幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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3部 王のピアノと風見鶏

第5話 自由な右手 ※

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 さっき破かれた服の裂け目に、王の熱く大きな手が這う。やめろといっているのに、その熱を体が求めている。猿ぐつわを外されたのに息苦しくて仕方がない。自分の体に反応に混乱して、正常な判断ができないのだ。

 王の手は胸の先端を通り過ぎそのまま首筋を這う。頭と首の付け根の髪を柔らかく掴まれ、そのままかきあげられた。

「柔らかく、美しい黒髪だ。黒い瞳も珍しい。リアムの故郷ではこの色の髪と瞳が一般的なのか?」

 心の中のマリーが長い黒髪を揺らし、振り返る。その黒くつぶらな美しい瞳が、俺をじっと見つめて潤む。

「暴れるんじゃないぞ」

 王は顔を寄せてそう言い、俺の手首の縄を解いた。暴れるなと言われても、まだあの不思議な力で縛られていて指一本動かせない。抗議の目で睨みつけると、王は少し笑って俺の視界から居なくなった。そして急に下半身が空気に晒される。そして足を大きく開かされ、足首の縄も解かれたことを知った。

「な、なにをする気だ!」

 王は黙ったまま、ベッドの横に置いてある水差しのようなものを持ち、そしてそれを俺の股間に垂らした。ぬるりと気色の悪い感覚が、俺の肌を伝って、尻にまで到達する。
 マリーの時と同じだ。そう思ったら急激に嫌悪感と興奮がごちゃ混ぜになった不明な昂りが俺を襲った。
 王の熱い手が浅ましく昂った場所を包む。

「やめろって言ってるだろ!」

「そうか? では右手だけ自由にしてやるから、自分で触ってみるといい」

 急に右手に感覚が戻ったから、王の手を払った。その音がやけに響いた。

「お前ら下賤な豚野郎とは違うんだ!」

「そうか。誰と違うのだ?」

 その時、全身が貫かれるような鋭い感覚に襲われる。

「ひっあぁっ!」

「可愛い声を出す」

 あまりの感覚になにをされているのか全くわからなかった。繰り返し襲ってくる感覚が自分の腹の内側を押されているということに気づいた時、マリーの背中を見た日の映像が頭と心を埋め尽くした。

「や……やめろと……やめろ……」

 マリーと風見鶏を見に行こうと、木に登り2階の窓枠を掴んだ時にピアノが止まった。彼女は俺が来たことに気づいてくれたのだと思った。しかし次に聴いた音はピアノの音でも、窓を開ける音でもなかった。布を引き裂くような音に、鼻をつく香の匂い。いつもと違う雰囲気に躊躇い、しばらく窓枠を掴んだままでいると、彼女の悲鳴のような声が響いた。

「あ……あぁ……あっあっ!」

「お前を支配している名を呼んでみろ」

 慌てて窓によじ登り、飛び込んできた光景。マリーの綺麗な背中に覆いかぶさり、腰を振る豚野郎。マリーは。

「マリー……」

「そうだ。お前のここが触られたがっているぞ」

 マリーは悦んでいた。もう子どもではなかったのだ。あんな美しいピアノを奏でるのに、豚野郎の肉棒どころか、手を握り合って、汚く愛し合っていた。

「俺は……汚い……」

 あの純真なマリーを、俺はあんな風に汚したりしない。なのに、俺はあの日を思い出すたびにこうやって浅ましく昂り、そうしてマリーを汚すのだ。何度も、何度も、何度も。

 手が自然と昂りに伸びる。触れば頭の先まで筋が通ったようにスッと快感が迫り上がってくる。王が指を曲げ執拗に腹の中を押す。

「ふっ、うぅっ、ふっ、あぁっ」

「皆、汚い。お前だけが綺麗でいて、汚い者を罵りたいのか?」

 伸びた手で自分の昂りを握る。その手を王がそっと握って、動かすように促した。

「違うはずだ。リアム、お前はそんな軽薄な人間ではないはずだ」

「ううっ、ふっ、はっ、はぁっ!」

「名前を呼んでくれ、リアム」

 まるでマリーにそう言われているみたいだった。手が自然と上下に動いて、ダメだとわかっているのに快感に溺れる。

「マリー、マリー……」

 あの背中に鞭で打たれた跡があれば、あの豚野郎はマリーにあんなことをしなかったかもしれない。マリーが鞭で打たれていれば、もうピアノを弾かなかったかもしれない。あの風見鶏に2人で名をつけなければ、いつまでも子どもじみた遊びでマリーを困らせなかったかもしれない。

 あの豚野郎がいなければ、マリーが俺を置いて大人にならなかったかもしれない。あの背中を撫でたのは俺だったかもしれない。

「あああぁっ」

 腹に飛沫を感じ、体全体が激しい幸福感で包まれる。

「マリー……」

 王がその巨大な上半身で俺を陰で包み、そしていつのまにかこぼしてしまっていた俺の涙を唇で吸った。右手は動くはずなのに、王の行為を止められなかった。体が火照って、いてもたってもいられない。汚れは吐き出したはずなのに、心が汚れてぐちゃぐちゃになる。

「一体、何年溜め込んでたんだ。全て吐き出してしまえ。ほら、ここが悦いのだろう?」

 この日、国王に促されるまま何度も性液を吐いた。ダメだとわかっているのに手が止められなかったのだ。それを嘲笑うかのように国王は俺を眺め続けた。あの赤い瞳が、家畜を眺めるように嗤うのだ。
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