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3部 王のピアノと風見鶏
第16話 アシュレイの思い
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王の言葉に、バーンスタイン卿は一切の動きを止め、嚥下する音が背中から伝わった。
「陛下。もう、おやめください。リアム、全ての真実を受け止める自信があるか? どんなに絶望をしても自暴自棄に当たり散らすことなく、領主を殺すこともないと、約束ができるか?」
「バーンスタイン卿、貴方は何を隠しているのです?」
「リアム、質問に答えるんだ」
「約束する。こんな男に支配されるくらいだったらなんだってする」
渾身の憎悪を込めた言葉に、今度はバーンスタイン卿がため息をついた。
「陛下、リアムを同行させます」
「どうせ殺すだろうよ。しかし約束は約束だ。正直お前らが思ってるより俺は欲望に忠実なんだ。リアムが領主を殺したならば、今度は容赦はせんぞ。取り逃した場合も同様だ。如何なる理由があっても一切の譲歩はしない。オットーを見張りにつけさせない。お前らも王宮に出入りをさせん。泣いても喚いても、正気を失っても、リアムを犯し続ける。奇跡の器よ、リアムではなく、お前がその誓いを立てるのだ」
「貴方が欲望に忠実なのは旧知の事実です。私の命をかけて誓います。リアム、私の命で足りないのならば、誰か指名しろ。お前をあの悪魔の餌食になどさせない」
「バーンスタイン卿の命だけでも恐れ多く……申し訳ございません……その誓いに背くことなく、責務を全ういたします……」
「仲のいいことだな」
侮蔑の混じったその言葉に、頭にきて王を睨みつける。しかしその家畜を眺めるような赤眼に激しい嫌悪を抱き、目を逸らした拍子に先に荷台から降りた。
後から降りてきた全員が馬車を見送った時、バーンスタイン卿が俺の肩を抱いた。
「王の名誉のために言っているんじゃない。この国の大半の魔人は、庸人の孤児がいなくなろうとどうでもいいと思っている。王だけがそれを食い止めるべく、こうやって俺たちを遣いに出しているのだ。それが、リアムのような子どもを救うことにも、村全体を救うことにも繋がっているのだと、忘れてはならない」
バーンスタイン卿は更に俺の二の腕を両手で掴み続ける。
「一時の激情に流され、真実から目を背けてはならない。これは命が惜しいから言っているのではない。俺も同じ過ちを犯し、今でも後悔しているから言っている」
彼の色の違う両眼が、懇願の色に変わる。その横にいたルークがため息を吐きながら野次を入れた。
「人間その時にならなければわからないものさ。リアム、失敗したっていいがな。今回ばかりはアシュレイの命がかかっているんだ。そのことだけ忘れないでくれ。彼が本気でリアムを信頼しているのだと、その友情を疑うことだけはしないでくれ」
ルークが優しく笑い、バーンスタイン卿は俺の腕を手放した。そしてジルが言う。
「一切の情報を秘匿し、お前を置いて行くこともできたのだ。これは俺の判断だということだけは伝えておく」
今まさに一時の激情で周りが見えなくなり、友情を疑った愚かさを知る。確かに今日まで豚野郎が隊列のどこにいるのかすらわからなかったのだ。その気になれば黙ってバーンスタイン卿とジルが豚野郎を探しにいくことだってできたはずだ。しかし彼らに俺を慮る優しさがあったからこそ、真実を託して俺に選択を迫ったのだ。
俺は手前勝手な考えと愚かさを痛感し、俯く。
「ほら、おいで」
その言葉に顔をあげると、ジルは優しく両手を広げていた。おずおずと近づくと、彼は優しく抱き上げ、額に祝福のキスを落としてくれる。
この時、俺はルークの言う通り、頭で理解しているようで、なにもわかっていなかった。そしてなぜ、ジルがわざわざ責任の所在を明らかにしたのかということにまで、頭が回らなかったのだ。
「陛下。もう、おやめください。リアム、全ての真実を受け止める自信があるか? どんなに絶望をしても自暴自棄に当たり散らすことなく、領主を殺すこともないと、約束ができるか?」
「バーンスタイン卿、貴方は何を隠しているのです?」
「リアム、質問に答えるんだ」
「約束する。こんな男に支配されるくらいだったらなんだってする」
渾身の憎悪を込めた言葉に、今度はバーンスタイン卿がため息をついた。
「陛下、リアムを同行させます」
「どうせ殺すだろうよ。しかし約束は約束だ。正直お前らが思ってるより俺は欲望に忠実なんだ。リアムが領主を殺したならば、今度は容赦はせんぞ。取り逃した場合も同様だ。如何なる理由があっても一切の譲歩はしない。オットーを見張りにつけさせない。お前らも王宮に出入りをさせん。泣いても喚いても、正気を失っても、リアムを犯し続ける。奇跡の器よ、リアムではなく、お前がその誓いを立てるのだ」
「貴方が欲望に忠実なのは旧知の事実です。私の命をかけて誓います。リアム、私の命で足りないのならば、誰か指名しろ。お前をあの悪魔の餌食になどさせない」
「バーンスタイン卿の命だけでも恐れ多く……申し訳ございません……その誓いに背くことなく、責務を全ういたします……」
「仲のいいことだな」
侮蔑の混じったその言葉に、頭にきて王を睨みつける。しかしその家畜を眺めるような赤眼に激しい嫌悪を抱き、目を逸らした拍子に先に荷台から降りた。
後から降りてきた全員が馬車を見送った時、バーンスタイン卿が俺の肩を抱いた。
「王の名誉のために言っているんじゃない。この国の大半の魔人は、庸人の孤児がいなくなろうとどうでもいいと思っている。王だけがそれを食い止めるべく、こうやって俺たちを遣いに出しているのだ。それが、リアムのような子どもを救うことにも、村全体を救うことにも繋がっているのだと、忘れてはならない」
バーンスタイン卿は更に俺の二の腕を両手で掴み続ける。
「一時の激情に流され、真実から目を背けてはならない。これは命が惜しいから言っているのではない。俺も同じ過ちを犯し、今でも後悔しているから言っている」
彼の色の違う両眼が、懇願の色に変わる。その横にいたルークがため息を吐きながら野次を入れた。
「人間その時にならなければわからないものさ。リアム、失敗したっていいがな。今回ばかりはアシュレイの命がかかっているんだ。そのことだけ忘れないでくれ。彼が本気でリアムを信頼しているのだと、その友情を疑うことだけはしないでくれ」
ルークが優しく笑い、バーンスタイン卿は俺の腕を手放した。そしてジルが言う。
「一切の情報を秘匿し、お前を置いて行くこともできたのだ。これは俺の判断だということだけは伝えておく」
今まさに一時の激情で周りが見えなくなり、友情を疑った愚かさを知る。確かに今日まで豚野郎が隊列のどこにいるのかすらわからなかったのだ。その気になれば黙ってバーンスタイン卿とジルが豚野郎を探しにいくことだってできたはずだ。しかし彼らに俺を慮る優しさがあったからこそ、真実を託して俺に選択を迫ったのだ。
俺は手前勝手な考えと愚かさを痛感し、俯く。
「ほら、おいで」
その言葉に顔をあげると、ジルは優しく両手を広げていた。おずおずと近づくと、彼は優しく抱き上げ、額に祝福のキスを落としてくれる。
この時、俺はルークの言う通り、頭で理解しているようで、なにもわかっていなかった。そしてなぜ、ジルがわざわざ責任の所在を明らかにしたのかということにまで、頭が回らなかったのだ。
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