幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第44話 王の住う場所(アシュレイ視点)

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王の宮殿は最も奥まった山側に配置されている。俺やルイスが官吏の報告に行く宮殿や、駐屯地、塔からもだいぶ距離がある。

駐屯地以外にも厩舎はあり、それがこの宮廷の広さを物語っている。取り逃したレオはおそらく別の厩舎で馬を乗り、王宮に向ったのだろう。もしくはどこかで合流するか。

宮殿の前はちょっとした騒ぎになっていた。全魔法灯が消えるなど前代未聞すぎて、衛兵もまた事態を重く受け止めたのだろう。馬で乗り付けた俺たちを認識し、衛兵の1人が叫んだ。

「奇跡の器!? なぜ……!? 出征で軍は出払ったのではないのか!?」

「王の護衛に参った。陛下はこの中に居られるのか?」

俺は先に馬を降りて、その後ノアを抱いて地面に下ろした。ブラウアー兄弟も次々に馬を降りる。その風景に、衛兵の持つ槍の先が割って入ってきた。

「軍人にも衛兵を動かす権限はない! こんな最中、貴様が信用足り得る確証もないのだ! 貴様の質問に答える義務などない!」

「優秀な衛兵だ。なにもこの中に入ろうとしているわけではない。7賢者の護衛で衛兵が分散されたと聞いた。だから……」

その時、頭上から声が降ってきた。

「ノア!?  無事だったか!」

声に続きあろうことか国王陛下自身も2階のテラスから飛び降りてきた。その姿に、衛兵も俺たちも驚き、全員が最敬礼で地面を見た。その地面にただひとつの足音が響き渡る。

「悪魔さん!」

ノアのその声に、俺も、そしてブラウアー兄弟も顔を上げてしまう。王は両手を広げ、走っていったノアを抱き上げた。

「魔法灯が消えたからお前の仕業だと思っていたが……随分遅かったな。草でも食んでいたのか?」

「いいえ、いいえ。最近は草を食べていません。でも塔が焼けてしまって……もうパンはあげられません」

「そんな食い物の話ばかりで、よく塔から逃げ出せたな。だいぶ燃えていたから心配したぞ」

「ルイスが、生きても死んでもスコーンを作ってくれるって約束してくれました」

王は吹き出して大笑いをする。後ろにいるルイスが狼狽して呼吸が乱れているのを感じた。だから俺は短くノアを呼ぶ。

ノアが振り返り、そして俺たちの最敬礼を見て青ざめた。

「ははは、奇跡の器は嫉妬深いようだな。ノア、いろいろと聞きたいことや、話したいことはあるのだが……」

国王が中途半端に言葉を途切らせた、その意味を後ろから聴こえる馬の蹄の音で知る。

「陛下! 宮殿にお戻りください!」

俺は立ち上がり剣を抜く。

「いいや」

国王の言葉に俺は振り向き、ルークとジルが代わりに剣を抜き後ろに向かって構えた。

「ルイス、下がっていなさい」

ルークが短く言うと、ルイスは国王とノアの元に走った。ルイスが国王の元へ到着したとき、国王が俺の目を見据えてゆっくり口を開いた。

「アシュレイ、お前の器では有り余るのだ。どうせここに来るまでも、傭兵を殺してしまったのだろう」

「な……」

「ここは戦場ではない。私に従え。ここまで下がり私の前に跪け」

唐突な要求だったが従う他なかった。ブラウアー兄弟に前衛を託し、王に応える。

「御意」

ブラウアー兄弟と同じ方向に剣を構えながらジリジリと後方に移動する。そうしている間に無数の蹄の音が止み、兵の足音が聞こえてくる。

「ノア、お前はなぜ魔力がすっからかんなのだ? 草を食むほどに腹を空かせるのも早いのか……」

「あの……ここに来る前に……悪魔さんに見られてはダメだと言われたことを……全て見られてしまいました……ごめんなさい……」

王とノアが呑気な会話をしている間に、目の前の茂みから無数の傭兵が飛び出してくる。

その時、王の手が俺の肩に乗り、そして景色が歪んだ。貧血のような目眩に襲われながらも、飛び出してきた傭兵が次々に地に落とされる不思議な光景に唖然とする。

それは前衛にいたブラウアー兄弟も同じだった。その光景に2人は振り返り、目があった時に、俺は膝から地面に崩れ落ちた。

「アシュレイ!」

ノアの呼びかけに振り返ることができない。血液が大量に流れ出ているような感覚で、身動きが取れないのだ。

「お前が魔力を持ってこないから、アシュレイから拝借したのだ。心配するな。こいつは奇跡の器。お前もよく知っているであろう」

俺から一層血が抜かれたような気がして、遂に剣を落とし、手を地につけてしまった。そうしている間に、迫りくる傭兵がバタバタと地に落とされていった。
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