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3部 王のピアノと風見鶏
第44話 青天の霹靂
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緩やかなカーブを描く中央の階段の先に、審査員の協議会場があり、その扉が開け放たれた。公示はそのまま階段で読み上げられ、成績上位者に譜面の出版権や名誉を与えられる。
どんなに過信をした者も、自分の演奏が今日のラルフ=ハーマン以上だとは思えなかったに違いない。俺もまた彼に称賛の拍手を贈るために、その発表を待った。俺は全てを出し切っても彼に敵わなかった。それが理解できることがとても晴れやかだった。
下位の発表は無い。上位5位からの発表で次々に名が呼ばれていく。俺はバーンスタイン卿に抱えられたノアの隣で、歓喜に沸く他の出場者に拍手を贈った。名が呼び上げられるたび、俺もそしてノアも顔を見合わせて笑った。ノアもまた、俺がこんなに晴れやかな気持ちなのを察してくれていたのだ。
そして最後にこのコンクールを制した者の名が響き渡った。ラルフ=ハーマン、その人だ。階段を登り、名誉を賜る彼に、俺は今日最大の拍手を贈る。しかしノアは複雑そうな顔をしていた。俺はさっきの小さくなったノアの背中を思い出して、胸が痛くなる。俺はバーンスタイン卿ごとノアに抱きついた。何度も何度もノアにありがとうと言った。
その時、審査員が俺の名を高らかに読み上げた。
俺はノアと目が合う。俺もノアも一体なにが起こったのか分からなかった。だから二人同時に中央階段を見た。
「同率1位、リアム」
バーンスタイン卿はノアを地面に下ろす。その足元を見たら、ノアの足はガクガクと震えていた。
「リアム!」
震えながらノアが俺を呼ぶ。彼の小さな手を握った時、エントランスホールにとてつもない拍手の雨が降り注いだ。
中央階段までがやけに遠く感じた。それはこの豪雨のような拍手の雨が階段に近づくにつれて大きくなるからだ。さっき舞台で贈られた聞き慣れない言葉も浴びながら、俺はノアとともに階段にあがる。
上がった先で会長が俺に声をかけてくれた。
「ピアノの演奏という意味では足りない部分もありました。しかし会場中が貴方の曲に心を打たれましたよ。今後も作曲活動を続けていってください」
俺が感じていた自己評価を素直に述べられた。俺はノアの顔を見ると、彼は俺の気持ちを代弁してくれた。
「機会を与えていただき、ありがとうございます」
会長が俺の胸に勲章を授ける。その胸にノアを抱いた。止まない拍手の雨の中俺はいつまでもノアに抱きついたまま離れられなかった。
「リアム、おめでとう。本当はこのまま祝賀パーティーといきたいところだが、王が裏で待っている。お祝いは改めて別の機会を設けさせてくれ」
階段から戻ったバーンスタイン卿は俺に耳打ちをする。その後ろでテオがまごまごとしているのが視界に入った。
「リアム、本当に、おめでとう」
言葉を詰まらせるテオに、あの夜営の風景が蘇る。テオやノアに、そしてみんなに恩返しができて、嬉しいよりホッとしたという気持ちが大きかった。
「今度はみんなにスコーンを焼いていくね」
ルイスの優しい言葉に胸がジンと痺れる。俺が紙と木炭を取り出そうとした時に、バーンスタイン卿に腕を掴まれ、ノアと3人そのまま会場を後にした。
「すまないな、せっかくルイスにも会えたのに忙しなくて。しかしリアムが1番伝えたい相手は王であろう?」
バーンスタイン卿は振り返り、微笑む。
「王様はリアムに気をつかって、エントランスホールには来なかったんだよ」
「ああ見えてそういう細かいところを気にするからな。俺の父と王が旧友と隠していたのは、父の一存というわけではなかったのだ」
ノアとバーンスタイン卿の話題をぼんやり聞いていたら、彼らは振り返りそして笑った。
「自分の采配でリアムが勝者となったと、変な噂が立つのを王は恐れていた。王は荷馬車でリアムの報告を心待ちにしているぞ」
バーンスタイン卿の揺れる髪で、彼の心を知ることができる。王は彼らから信奉されている。それを窺い知ることができた。
どんなに過信をした者も、自分の演奏が今日のラルフ=ハーマン以上だとは思えなかったに違いない。俺もまた彼に称賛の拍手を贈るために、その発表を待った。俺は全てを出し切っても彼に敵わなかった。それが理解できることがとても晴れやかだった。
下位の発表は無い。上位5位からの発表で次々に名が呼ばれていく。俺はバーンスタイン卿に抱えられたノアの隣で、歓喜に沸く他の出場者に拍手を贈った。名が呼び上げられるたび、俺もそしてノアも顔を見合わせて笑った。ノアもまた、俺がこんなに晴れやかな気持ちなのを察してくれていたのだ。
そして最後にこのコンクールを制した者の名が響き渡った。ラルフ=ハーマン、その人だ。階段を登り、名誉を賜る彼に、俺は今日最大の拍手を贈る。しかしノアは複雑そうな顔をしていた。俺はさっきの小さくなったノアの背中を思い出して、胸が痛くなる。俺はバーンスタイン卿ごとノアに抱きついた。何度も何度もノアにありがとうと言った。
その時、審査員が俺の名を高らかに読み上げた。
俺はノアと目が合う。俺もノアも一体なにが起こったのか分からなかった。だから二人同時に中央階段を見た。
「同率1位、リアム」
バーンスタイン卿はノアを地面に下ろす。その足元を見たら、ノアの足はガクガクと震えていた。
「リアム!」
震えながらノアが俺を呼ぶ。彼の小さな手を握った時、エントランスホールにとてつもない拍手の雨が降り注いだ。
中央階段までがやけに遠く感じた。それはこの豪雨のような拍手の雨が階段に近づくにつれて大きくなるからだ。さっき舞台で贈られた聞き慣れない言葉も浴びながら、俺はノアとともに階段にあがる。
上がった先で会長が俺に声をかけてくれた。
「ピアノの演奏という意味では足りない部分もありました。しかし会場中が貴方の曲に心を打たれましたよ。今後も作曲活動を続けていってください」
俺が感じていた自己評価を素直に述べられた。俺はノアの顔を見ると、彼は俺の気持ちを代弁してくれた。
「機会を与えていただき、ありがとうございます」
会長が俺の胸に勲章を授ける。その胸にノアを抱いた。止まない拍手の雨の中俺はいつまでもノアに抱きついたまま離れられなかった。
「リアム、おめでとう。本当はこのまま祝賀パーティーといきたいところだが、王が裏で待っている。お祝いは改めて別の機会を設けさせてくれ」
階段から戻ったバーンスタイン卿は俺に耳打ちをする。その後ろでテオがまごまごとしているのが視界に入った。
「リアム、本当に、おめでとう」
言葉を詰まらせるテオに、あの夜営の風景が蘇る。テオやノアに、そしてみんなに恩返しができて、嬉しいよりホッとしたという気持ちが大きかった。
「今度はみんなにスコーンを焼いていくね」
ルイスの優しい言葉に胸がジンと痺れる。俺が紙と木炭を取り出そうとした時に、バーンスタイン卿に腕を掴まれ、ノアと3人そのまま会場を後にした。
「すまないな、せっかくルイスにも会えたのに忙しなくて。しかしリアムが1番伝えたい相手は王であろう?」
バーンスタイン卿は振り返り、微笑む。
「王様はリアムに気をつかって、エントランスホールには来なかったんだよ」
「ああ見えてそういう細かいところを気にするからな。俺の父と王が旧友と隠していたのは、父の一存というわけではなかったのだ」
ノアとバーンスタイン卿の話題をぼんやり聞いていたら、彼らは振り返りそして笑った。
「自分の采配でリアムが勝者となったと、変な噂が立つのを王は恐れていた。王は荷馬車でリアムの報告を心待ちにしているぞ」
バーンスタイン卿の揺れる髪で、彼の心を知ることができる。王は彼らから信奉されている。それを窺い知ることができた。
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