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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第46話 魔法と命(アシュレイ視点)
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王が住うという宮殿にしては質素だ。それが第一印象だった。使用人も限られているのか、俺たちが歩いた廊下で1人もすれ違わなかった。
「案外質素でびっくりしているだろう? そうやってがっかりされるから、人を通さないのだ。代々ここの王となる者はそういうことに興味がなくてね」
俺や他の者もそう思っているだろうと、王は手早く答えた。応接間と思しき部屋に通される。そこにはかろうじてソファが用意されていた。9人がけということは7賢者もここに来るのだろうか?
「使用人は今日はいない。茶も出せないが……まぁ座ってくれ」
「で、では僕が……」
ルイスが気を利かせ、茶の用意をかって出たが、王はそれを止める。
「庸人の星も立派な客人だ。座りなさい」
ルイスは照れ笑いを隠しながら、ソファに向かう。そしてさっきから王に抱かれたままのノアがチラチラと俺を見ている。それに気づいた王が、ニヤリと笑って俺を見た。
「なんだ、ノア。私よりアシュレイがいいか?」
「い、え、はい。はい」
「冷たいことを言うな。俺とお前の仲ではないか。乳を触らせてくれた日が昨日のことのようだ」
その王の言葉に、本能的に剣の鞘に手が伸びる。
「冗談だ。乳を触ったのは本当だが、もう時効だろう」
俺はカッとなりつい炎を出してしまう。それをブラウアー兄弟が俺の体ごと倒して押さえてけた。
「部屋の中で炎を出すな! 相変わらず冗談が通じない奴だな! ノア、本当にあんなのと一生を共にするのか?」
「悪魔さんは、どうして悪魔なんて偽っていたのですか!? アシュレイのお父様が亡くなった日も……」
王は急にノアの口を手で塞いで慌てふためいた。そして観念したのか、ノアを床に下ろし、王は先にソファに座った。
全員が勧められたソファに着席すると、王は開口一番に7賢者のことを聞いた。
「ルイス、オットーから預かったノアへの伝言はここにいる者に話したのか?」
ルイスはビクッと体を揺らしたが、力強い視線で王を見つめ、そして答えた。
「はい。僕の命に賭けて、情報をルーク、ジル、アシュレイに託しました」
王はその視線を確かめるように見つめた後、わかった、と視線を落とした。
「まず、ノアについてひとつ知っておいてもらいたいことがある」
ノアは俺の膝の上で、きゅっと固くなった。そして待ち切れないのか、王に質問をした。
「も、もうあの塔にはもどれませんか!?」
王は虚を突かれた顔でノアを見た。
「そんなにあの塔の暮らしが気に入っているのか?」
「はい。でも、でも、その、あそこで魔人になりたいのです」
「なぜだ?」
「アシュレイの好みの大きさに……」
俺は大慌てでノアの口を塞ぐが、時はすでに遅く、全員が吹き出してしばらく会話ができなくなってしまった。
「ノア……」
「で、でも、魔人にならなければジルのようには大きくなれません」
「アシュレイはいい趣味をしてるな!」
ルークが笑いジルの肩をバンバン叩いている。言い訳も面倒になってしばらくこの辱めに耐えた。
「上物の塔は燃えてしまったが、装置は地下だ。お前が戻りたいと言うなら、塔の修復が済めば戻れる。しかしその前に覚悟を問うておきたいのだ」
王の真剣な眼差しに一同笑いを止めた。
「王はあの塔の生贄から選ばれる。次期国王はお前だ」
王の言葉に全員が息を飲んだ。息を飲んだところで言葉を咀嚼することはできず、全員黙り込んでしまった。
「それと……さっきお前は見られてはいけないものを見られたと言ったな。どっちを使った?」
王の眼差しがノアを貫き、ノアは俺の胸に仰け反った。
「どっちもです……。塔を出る時に空に浮き、駐屯地で倒れていたルークを治療しました……ご、ごめんなさい……」
ノアが少し震えている。さっき見た魔法は国王も父に使っていた。なぜこんなにもノアは怯え、国王は問い詰めるのかわからなかった。
「治療とはどの程度だ?」
王の問いにモゴモゴしたノアに代わり俺が答えた。
「急所を刺され致死量を超える出血量で、瀕死状態だった」
王は一点を見つめ、少し黙った。
「こればかりは私が謝らなければならない。ちゃんと話してから教えるべきだった」
王は頭を抱えてうずくまる。その様子を助けられたルークが1番不安そうな顔で見ていた。
「募集にもあったが、塔には女と交わった者は適格者ではない。あの塔で魔力変換できるのはそうした命の営みに無縁な者しか適さないのだ。そして、あの塔で魔力を奉仕するものの中で、ある能力が芽生える者が出てくる。それがノアが使った2つの能力だ」
王は言いづらそうに言葉を区切ったが、能力以外のことは全員が知っている事実だった。
「人の治癒とはつまり、本来土に還る命をつなぎ止めること。この能力を一定量使った者は子をなせない」
「そ、それはどういうことだ!? 不能になるということか!?」
俺は焦って国王と忘れて乱暴に質問してしまう。
「違う。子種が失われるということだ。だから国王は世襲ではない。それに……」
「それに?」
「アシュレイ、お前の父は前国王だ」
「案外質素でびっくりしているだろう? そうやってがっかりされるから、人を通さないのだ。代々ここの王となる者はそういうことに興味がなくてね」
俺や他の者もそう思っているだろうと、王は手早く答えた。応接間と思しき部屋に通される。そこにはかろうじてソファが用意されていた。9人がけということは7賢者もここに来るのだろうか?
「使用人は今日はいない。茶も出せないが……まぁ座ってくれ」
「で、では僕が……」
ルイスが気を利かせ、茶の用意をかって出たが、王はそれを止める。
「庸人の星も立派な客人だ。座りなさい」
ルイスは照れ笑いを隠しながら、ソファに向かう。そしてさっきから王に抱かれたままのノアがチラチラと俺を見ている。それに気づいた王が、ニヤリと笑って俺を見た。
「なんだ、ノア。私よりアシュレイがいいか?」
「い、え、はい。はい」
「冷たいことを言うな。俺とお前の仲ではないか。乳を触らせてくれた日が昨日のことのようだ」
その王の言葉に、本能的に剣の鞘に手が伸びる。
「冗談だ。乳を触ったのは本当だが、もう時効だろう」
俺はカッとなりつい炎を出してしまう。それをブラウアー兄弟が俺の体ごと倒して押さえてけた。
「部屋の中で炎を出すな! 相変わらず冗談が通じない奴だな! ノア、本当にあんなのと一生を共にするのか?」
「悪魔さんは、どうして悪魔なんて偽っていたのですか!? アシュレイのお父様が亡くなった日も……」
王は急にノアの口を手で塞いで慌てふためいた。そして観念したのか、ノアを床に下ろし、王は先にソファに座った。
全員が勧められたソファに着席すると、王は開口一番に7賢者のことを聞いた。
「ルイス、オットーから預かったノアへの伝言はここにいる者に話したのか?」
ルイスはビクッと体を揺らしたが、力強い視線で王を見つめ、そして答えた。
「はい。僕の命に賭けて、情報をルーク、ジル、アシュレイに託しました」
王はその視線を確かめるように見つめた後、わかった、と視線を落とした。
「まず、ノアについてひとつ知っておいてもらいたいことがある」
ノアは俺の膝の上で、きゅっと固くなった。そして待ち切れないのか、王に質問をした。
「も、もうあの塔にはもどれませんか!?」
王は虚を突かれた顔でノアを見た。
「そんなにあの塔の暮らしが気に入っているのか?」
「はい。でも、でも、その、あそこで魔人になりたいのです」
「なぜだ?」
「アシュレイの好みの大きさに……」
俺は大慌てでノアの口を塞ぐが、時はすでに遅く、全員が吹き出してしばらく会話ができなくなってしまった。
「ノア……」
「で、でも、魔人にならなければジルのようには大きくなれません」
「アシュレイはいい趣味をしてるな!」
ルークが笑いジルの肩をバンバン叩いている。言い訳も面倒になってしばらくこの辱めに耐えた。
「上物の塔は燃えてしまったが、装置は地下だ。お前が戻りたいと言うなら、塔の修復が済めば戻れる。しかしその前に覚悟を問うておきたいのだ」
王の真剣な眼差しに一同笑いを止めた。
「王はあの塔の生贄から選ばれる。次期国王はお前だ」
王の言葉に全員が息を飲んだ。息を飲んだところで言葉を咀嚼することはできず、全員黙り込んでしまった。
「それと……さっきお前は見られてはいけないものを見られたと言ったな。どっちを使った?」
王の眼差しがノアを貫き、ノアは俺の胸に仰け反った。
「どっちもです……。塔を出る時に空に浮き、駐屯地で倒れていたルークを治療しました……ご、ごめんなさい……」
ノアが少し震えている。さっき見た魔法は国王も父に使っていた。なぜこんなにもノアは怯え、国王は問い詰めるのかわからなかった。
「治療とはどの程度だ?」
王の問いにモゴモゴしたノアに代わり俺が答えた。
「急所を刺され致死量を超える出血量で、瀕死状態だった」
王は一点を見つめ、少し黙った。
「こればかりは私が謝らなければならない。ちゃんと話してから教えるべきだった」
王は頭を抱えてうずくまる。その様子を助けられたルークが1番不安そうな顔で見ていた。
「募集にもあったが、塔には女と交わった者は適格者ではない。あの塔で魔力変換できるのはそうした命の営みに無縁な者しか適さないのだ。そして、あの塔で魔力を奉仕するものの中で、ある能力が芽生える者が出てくる。それがノアが使った2つの能力だ」
王は言いづらそうに言葉を区切ったが、能力以外のことは全員が知っている事実だった。
「人の治癒とはつまり、本来土に還る命をつなぎ止めること。この能力を一定量使った者は子をなせない」
「そ、それはどういうことだ!? 不能になるということか!?」
俺は焦って国王と忘れて乱暴に質問してしまう。
「違う。子種が失われるということだ。だから国王は世襲ではない。それに……」
「それに?」
「アシュレイ、お前の父は前国王だ」
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