのだと驚いていたら、ノアが俺に振り返って言った。

「言い忘れてたんだけど、これは秘密だよ」

 言うや否やノアが俺に抱きつき、そのまま窓の外に飛び出した。あまりのことに下半身がキュッと冷たくなり、目を閉じてしまう。しかしその時に思い出したのだ。ノアや王が空を飛んでいたことを。薄ら目を開けると眼下に宮廷、そして遠くに王都の夜景が見えた。

「す、すごい……」

「リ、リアム!? 声が戻ったの!?」

「ああ、ノア。俺はノアと友達になれて嬉しい。ずっとずっと言いたかったんだ。ノア、ありがとう。これからも友達でいてくれ。俺はノアが大好きだ」

「リ、リアム! 王様にもそう言いに行くの!?」

「ああ。ずっと名前を呼んでくれとお願いされていたんだ。ギードを愛している、そう俺が言いたいんだ」

「ああ、ああ、リアム、リアム! スピードあげるよ!」

 言うよりもはやく、ノアはスピードを上げる。とてつもない速さで景色も見えなかかった。
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