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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第58話 洋服(アシュレイ視点)
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ルイスが帰宅してから、ノアは使用人に囲まれ、楽しそうにやっていた。夕食を終え、風呂に入る段になって、ノアは服を脱ぎたくないのか、じっと俺を見つめている。
「どうしたノア? 服が気に入って脱ぎたくないか?」
「い、い、いえ」
口では否定していても、服を脱ぎたくないのだと手に取るようにわかった。今日一日、ノアは心の底から楽しんだに違いない。名残惜しさから、服を脱ぎたくないのだろう。
「ノア、少し触っていいか?」
「は、はい。アシュレイは、やはり服の上から触るのがお好みですか?」
裸の方が好みだとも言えず、少し返答に困った。服の上から触ることをあまり意識したことはなかったが、ノアの胸に手をつける時、毎回思い出すことはあった。
「今日のノアはとても格好が良いからな。お願いだ。少し服の上から触らせてくれ」
思い出すことについてよりも、ノアの喜びそうな言葉でやり過ごす。その言葉にノアは口をキュッと結んで瞳を潤ませた。さっきは嬉しくてそうしているのかと思っていたが、もしかしたら本人はこの顔が1番格好良いと思っているのかもしれない。そう思うと笑いを堪えるのがやっとで、俺は俯きながらノアの体を触った。
思い出すのは幼少期の夕焼けだった。捨て子が多く、飽和状態の孤児院は全員が腹を空かせて、何もない草原で暇を持て余していた。こどもの時間は恐ろしく長い。そこに夕焼けに照らされた小さなノアンが立っている。
永遠と思える長い一日で、この瞬間だけを俺は心待ちにしていた。
「ノア、今日は楽しかったな。明日は日中一緒にいられないが、留守番を頼めるか? 使用人と王都に買い出しへ行ってもいいし、本を読んでいたって構わない」
ノアはまた興奮して顔を紅潮させる。このままでは明日までこの服を着ているなどと言い出さないか心配になった。だから膝をつき、ジャケットの内側に手を入れ、服を脱がしていく。
「アシュレイは、は、初めて王都に行った時、どんなことをしましたか?」
その質問で思い返してみるが、もう10年も前のことだ。日常すぎて特に思い出せることもなかった。
その時に、思ったのだ。半年前まで、俺が永遠と絶望した日常が、ノアの日常だったことを。俺が思い出せないほどはるか昔から、あの牢獄のような毎日に閉じ込められていたことを。
それに思い至れば、塔での自分の所業がどれほど残酷かも浮き彫りになる。胸が締め付けられて、この感情をなんと表現したらいいかわからなかった。
「ノアと歩いた王都ほど、楽しかった思い出がない。また、一緒に王都に行きたい。ノアに見せたいものがいっぱいある。ノア……」
堪らずに、ノアの唇に吸い付く。ノアがゆっくりと口を開いたから、内側に舌を差し入れた。
この胸で暴れる感情の名を知らない。ノアに持てる全てを与えたい。ノアの時間を埋め尽くしてあげたい。ノアを幸せにしたい。
「アシュレイ? あの、今日はアシュレイの美しいのを味わわせてください」
「ああ、手加減してくれ」
ノアのシャツを脱がし、刺繍の入ったズボンを丁寧に脱がしていく。白く細い体が目の前に現れたら、頭の奥にモヤがかかったように思考が止まってしまう。
「ノア、また一緒に王都に行きたい」
この気持ちを忘れないうちにと、もう一度言ったらノアは不思議そうな顔をした。
「はい、はい。連れて行ってください」
ノアは顔を赤くした。でも興奮の時のそれとは違うような気がしたのだ。
「どうしたノア? 服が気に入って脱ぎたくないか?」
「い、い、いえ」
口では否定していても、服を脱ぎたくないのだと手に取るようにわかった。今日一日、ノアは心の底から楽しんだに違いない。名残惜しさから、服を脱ぎたくないのだろう。
「ノア、少し触っていいか?」
「は、はい。アシュレイは、やはり服の上から触るのがお好みですか?」
裸の方が好みだとも言えず、少し返答に困った。服の上から触ることをあまり意識したことはなかったが、ノアの胸に手をつける時、毎回思い出すことはあった。
「今日のノアはとても格好が良いからな。お願いだ。少し服の上から触らせてくれ」
思い出すことについてよりも、ノアの喜びそうな言葉でやり過ごす。その言葉にノアは口をキュッと結んで瞳を潤ませた。さっきは嬉しくてそうしているのかと思っていたが、もしかしたら本人はこの顔が1番格好良いと思っているのかもしれない。そう思うと笑いを堪えるのがやっとで、俺は俯きながらノアの体を触った。
思い出すのは幼少期の夕焼けだった。捨て子が多く、飽和状態の孤児院は全員が腹を空かせて、何もない草原で暇を持て余していた。こどもの時間は恐ろしく長い。そこに夕焼けに照らされた小さなノアンが立っている。
永遠と思える長い一日で、この瞬間だけを俺は心待ちにしていた。
「ノア、今日は楽しかったな。明日は日中一緒にいられないが、留守番を頼めるか? 使用人と王都に買い出しへ行ってもいいし、本を読んでいたって構わない」
ノアはまた興奮して顔を紅潮させる。このままでは明日までこの服を着ているなどと言い出さないか心配になった。だから膝をつき、ジャケットの内側に手を入れ、服を脱がしていく。
「アシュレイは、は、初めて王都に行った時、どんなことをしましたか?」
その質問で思い返してみるが、もう10年も前のことだ。日常すぎて特に思い出せることもなかった。
その時に、思ったのだ。半年前まで、俺が永遠と絶望した日常が、ノアの日常だったことを。俺が思い出せないほどはるか昔から、あの牢獄のような毎日に閉じ込められていたことを。
それに思い至れば、塔での自分の所業がどれほど残酷かも浮き彫りになる。胸が締め付けられて、この感情をなんと表現したらいいかわからなかった。
「ノアと歩いた王都ほど、楽しかった思い出がない。また、一緒に王都に行きたい。ノアに見せたいものがいっぱいある。ノア……」
堪らずに、ノアの唇に吸い付く。ノアがゆっくりと口を開いたから、内側に舌を差し入れた。
この胸で暴れる感情の名を知らない。ノアに持てる全てを与えたい。ノアの時間を埋め尽くしてあげたい。ノアを幸せにしたい。
「アシュレイ? あの、今日はアシュレイの美しいのを味わわせてください」
「ああ、手加減してくれ」
ノアのシャツを脱がし、刺繍の入ったズボンを丁寧に脱がしていく。白く細い体が目の前に現れたら、頭の奥にモヤがかかったように思考が止まってしまう。
「ノア、また一緒に王都に行きたい」
この気持ちを忘れないうちにと、もう一度言ったらノアは不思議そうな顔をした。
「はい、はい。連れて行ってください」
ノアは顔を赤くした。でも興奮の時のそれとは違うような気がしたのだ。
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