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3部 王のピアノと風見鶏
第15話 王の制裁
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「な! あの豚野郎がいなければ国境を越える意味などない! なぜあいつは逃げ出したんだ!」
俺は怒りに任せ、バーンスタイン卿に罵声を浴びせる。冷静にその事実に気づいた時にはすでに全てを吐き出した後だった。しかしバーンスタイン卿は優しく俺の頭を撫でながら続ける。
「先の謀反で国境線近くのベルクマイヤ王国側の領主を裁いた時に、明るみに出た事実がある。我国の領主たる人間がお恥ずかしい限りだが……」
バーンスタイン卿は不自然なところで言葉を切った。それに不信感を募らせていると、横に座っていたジルが続けた。
「僻地の領主ともあって暇を持て余していたのか、酒や女、挙句の果てには薬にまで手を出していた。薬の仲買人は別件で収監されていたから、その事実はすぐにわかった。しかしその収入源がまったく分からなかったのだ。先の謀反で買収されたにしては以前から派手に遊んでいたようだったからな……。根本解決に向け調査をしたところ、人身売買をしていたことが判明した。多分お前の豚野郎はこの証拠を隠滅するために、隊列から外れた」
「人身売買って……魔人を売っているということですか?」
テオの素朴な疑問に今度はジルが黙る。俺はジルが黙る理由がわかった。国境線近くにいて、売られても構わない人種がいる。
「その領地には大きな孤児院があってな。庸人の捨て子を売っていたのだろう。リアムも……その捨て子だった可能性がある」
他人事のように聞いていたのに、バーンスタイン卿の憶測に衝撃を受け、目を見開く。そして思うのだ。あの村に親の居ない子どもが多いことに、なぜなにも疑問を持たなかったのだろう、と。男は労働者として宿舎のような場所で暮らし、器量の良い女だけが使用人のいる屋敷に部屋を持てた。マリーにさえ親が居ないのだ。そしてその時に心の風見鶏が震えだした。
「リアム、心中を察し難いが、王はその人身売買の根源を断つため、お前の豚野郎を泳がせていたのだ。すまない、ここで領主を殺すわけにはいかない。全ての関係者を洗い出さなければ、トカゲの尻尾切りになってしまう。だから……このまま王と国境線を越えてくれ。必ず領主を連れて行く。捕虜の引き渡しを条件に、豚野郎、および村の法権を交渉する」
ジルの声はいつもより小さかった。ここに呼んだメンバーで領主を探しに行くのだろう。
「隊列に戻るわけではなく、王と一緒にというのは、俺を信用していないからですか? 夜営で誓った友情は幻想ですか?」
ジルは困ったように眉を下げた。それを見て、王はため息をつきながら、滑らかに喋り出す。
「私の命令だ。リアム、国境線まで私の相手をするんだ。これを逃したら機会がないからな。今度は手加減しない。私の欲望をその体で存分に満たすのだ。お前に拒否権などない」
王の言葉に憎悪と怒りが沸点を超えた。振り返って王に掴みかかろうとした時、バーンスタイン卿が後ろから羽交い締めで俺を止めた。
「リアム、フォークの誓いを破るのか?」
「バーンスタイン卿! だからフォークを取り上げたのか!?」
「違う、リアム。陛下! 貴方は不器用すぎるきらいがおありのようで! もっとご自分を大事になさった方がよろしいかと!」
「お前にご高説賜るとはな。お前は何様のつもりだ? 王の命令に背くのか? そもそも、来賓を殺そうとした輩になんの罰もないとでも思っているのか?」
俺は怒りに任せ、バーンスタイン卿に罵声を浴びせる。冷静にその事実に気づいた時にはすでに全てを吐き出した後だった。しかしバーンスタイン卿は優しく俺の頭を撫でながら続ける。
「先の謀反で国境線近くのベルクマイヤ王国側の領主を裁いた時に、明るみに出た事実がある。我国の領主たる人間がお恥ずかしい限りだが……」
バーンスタイン卿は不自然なところで言葉を切った。それに不信感を募らせていると、横に座っていたジルが続けた。
「僻地の領主ともあって暇を持て余していたのか、酒や女、挙句の果てには薬にまで手を出していた。薬の仲買人は別件で収監されていたから、その事実はすぐにわかった。しかしその収入源がまったく分からなかったのだ。先の謀反で買収されたにしては以前から派手に遊んでいたようだったからな……。根本解決に向け調査をしたところ、人身売買をしていたことが判明した。多分お前の豚野郎はこの証拠を隠滅するために、隊列から外れた」
「人身売買って……魔人を売っているということですか?」
テオの素朴な疑問に今度はジルが黙る。俺はジルが黙る理由がわかった。国境線近くにいて、売られても構わない人種がいる。
「その領地には大きな孤児院があってな。庸人の捨て子を売っていたのだろう。リアムも……その捨て子だった可能性がある」
他人事のように聞いていたのに、バーンスタイン卿の憶測に衝撃を受け、目を見開く。そして思うのだ。あの村に親の居ない子どもが多いことに、なぜなにも疑問を持たなかったのだろう、と。男は労働者として宿舎のような場所で暮らし、器量の良い女だけが使用人のいる屋敷に部屋を持てた。マリーにさえ親が居ないのだ。そしてその時に心の風見鶏が震えだした。
「リアム、心中を察し難いが、王はその人身売買の根源を断つため、お前の豚野郎を泳がせていたのだ。すまない、ここで領主を殺すわけにはいかない。全ての関係者を洗い出さなければ、トカゲの尻尾切りになってしまう。だから……このまま王と国境線を越えてくれ。必ず領主を連れて行く。捕虜の引き渡しを条件に、豚野郎、および村の法権を交渉する」
ジルの声はいつもより小さかった。ここに呼んだメンバーで領主を探しに行くのだろう。
「隊列に戻るわけではなく、王と一緒にというのは、俺を信用していないからですか? 夜営で誓った友情は幻想ですか?」
ジルは困ったように眉を下げた。それを見て、王はため息をつきながら、滑らかに喋り出す。
「私の命令だ。リアム、国境線まで私の相手をするんだ。これを逃したら機会がないからな。今度は手加減しない。私の欲望をその体で存分に満たすのだ。お前に拒否権などない」
王の言葉に憎悪と怒りが沸点を超えた。振り返って王に掴みかかろうとした時、バーンスタイン卿が後ろから羽交い締めで俺を止めた。
「リアム、フォークの誓いを破るのか?」
「バーンスタイン卿! だからフォークを取り上げたのか!?」
「違う、リアム。陛下! 貴方は不器用すぎるきらいがおありのようで! もっとご自分を大事になさった方がよろしいかと!」
「お前にご高説賜るとはな。お前は何様のつもりだ? 王の命令に背くのか? そもそも、来賓を殺そうとした輩になんの罰もないとでも思っているのか?」
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