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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第49話 それぞれの決意(ルイス視点)
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国王陛下の歴史の話は、僕にとってとても耳の痛い話だった。子どもの頃から魔人と庸人の差を意識しないようにしようとしていたが、窮地に立たされるとすぐにそれを出してしまうクセが僕にはあった。いつのまにか不当ばかりを主張して魔人に敬意を払えなくなってしまったのか。魔人に言われているようで、その実庸人にも言えることだった。
それをハンスは優しく正してくれた、僕の恩人だった。アシュレイの判決があった夜、あの食材を拾った夜。僕は魔人と一括りにしてアシュレイを詰ろうとした。しかしそれを止めたのは紛れもなくハンスの教育があったからだ。
もしあの時口に出していたら、僕は一生立ち直ることができなかっただろうと心の底から思う。
兄様はこんなに愛してくれるのに、弱い僕がどうしても捨てられなかった、この意識を教育によって封じ込めてくれたのはハンスに他ならない。
国王に覚悟を問われて思うのだ。僕にできることはなんだろうと。
「ブラウアー家では貴族には珍しく、使用人が教育係も担っていました。僕はこの教育で自分自身に絶望するような選択をせずに生きてこられたと思っています。ノアやアシュレイといった良き友に恵まれたのは、紛れもなくおじいちゃんの教育があったからです。兄様たちに愛される庸人でいられるのも、おじいちゃんの教育あってこそでした」
「ルイス……」
ノアが心配そうに僕を見る。僕は大丈夫、とノアに笑って続けた。
「7賢者になることが、おじいちゃんのようになることなのであれば、僕は謹んでお受けいたします。僕に全うできるかどうかは別問題ですが、僕はおじいちゃんを家族として、人生の先輩として心から尊敬しています」
王はじっと僕の目を見る。きっと僕に迷いがないのか見ているのだと思う。だけど、僕に迷いのない日などなかった。
迷いがないということが条件なのであれば、僕はそもそも適格者ではないのだ。
「ハンスの子煩悩だと思っていたが、そこまで耄碌していなかったようだな。ハンスに伝えよう。きっと喜んで家がピカピカになるぞ」
「ルイス……」
ルークが心配そうな声を出す。
「僕は、兄様たちが思うよりもずっと、今日の話に衝撃を受けたのです。僕は弱い庸人です。でも、ノアやアシュレイや兄様の国だと、そう心から言える庸人になりたい。そう言ってもらえる庸人になりたいのです」
僕はずっと蓋をしてきた感情が暴れ出しそうだった。それは昨日今日で閉じ込めたのではない、物心ついた時からずっと蓋をしてきた感情のような気がする。
僕は庸人であることを誇りに思いたいし、思ってもらいたい。
それは長年自分でも言葉にできなかった、紛れもない本心だった。
兄様たちが僕の手をそれぞれ握る。
「よく言った」
ジルが、短く言って、ルークは黙って頷いた。兄様たちもずっと、僕のこの感情に気がついていたのだ。そう思うと、心がじわじわ苦しくなって、これ以上話せなくなった。僕は兄様の手を握って、いつまでも離さなかった。
それをハンスは優しく正してくれた、僕の恩人だった。アシュレイの判決があった夜、あの食材を拾った夜。僕は魔人と一括りにしてアシュレイを詰ろうとした。しかしそれを止めたのは紛れもなくハンスの教育があったからだ。
もしあの時口に出していたら、僕は一生立ち直ることができなかっただろうと心の底から思う。
兄様はこんなに愛してくれるのに、弱い僕がどうしても捨てられなかった、この意識を教育によって封じ込めてくれたのはハンスに他ならない。
国王に覚悟を問われて思うのだ。僕にできることはなんだろうと。
「ブラウアー家では貴族には珍しく、使用人が教育係も担っていました。僕はこの教育で自分自身に絶望するような選択をせずに生きてこられたと思っています。ノアやアシュレイといった良き友に恵まれたのは、紛れもなくおじいちゃんの教育があったからです。兄様たちに愛される庸人でいられるのも、おじいちゃんの教育あってこそでした」
「ルイス……」
ノアが心配そうに僕を見る。僕は大丈夫、とノアに笑って続けた。
「7賢者になることが、おじいちゃんのようになることなのであれば、僕は謹んでお受けいたします。僕に全うできるかどうかは別問題ですが、僕はおじいちゃんを家族として、人生の先輩として心から尊敬しています」
王はじっと僕の目を見る。きっと僕に迷いがないのか見ているのだと思う。だけど、僕に迷いのない日などなかった。
迷いがないということが条件なのであれば、僕はそもそも適格者ではないのだ。
「ハンスの子煩悩だと思っていたが、そこまで耄碌していなかったようだな。ハンスに伝えよう。きっと喜んで家がピカピカになるぞ」
「ルイス……」
ルークが心配そうな声を出す。
「僕は、兄様たちが思うよりもずっと、今日の話に衝撃を受けたのです。僕は弱い庸人です。でも、ノアやアシュレイや兄様の国だと、そう心から言える庸人になりたい。そう言ってもらえる庸人になりたいのです」
僕はずっと蓋をしてきた感情が暴れ出しそうだった。それは昨日今日で閉じ込めたのではない、物心ついた時からずっと蓋をしてきた感情のような気がする。
僕は庸人であることを誇りに思いたいし、思ってもらいたい。
それは長年自分でも言葉にできなかった、紛れもない本心だった。
兄様たちが僕の手をそれぞれ握る。
「よく言った」
ジルが、短く言って、ルークは黙って頷いた。兄様たちもずっと、僕のこの感情に気がついていたのだ。そう思うと、心がじわじわ苦しくなって、これ以上話せなくなった。僕は兄様の手を握って、いつまでも離さなかった。
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