幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

最終話 エピローグ

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「あ、アシュレイ! ちょうど良いところに来た!」

塔の魔法鍵を開けて入ってきたアシュレイが怪訝そうにルイスを見る。

「アシュレイちょっと魔力を貸してくれない?」

満面の笑みで話すルイスとは真逆の顔でアシュレイが咳払いをする。

「わかってるって。かわいいノアちゃんを愛するために来たんだよね? でも僕はアシュレイに今日、許可を出した覚えはないんだよなぁ」

「ルイス、お前には常日頃感謝をしている。でも俺を実験台にするのは友としてどうなのだ!? それに魔力なら湖に腐るほどあるだろう!?」

「あ、許可のない方は退去いただいてもよろしいですか?」

アシュレイは閉口し、ググッと喉から変な声を出した。

アシュレイの家に滞在させてもらった1ヶ月は毎日お祭りみたいだった。でもそのお祭りが、塔に帰ってきても続くとは夢にも思わなかった。

機密性と風習の観点から、僕は相変わらず塔を出られないけど、こうやって毎日のようにアシュレイ、そしてルークやジルも来てくれる。

僕が思い描いていた楽しい毎日は、それぞれ4人が持っていてくれたのだ。こうやって毎日のようにその夢のかけらを届けに来てくれる。

「少しだけだからな」

「やった! じゃあこれを持ってくれる?」

ルイスは7賢者の1人になってから、日々魔力の研究に熱中している。僕も時々その研究を手伝わせてもらっているけど、ルイスの熱意には圧倒されてばかりだ。僕の研究に興味がなかったのは、こういった実用性がないからだと笑って言われたときには、少し寂しくなった。でも研究の話をするルイスを見ていると、僕もワクワクして、嬉しくて、楽しい。

今ルイスは、魔力を蓄える装置の研究に取り組んでいる。アシュレイの言うように、外の魔力でもいいのだけど、外の変換された魔力は水にしか宿らないし、吸い出すこともできない。

魔力を吸い出す機構と、蓄える機構は一気に研究できないから、魔力を出力してもらえるアシュレイに白羽の矢が立ったのだ。

「なぜ俺が……」

「アシュレイが奇跡の器でよかった! 兄様たちはちょっと魔力出しただけで疲れちゃうもん。アシュレイ様様だよ!」

「そもそもなんで! 水以外で! 蓄える必要があるのだ!?」

兄様たちだとすぐに倒れてしまうが、アシュレイでも疲れてしまうらしい。だからアシュレイは毎回あまり乗り気ではない。

「アシュレイは毎日ノアを愛せる口実になっていいかもしれないけどさ……」

ルイスが途中で言葉を切ったので、アシュレイは責めすぎたかと不安な顔になった。

「あ、アシュレイ。ルイスにはルイスの思いがあるのです……」

ルイスは子種のことをとても気にしていた。僕にはアシュレイがいてくれるからいいかもしれない。でもこの先の生贄が同じような選択を迫られた時、もしいつか世継ぎが欲しいと願う生贄だった場合、巨大な苦悩を背負わされる。

アシュレイの父上もそうだったに違いない。でもこれは僕からもルイスからも口が裂けても言えなかった。

「ノアがそう言うならば……仕方がない……」

ルイスは生贄1人が王都全体の生活を支えるのではなく、皆で少しずつ負担を分担できないかと思ったとのことだ。これが実現できれば、生贄をこの塔に閉じ込めることもなければ、そんな能力を持つこともないのだ。

「アシュレイ、ありがとうございます……」

「そういえば王の元へはもう出向いたのか?」

「はい、午前中に勉強させてもらいました」

週に何度か僕は悪魔の元へ飛んで行って、仕事を手伝ったり、渡された本を読んだりしている。でも悪魔は僕が行ってもちっとも嬉しそうではない。

「アシュレイにも会いたがっていましたよ。僕だけで行くとなんだか寂しそうなのです」

アシュレイは少し微笑みながら俯き、そうか、と呟いた。その顔もなんだか寂しそうで、2人はなにかあったのだろうか、と心配になる。

「さあ、ルイス。はじめよう。今日ははやく終わらせて、ノアとゆっくりしたいのだ」

「はいはい、じゃあこれに魔力をいれてね!」

ルイスが笑って、アシュレイは苦笑する。

毎日少しずつなにかが変わっていくけど、やっぱり毎日がお祭りみたいだ。

アシュレイとルイスの頬に西日が差し込む。

今日がまた終わってしまう。夕日を見ると最近は少し残念な気持ちになる。今日という日の灯が消えてしまうのが、とても名残惜しいのだ。

<了>
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