幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第55話 バーンスタイン家訪問(ルイス視点)

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塔の修復作業を一任された次の朝。僕が部屋を出ると、ハンスが僕を待っていた。

「おはよう! おじいちゃん」

ハンスは無言のまま僕を抱き寄せた。そして耳元で囁く。

「坊ちゃん少しお話があります。ただ、もう少しだけおはようのハグをさせてください」

「え、え!? おじいちゃんもう昨日のこと聞いたの!?」

「オットーが王宮帰りに寄ってくれたのですよ」

僕は昨日話したことを思い出し、恥ずかしくてハンスの胸の中でドキドキしてしまう。

ハンスは僕を連れ立って、使用人の部屋に通した。この屋敷には使用人の宿直室兼休憩室がある。いつもは使用人で賑わっているが、朝の支度で部屋には1人もいなかった。

ハンスの目が少し腫れている、それに気がつける程度には黙って見つめられていた。気まずさから僕から聞きたいことを聞いて、塔の修復について話題が及んだら、ハンスはいつもの調子に戻った。僕はハンスに復旧作業について相談し、今日手配すべきことや今後の予定など意見を交換する。

長らくハンスと一緒に暮らしてきたけど、こんな風に話すのは初めてだった。ハンスが僕に意見を求め、それについて意見を言ってくれる。それが僕を1人の大人として扱ってくれているようで、少しくすぐったかった。

「おじいちゃん、あ、あの」

「なんですか坊ちゃん」

ハンスに見つめられたとき、僕の中の弱い自分が少し顔を出した。だけど、昨日のジルの手を思い出したら、思い切って言えた。

「おじいちゃんを尊敬している。だから僕が少しでも間違ったことを言ったら、いつものように言ってもらいたい」

ハンスは咳き込み、しばらく顔を上げなかった。そして僕を見ないまま、小さく言ったのだ。

「ルイス坊ちゃん、これ以上私を泣かせないでください」

ハンスは昨日泣いたのだと、その言葉で知る。ハンスが丸めた背中を撫でたら、昨日決意した時の感情が噴き出した。




今日は塔修復の手配の帰り、ノアにどうしても渡したいものがあったから、バーンスタイン家に寄った。それにオットーにもお礼と、挨拶をしておきたかったのだ。使用人に通された先にいたノアを見て、思わず声をあげてしまう。

「ノア! す、すごくかっこいい! 紳士みたいだ!」

振り返ったノアは顔は真っ赤にして、ソワソワしだした。

「か、かっこいいかな?」

「ルイス、寄ってくれたのか? 昨日の今日ですまないな。でも今ようやくノアが落ち着いたところなんだ。あんまりノアを喜ばせないでくれ」

アシュレイは困ったように笑う。ノアを見れば今日どれだけはしゃいでいたのかわかった。

「今日は王都行ってみたの? 今度僕とも一緒に行こうね」

「うん、うん。また、またルイスとこの服で行く。今日ね、この服着てたから、飴をもらったんだよ!」

「そっかぁ、すごい似合ってるもんね」

ノアは息苦しくなったのか、ハフハフして言葉が出ないようだった。

「アシュレイ、塔のことでちょっとノアと2人きりで話したいことがあるんだ」

「そうか、塔の修復は目処が立ちそうか? 俺としてはもう少しノアと暮らしたいがな」

「うん、ちょっとキスをやめてもらっていい? 今日ハンスにも相談して、大体1ヶ月くらいで復旧できそうだよ。後でオットーさんにも挨拶したいから……」

「ああ、ではオットーを呼んでこよう。2階の応接間は使用人も入らないようにしてある。ノアとそこで話をしてくれ」

アシュレイはノアにキスを落としたら、庭へと向かった。きっとオットーは今日も庭の手入れをしているのだろう。僕はノアと連れ立って2階の応接間に向かう。途中、ノアが一旦部屋に戻ると言い、なにかを持って応接間に入ってきた。

「ノア、お節介かとも思ったけど、これ」

僕は布に包んで懐に入れてきたものを取り出した。腸を洗浄する器具と、軟膏だ。

「ル、ルイスこれ……買ってきてくれたの?」

「塔が燃えたときに一緒に燃えちゃったからね。アシュレイとこんなにいられる機会も少ないかもしれないから……」

「あ、ありがとう……ありがとう……僕は、アシュレイにもお菓子を買ってもらって……」

「ノア、友達なんだからそういうことは気にしないで。アシュレイにも言いづらいでしょ? 僕だって兄様に頼みづらいよ。困った時はお互い様」

ノアはグッと変な音を喉から鳴らした後、少し黙った。そして部屋から持ってきた包みをゆっくり開ける。

「ルイス……これ、はんぶんこしよう?」

多分王都でアシュレイに買ってもらったお菓子だろう。派手な装飾でこども心をくすぐるお菓子だった。ノアがその包みを広げる動作で、昨日の王の言葉を思い出した。まるで宝物のように渡すから食っていた、と。本当にその通りだと微笑ましくなった。

「ノア、一口だけ頂戴。今度これと同じものを作ってあげる」

「ええ!? 本当に!?」

ノアは腹の底から驚愕の声をあげるから、僕は吹き出してしまった。

「王都で食べて美味しかったものは、メモしておいて。多分大抵のものは作ってあげられるし、アシュレイにも食べさせたかったら、作り方教えてあげるから。一緒に作ろうよ」

短いけど塔で共に暮らした半年が愛おしかった。あの日常を取り戻すためにだったら、僕はどんな困難も乗り越えられる気がする。

「ああ、ああ。嬉しい。ありがとうルイス。で、でも。スコーンも食べたいよ」

「そうだった、スコーンは友情の証だからね。ノアが塔に戻る前に必ず作るよ」

ノアはまた顔を真っ赤にさせて喜んでいる。僕は紳士になったノアを抱き寄せて額に祝福のキスを落とす。ノアはくすぐったそうに肩を竦めた。
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