幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第53話 3人兄弟(ルイス視点)

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扉の閉まる音がして、僕は目覚めた。そして慌てて飛び起きる。辺りは真っ暗だった。王宮から帰る時に寝てしまったのだ。

兄様たちの独特な足音が部屋から遠ざかっていく。ルークとジルは僕の部屋からは別々の方角なのに、連れ立って歩く音が響く。だから僕はベッドを抜け出して、兄様たちの後を追った。

真っ暗な廊下に出た時に、そういえば王都は灯が消えてしまったのだと思い出す。暗がりで転ばないようそっと歩き出したら、ルークの部屋の扉が少しだけ開いているのが見えた。部屋に入らせてもらおうと扉に手をかけたとき、ジルの声で動きを止めてしまった。

「謝らなければならないことはいくつかあるが……」

僕は扉の隙間から部屋を覗く。ジルはソファーの背もたれに、ルークはベッドに腰掛けて、距離は離れているが向かい合っていた。月明かりが窓から差し込み、2人の表情が闇に浮かび上がっている。

「お前が謝ることは……何もない……ノアの子種を奪ってしまったのだ。アシュレイと暮らすとはいえ、私を助けるため……可能性を奪ったのだ……謝らなければならないのは、私だ」

ジルは俯き、しばらく無言が続いた。だから立ち聞きの罪悪感もあって、部屋に入ろうとしたけど、2人の雰囲気がそれをさせてくれなかった。

「もし、それがわかっていても……俺はノアに懇願しただろう」

ジルの思わぬ告白にルークが息を飲む。

「なにを言ってるんだ!」

「耐えられない! お前を失うなど!」

ルークは驚いたまま、ジルを見つめ続けた。僕はジルの気持ちが痛いほどよくわかった。ジルも僕と同じくらいルークを愛しているのだ。僕だって、命を引き換えと言われれば躊躇っただろうが、子種と言われたら迷わず頼んだかもしれない。

「ジル、謝りたいこととはなんだ?」

「まずはヴァイツ卿のことだ。お前のいう通り、悪党が悪事を働いていますとは言わない」

「そんなこと……」

ルークはただ一点を見つめて、ジルの言葉を待っていた。ルークの言う通り、そんなことより、もっと聞きたいことがあるような素振りだった。

「お前の愛する者を斬り殺した、このことについては……」

僕は扉の前でキュッと胸が痛んだ。宮殿の前で感じたそれと同じだった。ルークの前に立ちはだかった美しい青年。彼にルークは誘惑されたとジルは言っていた。でも最も胸が痛んだのはそこではなかった。謀反人だと知りながら、ルークが説得しようとしていたことに胸が痛んだのだ。

ジルがしばらく黙った後、決意するように言った。

「謝るつもりはない。利用されていたとはいえ、謀反人だ。当然のことをしたと思っている」

「では謝りたいこととはなんだ」

ルークは、心底冷え切った声でジルに問い直す。その声色が、ルークが本当に彼を愛していたことを物語っているように思えて、僕は胸が張り裂けそうだった。

「ルイスは成長した。今日の決意を聞いて、思い知らされた……。ルイスを引き合いに出して、いつまでもお前にすがっていたのは、俺だ」

「な、なにを言ってるんだ……」

「ルイスが恋しがるから、一緒にいてほしいのではない。俺がお前を必要としている。これをあの夜言えたならば、お前をこんなにも傷つけることはなかった」

ジルがソファの背もたれから立ち上がった。それに驚き、ルークが少し怯んだ。でもジルはルークの腕を引っ張り抱きしめる。

「俺を捨てないでくれ。3人がいい。今までどおり3人がいいと、言ってくれ」

ジルの背中はブルブル震えていた。

「愛しているんだ、兄さん」

ルークはジルの中でビクッと体を揺らした。恐る恐る、ルークの手がジルの背中を這う。2度ゆっくり撫でたら、ルークが言った。

「今日は疲れただろう? もう寝よう」

その言葉にジルはルークを押し倒した。

「お、おい! なにやってるんだ! 自分の部屋に行け!」

「おやすみのキスをしてやる」

「やめろ、やめろ、やめろ!」

「さっきできなかったから、させてくれ」

「おいおいおい! その話題を2度と口に出すんじゃない! 次そんなこと言ってみろ、本当にお前らを捨てて出ていくからな!」

ジルはピタッと動かなくなった。ルークは少し間を開けた後で、観念したように言った。

「明日からいつも通りだ。わかったから、はやく部屋に戻れ!」

ルークに怒鳴られて、シュンとしたジルが部屋を出てきた時、僕は慌てて扉から離れる。しかし部屋を出たジルにすぐにみつかってしまった。

僕を見るなり、恥ずかしそうに頬を掻くジルがすごく可愛くて、僕は立ち聞きしていたことを謝りもせず抱きついた。

ジルが僕を抱き上げ、歩き出す。だからジルの耳に顔を寄せ、ルークに聞こえないように囁いた。

「ジル、かっこよかった。ルークのこと、ありがとうございました」

ジルの大きな手が僕の背中を包む。僕の弱々しい背中などすっぽり包めるほど、その手は大きいのだ。この手に何度、背中を押されたかわからない。

「ジル、明日ルークに恋人の愛し方を教えてあげましょう」

「さっきのでは伝わらなかったか?」

「いいえ、ジルの気持ちは伝わりましたが、僕の気持ちは伝わってません」

「そうか、そうか。すまなかった」

「明日は、はやめに帰ってきてくださいね。作戦会議もしましょう」

ジルの顔を見上げると、まっすぐ前を向いていた。迷いなんてないその瞳に、僕は嬉しくて声をあげてしまう。

「ジル、大好き……」
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