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3部 王のピアノと風見鶏
第32話 所有の主張
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朝の幸せな匂いがする。目を開けるともう朝だった。王にも奉仕をしたいと手を伸ばし、それを断られ続けているうちにいつのまにか寝てしまった。
王は俺を後ろから抱き、背中に唇をつけて寝ていた。無防備に投げ出された腕をそっと撫でる。その時に咳払いが聞こえた。
「陛下。今日は午前から午後まで会談がございます」
聴き慣れたその声に、羞恥心と焦燥で変な汗が噴き出した。バーンスタイン卿だ。
「今日の予定は全てキャンセルだ」
俺の背中にやけにハッキリとした王の声が響く。
「伴侶を抱いたなどという理由で、次の日仕事をしない労働者は、この国におりません」
「お前と違って……!」
王はなにかを言いかけ、そして黙った。
「随分前から目覚めていたのにもかかわらず、所有権を主張するためにそうやって私を困らせるのですか?」
王は黙って俺を強く抱く。俺はどうしたらいいかわからず、目が泳ぎその先にいたバーンスタイン卿を見た。印象通りの冷たい瞳が俺を見据える。
「リアム。今度こそ俺の勘違いではないな? 出血はしていないか?」
俺は恐怖から来る痙攣で首を縦に振る。
「ノアに絶倫の器を飼い慣らす方法でも教わっておけ」
王の言葉に、剣が鞘から抜かれた金属音がする。
「2人とも裸だ。着替えたらすぐに行く。少しはそういうことに寛容になれんのか」
今度は鞘に剣が収まる音がして、俺の緊張が解けた。
「リアム、今日は印刷された譜面ではなく、まっさらな譜面を用意させる。昨日の曲をそれに書くのだ」
バーンスタイン卿が乱暴に扉を閉める音が響き渡る。だから俺は寝返って、王の髪を引っ張った。
「ああ……ああ……」
さっきの減らず口とは打って変わって、王は感嘆の声しか漏らさなくなった。俺の顔を柔らかい果物のように包んで、唇にキスをしてくれた。何度目かのキスで、そろそろ本格的に殺される、とバーンスタイン卿に怯え、ベッドを降りそのまま部屋を出た。
入れ違いにノアが入ってきて、俺もノアもびっくりする。
「え!? え!?」
ノアが腹の底から驚愕の声を上げて、紙とペンを持って走ってきた。
「行けばわかるとアシュレイに言われてきたけど、僕は、僕は」
ノアの顔が茹で上がってしまう前に俺は紙に文字を書く。
痛くならない方法を教えてほしい。
それを見るや否や、ノアは窓に向かって走り出した。なにを血迷ったのかと裸ということも忘れてその後を追う。不自由な足が絡れ、膝をついた時、ノアは勢いよく窓を開け放ち、そして窓枠に足をかけた。
ここは2階だ!
心の中で叫ぶと、ノアはそのまま勢いよく飛んで行った。魔人が空を飛べるということを今日初めて知った。
王は俺を後ろから抱き、背中に唇をつけて寝ていた。無防備に投げ出された腕をそっと撫でる。その時に咳払いが聞こえた。
「陛下。今日は午前から午後まで会談がございます」
聴き慣れたその声に、羞恥心と焦燥で変な汗が噴き出した。バーンスタイン卿だ。
「今日の予定は全てキャンセルだ」
俺の背中にやけにハッキリとした王の声が響く。
「伴侶を抱いたなどという理由で、次の日仕事をしない労働者は、この国におりません」
「お前と違って……!」
王はなにかを言いかけ、そして黙った。
「随分前から目覚めていたのにもかかわらず、所有権を主張するためにそうやって私を困らせるのですか?」
王は黙って俺を強く抱く。俺はどうしたらいいかわからず、目が泳ぎその先にいたバーンスタイン卿を見た。印象通りの冷たい瞳が俺を見据える。
「リアム。今度こそ俺の勘違いではないな? 出血はしていないか?」
俺は恐怖から来る痙攣で首を縦に振る。
「ノアに絶倫の器を飼い慣らす方法でも教わっておけ」
王の言葉に、剣が鞘から抜かれた金属音がする。
「2人とも裸だ。着替えたらすぐに行く。少しはそういうことに寛容になれんのか」
今度は鞘に剣が収まる音がして、俺の緊張が解けた。
「リアム、今日は印刷された譜面ではなく、まっさらな譜面を用意させる。昨日の曲をそれに書くのだ」
バーンスタイン卿が乱暴に扉を閉める音が響き渡る。だから俺は寝返って、王の髪を引っ張った。
「ああ……ああ……」
さっきの減らず口とは打って変わって、王は感嘆の声しか漏らさなくなった。俺の顔を柔らかい果物のように包んで、唇にキスをしてくれた。何度目かのキスで、そろそろ本格的に殺される、とバーンスタイン卿に怯え、ベッドを降りそのまま部屋を出た。
入れ違いにノアが入ってきて、俺もノアもびっくりする。
「え!? え!?」
ノアが腹の底から驚愕の声を上げて、紙とペンを持って走ってきた。
「行けばわかるとアシュレイに言われてきたけど、僕は、僕は」
ノアの顔が茹で上がってしまう前に俺は紙に文字を書く。
痛くならない方法を教えてほしい。
それを見るや否や、ノアは窓に向かって走り出した。なにを血迷ったのかと裸ということも忘れてその後を追う。不自由な足が絡れ、膝をついた時、ノアは勢いよく窓を開け放ち、そして窓枠に足をかけた。
ここは2階だ!
心の中で叫ぶと、ノアはそのまま勢いよく飛んで行った。魔人が空を飛べるということを今日初めて知った。
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