幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第47話 この国の歴史(アシュレイ視点)

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父の話題に、俺は驚きと共に妙な納得があった。俺は父の仕事を最後まで知らずにいた。貴族とはそういうものだと納得していたが、今考えればおかしなことばかりだった。

「それに幽閉塔の生贄だった」

その言葉で、俺の心が一気に黒く濁る。父にも王にも問われたことがあったからだ。「塔の管理は不服か?」と。

「アシュレイ、余計なことでまた気に病むな。塔が不名誉とされているのは、王の選出が塔から行われていることを隠蔽するためだ。だから生贄は家名も名乗れない。利権が発生するからだ」


そこから、王は7賢者のこと、そしてこの国のことを話し始めた。


魔人が他国からの迫害を逃れ、この地に逃げ込んだ時、この地にも庸人の先住民がいた。魔人はなんとか土地を借りて農業を始めたが、ろくな教育も施されていなかったため、魔人だけの集落ではすぐに立ち行かなくなってしまう。

そこで、先住民の庸人に労働力と魔力を提供する代わりに、農業などの基礎を習得した。この先住民が7賢者の祖先と言われている。

その後提供される魔力で庸人が様々な発明をすると、魔法科学は庸人のみならず、魔人にもなくてはならないものになっていった。しかしこの頃の魔力は周りの生命力を魔力として使うもの。土地は痩せ細り、魔人間にもなぜか魔力を持たない庸人が生まれるようになってしまった。

塔の開発は当初、そうして魔人の間に生まれた庸人を魔人に変換できないか、という研究だった。これは魔人側からの要請だった。しかしその副産物で莫大な魔力を生み出す装置が発明されたのだ。

この塔が完成した頃は、庸人も魔人も関係なく生贄になれた。しかし、庸人に生まれた者を魔人にしてもらいたいという要望から生まれた塔。しかも能力を使うと子種が無くなってしまうのであれば、魔人を生贄に捧げるのは本末転倒だった。
魔人の能力から魔法科学を発展させた庸人にとって、魔人からこれ以上の物を奪うことは躊躇われた。しかしそれでは生贄があまりにも酷だという双方の意見により、代償に統治の名誉を与えることで合意した。魔人も、庸人もこの国の永続的な存続を願い、国の仕組みづくりに奔走していた。迫害に苦しんだ者たちの集落だ。自国の繁栄のために尽力した者に国を託したい、そう願うのは当然のことだった。

時が経つと、双方の関係性が歪なものに変化していく。100年で世代は5世代変わるのだ。当時どんな思いでこの塔に関するしきたりが作られたかなど、今や知る者もいない。人は敬意の孤独に耐え難く、蔑みで結託し易い。

塔ができたその瞬間から、魔人も、庸人も、お互いが「あなたたちの国だ」と尊重し合う国ではなくなってしまったのだ。

魔人と庸人のバランスは傾き、庸人の国から逃れてできた国という話だけが一人歩きするようになってしまった。もとを正せば、庸人の謙虚さからできた制度ばかりだった。しかし魔人は自己の権利や能力ばかりを主張し、庸人を侮蔑するようになってしまう。昔は公にしていた7賢者も、こうなってしまえば正体を明かすことが難しくなってきた。一連の歴史そのものが、自国民の自信を失うものになってしまったのだ。それが現在に至る経緯となる。
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