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3部 王のピアノと風見鶏
第43話 英雄たち
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エントランスホールは出場者や観覧者でごった返していた。こんな中で探している人に出会えるのだろうかと思える混雑の中、全ての出場者が固唾を呑んで結果を待っていた。
その人混みの中でポッカリと空いている場所があった。そこへ婦人が駆け寄っていくのだが、不思議とその穴は埋まらない。よく耳を澄ませてみると、駆け寄っていく婦人は皆「奇跡の器」と「流し目の戦術家」という単語を口にしている。ノアもそれを聞いてか、その人だかりに向かって歩き出した。
そしてバーンスタイン卿およびブラウアー兄弟やテオを見た時に、ノアも俺もビックリして立ち止まってしまった。
「リアム! 素晴らしい演奏だったぞ! どうした? こっちへ来い」
バーンスタイン卿の声で、俺とノアに注目が集まる。ノアは後ろから見ても耳が真っ赤だった。きっと紳士の顔を作っているのだろう。バーンスタイン卿が笑っているからそれがわかった。
ノアと俺が動けずにいるのは彼らの格好にあった。今日は軍服ではなく、皆社交場に相応しい格好をしていた。それで婦人が駆け寄っていたのだと、圧倒的な煌びやかさの前で思い知らされる。特にブラウアー兄弟は体が大きい分、圧巻だった。
動けずにいる俺に、テオ、ルーク、ジルが順番にハグをしてくれる。そして最後に線の細い見知らぬ男性が俺にハグをしてくれた。
「リアム、やっと会えたね!アシュレイとノアの友達で、ルークとジルの弟のルイスだよ。 ノアからいつも話は聞いてるよ。今日の演奏とても素晴らしかった……それに、とてもかっこいい!」
俺はノアを最初に見た時と同じ衝撃を味わう。ルイスは所謂普通の成人男性であり、ノアの言葉を借りるのであれば、ご婦人方に人気のありそうな風貌だった。俺は勝手にルイスのことをノアのような少年だとばかり思っていた。
「リアム、本当に素晴らしかった。ジルは少し泣いていたぞ」
「なんでお前はそういうことをいちいち……」
ジルはせっかく整えられていたルークの髪を鷲掴みにして引っ張る。
「本当に素晴らしかった……そしてノア……」
そう言いながらさっきから俺の前で震えているノアにバーンスタイン卿が跪いた。
「ノア先生、俺の格好の採点をしていただけますか?」
バーンスタイン卿は悪戯に笑い、そうしてノアの手にキスを落とした。周りからご婦人方の悲鳴があがる。ノアはどうしたらいいのか分からず震えているようだった。ノアの背中がどんどん小さくなっていって、俺の胸が痛い。
ノアは今日一日立派な紳士だった。それなのに、ノアを差し置きバーンスタイン卿が婦人に騒がれているのを目の当たりにするなど、彼の心中を察すると穏やかではいられない。
俺がバーンスタイン卿の暴挙をとめようと手を伸ばした時、ノアが彼に抱き寄せられた。そしてバーンスタイン卿は俺には聞こえない声でノアの耳元になにかを囁く。
「ま、またそんな声を!」
怒りに仰反るノアをそのまま抱え上げて、バーンスタイン卿は俺に近づいてきた。
「リアム、王は貴賓席から直接要人通路で裏口に待機している。コンクールの結果はリアム自身が王に伝えるのだ」
俺は頷き、ノアの背中に手を添える。ノアが振り返った時俺は言った。
ノアが1番、格好いい。
本心だった。今日のこの日までノアの小さな手に何度も何度も救われたのだ。誰がなんと言おうと、ノアは俺のヒーローだった。
しかしそれがお世辞だと思ったのか、ノアはみるみる涙を目に溜める。バーンスタイン卿はそれを見るや否や、ノアの頬や唇にキスをしていった。バーンスタイン卿の行為によってエントランスホールが阿鼻叫喚に変わる。ご婦人方はともかく、ルイスまで怒りだして、混迷を極めた。
そこに扉が開く音がエントランスホールに響き渡る。コンクールの採点発表だった。
その人混みの中でポッカリと空いている場所があった。そこへ婦人が駆け寄っていくのだが、不思議とその穴は埋まらない。よく耳を澄ませてみると、駆け寄っていく婦人は皆「奇跡の器」と「流し目の戦術家」という単語を口にしている。ノアもそれを聞いてか、その人だかりに向かって歩き出した。
そしてバーンスタイン卿およびブラウアー兄弟やテオを見た時に、ノアも俺もビックリして立ち止まってしまった。
「リアム! 素晴らしい演奏だったぞ! どうした? こっちへ来い」
バーンスタイン卿の声で、俺とノアに注目が集まる。ノアは後ろから見ても耳が真っ赤だった。きっと紳士の顔を作っているのだろう。バーンスタイン卿が笑っているからそれがわかった。
ノアと俺が動けずにいるのは彼らの格好にあった。今日は軍服ではなく、皆社交場に相応しい格好をしていた。それで婦人が駆け寄っていたのだと、圧倒的な煌びやかさの前で思い知らされる。特にブラウアー兄弟は体が大きい分、圧巻だった。
動けずにいる俺に、テオ、ルーク、ジルが順番にハグをしてくれる。そして最後に線の細い見知らぬ男性が俺にハグをしてくれた。
「リアム、やっと会えたね!アシュレイとノアの友達で、ルークとジルの弟のルイスだよ。 ノアからいつも話は聞いてるよ。今日の演奏とても素晴らしかった……それに、とてもかっこいい!」
俺はノアを最初に見た時と同じ衝撃を味わう。ルイスは所謂普通の成人男性であり、ノアの言葉を借りるのであれば、ご婦人方に人気のありそうな風貌だった。俺は勝手にルイスのことをノアのような少年だとばかり思っていた。
「リアム、本当に素晴らしかった。ジルは少し泣いていたぞ」
「なんでお前はそういうことをいちいち……」
ジルはせっかく整えられていたルークの髪を鷲掴みにして引っ張る。
「本当に素晴らしかった……そしてノア……」
そう言いながらさっきから俺の前で震えているノアにバーンスタイン卿が跪いた。
「ノア先生、俺の格好の採点をしていただけますか?」
バーンスタイン卿は悪戯に笑い、そうしてノアの手にキスを落とした。周りからご婦人方の悲鳴があがる。ノアはどうしたらいいのか分からず震えているようだった。ノアの背中がどんどん小さくなっていって、俺の胸が痛い。
ノアは今日一日立派な紳士だった。それなのに、ノアを差し置きバーンスタイン卿が婦人に騒がれているのを目の当たりにするなど、彼の心中を察すると穏やかではいられない。
俺がバーンスタイン卿の暴挙をとめようと手を伸ばした時、ノアが彼に抱き寄せられた。そしてバーンスタイン卿は俺には聞こえない声でノアの耳元になにかを囁く。
「ま、またそんな声を!」
怒りに仰反るノアをそのまま抱え上げて、バーンスタイン卿は俺に近づいてきた。
「リアム、王は貴賓席から直接要人通路で裏口に待機している。コンクールの結果はリアム自身が王に伝えるのだ」
俺は頷き、ノアの背中に手を添える。ノアが振り返った時俺は言った。
ノアが1番、格好いい。
本心だった。今日のこの日までノアの小さな手に何度も何度も救われたのだ。誰がなんと言おうと、ノアは俺のヒーローだった。
しかしそれがお世辞だと思ったのか、ノアはみるみる涙を目に溜める。バーンスタイン卿はそれを見るや否や、ノアの頬や唇にキスをしていった。バーンスタイン卿の行為によってエントランスホールが阿鼻叫喚に変わる。ご婦人方はともかく、ルイスまで怒りだして、混迷を極めた。
そこに扉が開く音がエントランスホールに響き渡る。コンクールの採点発表だった。
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