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3部 王のピアノと風見鶏
第19話 死の淵からの目覚め
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目覚めた時、一体どういう状況なのかわからなかった。死んだ後のことを考えたこともなかったのだ。ただあの暗闇の中で味わわされた苦痛から解放されて、ホッとした。それが正直な気持ちだった。
「リアム? 僕がわかる? ちょっと待っててね」
視界にノアが現れてすぐに消えた。起き上がろうにも両手両足が動かず、どうにもならなかった。だから天井を見続ける。ここは多分王の部屋だ。王は死体を抱くと言っていた。その約束でいろんな不安や恐れが噴き出す。しかしその恐怖を打ち切ったのは、尿意だった。
手足にまったく動かせない。派手に寝違えた時みたいだった。俺が不自由な体の牢獄の中でもがいている時に、扉の開く音がした。
「リアム、気分はどうだ?」
現れたのはバーンスタイン卿だった。彼は部屋に入るなり、俺の寝かしつけられているベッドに駆け寄り、起きられるか? と質問をしながら半ば強制的に俺の上半身を起こした。それが尿意に拍車をかける。
「リアム。あれから7日経ったが、領主は捕らえ隣国との交渉も成立した。これから審判に入る。リアムはなにも心配しなくていい」
バーンスタイン卿が話す間に俺は尿意に抗えず、そのまま垂れ流してしまう。一気に体温が下がりブルッと体を震わせた。それが情けなくて目頭が熱くなり、息が上がった。ボタボタと涙がかけられた布団に落ちる。その光景にノアが口を開いた。
「アシュレイ、ぼ、僕が呼びに行ったのに申し訳ないのですが、席を外してください」
やや強めの口調にバーンスタイン卿が戸惑ったようだが、彼は何も言わずに部屋を出た。扉が閉まったことを確認すると、ノアが布団の中に手を突っ込んだ。
「ご、ごめんなさい。僕はそういうところが無神経で。で、でもアシュレイも気付いていないし、これは僕と王様しか知らないから、安心してね」
ノアは布団から、布を引き抜いた。バーンスタイン卿はさっき7日経ったと言っていた。あの日交渉を終えて、王宮に帰るまで5日。俺はその間糞尿を垂れ流していたのか。
「僕もね、アシュレイに恥ずかしくて言えない困ったことがあったんだけど、ルイスが解決してくれたことがあったんだ。その時に言われたんだ。困ったときはお互い様だよ」
ノアは布団をずらすことなく、器用に新しい布を突っ込む。大きめの布を俺の股間にあてがい、そして今引き抜いた布を持って遠くへ消えた。
再びノアが現れて、俺をゆっくり倒して、布団をかけた。俺の目元を布で拭ってくれたとき、お礼を言おうとした。しかし出たのは息だけだった。
「リアム、焦らなくて大丈夫。いきなりアシュレイを呼んだりしてごめんね。アシュレイもルークもジルもテオも、そして王様も、目が覚めたら1番に知らせろってうるさくて」
ノアが慈愛に満ちた表情で、俺の額に張り付いた髪を左右に分けた。そしてそこに祝福のキスを落としてくれる。唇の感触とその熱に、息が荒くなる。
「致命傷だけ、応急処置をしてあるんだけど、これから他のところもちゃんと治るから、安心してね。ゆっくりでいいから……」
ノアの優しい声を再び扉が開く音が遮る。ノアは慌てて立ち上がり、そして声が響き渡る声に肩を竦めた。
「ゆっくりなんてしていられないぞ!」
「王様、少し席を外して……」
ノアを押し除け王が俺の視界に入ってくる。あんなに憎悪を感じた赤い瞳も、雑な言動も、今は懐かしい気分になって不思議だ。
しかし、この時から拷問の日々が始まった。
「リアム? 僕がわかる? ちょっと待っててね」
視界にノアが現れてすぐに消えた。起き上がろうにも両手両足が動かず、どうにもならなかった。だから天井を見続ける。ここは多分王の部屋だ。王は死体を抱くと言っていた。その約束でいろんな不安や恐れが噴き出す。しかしその恐怖を打ち切ったのは、尿意だった。
手足にまったく動かせない。派手に寝違えた時みたいだった。俺が不自由な体の牢獄の中でもがいている時に、扉の開く音がした。
「リアム、気分はどうだ?」
現れたのはバーンスタイン卿だった。彼は部屋に入るなり、俺の寝かしつけられているベッドに駆け寄り、起きられるか? と質問をしながら半ば強制的に俺の上半身を起こした。それが尿意に拍車をかける。
「リアム。あれから7日経ったが、領主は捕らえ隣国との交渉も成立した。これから審判に入る。リアムはなにも心配しなくていい」
バーンスタイン卿が話す間に俺は尿意に抗えず、そのまま垂れ流してしまう。一気に体温が下がりブルッと体を震わせた。それが情けなくて目頭が熱くなり、息が上がった。ボタボタと涙がかけられた布団に落ちる。その光景にノアが口を開いた。
「アシュレイ、ぼ、僕が呼びに行ったのに申し訳ないのですが、席を外してください」
やや強めの口調にバーンスタイン卿が戸惑ったようだが、彼は何も言わずに部屋を出た。扉が閉まったことを確認すると、ノアが布団の中に手を突っ込んだ。
「ご、ごめんなさい。僕はそういうところが無神経で。で、でもアシュレイも気付いていないし、これは僕と王様しか知らないから、安心してね」
ノアは布団から、布を引き抜いた。バーンスタイン卿はさっき7日経ったと言っていた。あの日交渉を終えて、王宮に帰るまで5日。俺はその間糞尿を垂れ流していたのか。
「僕もね、アシュレイに恥ずかしくて言えない困ったことがあったんだけど、ルイスが解決してくれたことがあったんだ。その時に言われたんだ。困ったときはお互い様だよ」
ノアは布団をずらすことなく、器用に新しい布を突っ込む。大きめの布を俺の股間にあてがい、そして今引き抜いた布を持って遠くへ消えた。
再びノアが現れて、俺をゆっくり倒して、布団をかけた。俺の目元を布で拭ってくれたとき、お礼を言おうとした。しかし出たのは息だけだった。
「リアム、焦らなくて大丈夫。いきなりアシュレイを呼んだりしてごめんね。アシュレイもルークもジルもテオも、そして王様も、目が覚めたら1番に知らせろってうるさくて」
ノアが慈愛に満ちた表情で、俺の額に張り付いた髪を左右に分けた。そしてそこに祝福のキスを落としてくれる。唇の感触とその熱に、息が荒くなる。
「致命傷だけ、応急処置をしてあるんだけど、これから他のところもちゃんと治るから、安心してね。ゆっくりでいいから……」
ノアの優しい声を再び扉が開く音が遮る。ノアは慌てて立ち上がり、そして声が響き渡る声に肩を竦めた。
「ゆっくりなんてしていられないぞ!」
「王様、少し席を外して……」
ノアを押し除け王が俺の視界に入ってくる。あんなに憎悪を感じた赤い瞳も、雑な言動も、今は懐かしい気分になって不思議だ。
しかし、この時から拷問の日々が始まった。
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