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3部 王のピアノと風見鶏
第25話 謝辞
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あれから1ヶ月経っても、俺はノアの支えがなければまだ一人で歩ける状態ではなかった。それは指の治療を優先させているからに他ならない。しかしその甲斐あってかもう指はほとんど動くようになっていた。むしろこの1ヶ月無我夢中で練習したおかげで、怪我をする前よりピアノは圧倒的に上手くなっている気がする。
「リアムは文字も書けるようになってきたね。ここ1ヶ月ですごいよ」
ノアは俺が本を書き写している間に紅茶を淹れてきてくれた。俺は胸元にしまってあった「ノア、ありがとう」という紙を取り出し、それを見せる。書けるようになった言葉で無駄に紙を消費しては勿体ない。そう思い、よく言う言葉の紙は胸の内側に何枚かしまってあった。
ノアに見せる紙を取り出す時に誤って何枚か一緒に出してしまい、それがバラバラと落ちてしまった。ノアと俺が慌てて拾い集める。他よりも少し綺麗な1枚の紙を拾うと、ノアの手がその動きを止めた。
その時に、王の寝室の扉が開き、数人部屋に入ってきた。バーンスタイン卿を筆頭に、ルーク、ジル、テオが雪崩れ込んできたのだ。俺の姿を確認するや否や、テオが俺に抱きついてくる。
「リアム! すっかり良くなって……本当によかった!」
バーンスタイン卿以外、会うのは風見鶏の孤児院で別れて以来だった。それは俺が目を覚ました時に自分の粗相に涙したこと、そして意志の疎通ができないことに焦燥を募らせないよう、ノアが取り計らってくれたのだと思う。
俺はさっき落としてしまった紙の中から、今日のためにずっと取っておいた、みんなの名前の下に、ありがとうと書いた紙をそれぞれに渡していく。その紙を見たら、テオは泣き出し、ルークは熱い抱擁で俺の呼吸を奪い、そしてジルはしばらく動かなくなった。その様子を見かねたルークがため息を吐きながらジルの胸を叩く。
「リアム、すまないな。あんまり眠れてないから嬉しいのにすぐ反応できないんだ。ジルはこうみえて繊細で……ずっと責任を感じてたんだ」
俺がジルを見上げると、彼はビクッと体を揺らした。マリーに会う前に言っていたジルの言葉を思い出す。多分ジルもバーンスタイン卿も、孤児院の庸人を誘拐するのにゴルザ帝国側の人間が関与していることを知っていたのだろう。それに長い間マリーが行方不明だったことも勘案すれば、その共謀者こそがマリーだと予想していたかもしれない。
俺がマリーを思う気持ちを慮り、全ての責任は自分にあると言い放ったジルの優しさが胸に滲みた。俺はヨロヨロとジルに近づいて、その大きな胴回りにしがみつく。
「リアム、つらい思いをさせて、すまなかった。あの時、そういう可能性もあるということを伝えられなかった。俺の弱さを責めてくれ」
バーンスタイン卿も、ジルも、そうやって俺が対峙しなければならない問題をまるで自分のことのように言う。俺は大きく首を横に振って、そうしてまたあの紙をジルに渡した。
ジルはその紙を大事そうに受け取ったら、急に俺を抱き上げて、額に何度もキスをする。
「はは、また宝物が増えたな。あの絵本に挟んでしまっておくか?」
その言葉に、ジルは俺を下ろしてルークに掴みかかっていった。
その横にいたノアが俺になにか言いたそうな顔をしている。俺が首を傾げると、ノアはさっき拾った紙を俺に手渡した。
「こ、これ……王様にはまだ渡してないの?」
俺は慌てて首を横に振る。それを見たノアはもっと焦ってしまった。
「う、受け取ってくれなかったの……?」
「リアムは文字も書けるようになってきたね。ここ1ヶ月ですごいよ」
ノアは俺が本を書き写している間に紅茶を淹れてきてくれた。俺は胸元にしまってあった「ノア、ありがとう」という紙を取り出し、それを見せる。書けるようになった言葉で無駄に紙を消費しては勿体ない。そう思い、よく言う言葉の紙は胸の内側に何枚かしまってあった。
ノアに見せる紙を取り出す時に誤って何枚か一緒に出してしまい、それがバラバラと落ちてしまった。ノアと俺が慌てて拾い集める。他よりも少し綺麗な1枚の紙を拾うと、ノアの手がその動きを止めた。
その時に、王の寝室の扉が開き、数人部屋に入ってきた。バーンスタイン卿を筆頭に、ルーク、ジル、テオが雪崩れ込んできたのだ。俺の姿を確認するや否や、テオが俺に抱きついてくる。
「リアム! すっかり良くなって……本当によかった!」
バーンスタイン卿以外、会うのは風見鶏の孤児院で別れて以来だった。それは俺が目を覚ました時に自分の粗相に涙したこと、そして意志の疎通ができないことに焦燥を募らせないよう、ノアが取り計らってくれたのだと思う。
俺はさっき落としてしまった紙の中から、今日のためにずっと取っておいた、みんなの名前の下に、ありがとうと書いた紙をそれぞれに渡していく。その紙を見たら、テオは泣き出し、ルークは熱い抱擁で俺の呼吸を奪い、そしてジルはしばらく動かなくなった。その様子を見かねたルークがため息を吐きながらジルの胸を叩く。
「リアム、すまないな。あんまり眠れてないから嬉しいのにすぐ反応できないんだ。ジルはこうみえて繊細で……ずっと責任を感じてたんだ」
俺がジルを見上げると、彼はビクッと体を揺らした。マリーに会う前に言っていたジルの言葉を思い出す。多分ジルもバーンスタイン卿も、孤児院の庸人を誘拐するのにゴルザ帝国側の人間が関与していることを知っていたのだろう。それに長い間マリーが行方不明だったことも勘案すれば、その共謀者こそがマリーだと予想していたかもしれない。
俺がマリーを思う気持ちを慮り、全ての責任は自分にあると言い放ったジルの優しさが胸に滲みた。俺はヨロヨロとジルに近づいて、その大きな胴回りにしがみつく。
「リアム、つらい思いをさせて、すまなかった。あの時、そういう可能性もあるということを伝えられなかった。俺の弱さを責めてくれ」
バーンスタイン卿も、ジルも、そうやって俺が対峙しなければならない問題をまるで自分のことのように言う。俺は大きく首を横に振って、そうしてまたあの紙をジルに渡した。
ジルはその紙を大事そうに受け取ったら、急に俺を抱き上げて、額に何度もキスをする。
「はは、また宝物が増えたな。あの絵本に挟んでしまっておくか?」
その言葉に、ジルは俺を下ろしてルークに掴みかかっていった。
その横にいたノアが俺になにか言いたそうな顔をしている。俺が首を傾げると、ノアはさっき拾った紙を俺に手渡した。
「こ、これ……王様にはまだ渡してないの?」
俺は慌てて首を横に振る。それを見たノアはもっと焦ってしまった。
「う、受け取ってくれなかったの……?」
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