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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第35話 ルイスの地図
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「ルイス、アシュレイは今どの辺にいるかわかる?」
僕は遠くまで目を凝らすが、さっき見た松明の列は王都周辺には見当たらなかった。
「今日は多分王都を下って、あの丘、あの丘の先に平原があるから、そこで一旦陣形を整えて明日の朝出発すると思う」
ルイスが指差す「あの丘」が遠すぎて場所の検討がつかない。
「夜営って篝火とかないの?」
「周りは森だし、王都のようには明るくないよ」
確かにルイスの言う通りだった。手前の王都が眩しすぎて、奥の丘など闇も同然だった。僕はこの王都に連れられて来た時にただ一度通ったきりで、王都が夜にこんなに明るくなることを知りもしなかった。
ただただ真っ黒な稜線が空とを一本線で分断している。その景色とルイスの言葉で、僕はあることを思い立った。
「あそこまで飛んでいくの?」
「ううん、僕が浮いていられるのはこの下の湖のお陰なんだ。だから湖から離れたらどんどん超えちゃいけない境界が近づいちゃう」
今度は僕が素直に今できること、できないことを話したせいか、嬉しそうに微笑んだ。だから安心して相談することができそうだった。
「ルイス、僕はこの塔のことよくわからなかったんだけど、今こうやって浮いていたら、色々とわかったんだ。こうしている間は安全だから、相談にのってもらいたいことがあるんだけど」
「もちろんだよ! ノアが頼ってくれるのすごく嬉しいんだからね!」
「僕はどうしても下の湖に直接触れたいんだけど、どこか目立たない場所ないかな?」
「目立たない場所かぁ……」
僕は王都の地形には詳しくても、王宮のことについて何もわからなかった。ルイスが考えている間になぜそう思うのか伝えたかった。
「さっき、今浮いている力で湖に触れた時、なぜ生贄は塔を出てはならないのかわかった気がしたんだ」
「え……なんで? 僕も知りたい」
「この塔は他の魔力を通していない純粋な人の責務じゃなきゃいけないんだと思う。だから塔は不可逆で排他的な装置になってたんだ」
女と交わったことがない者。それは塔の応募で優遇される事項だった。きっと妊娠を前提とした行為にはなんらかの魔力の交換があるのだと推測できる。
「ちょ、ごめんもう少し易しく説明して」
「僕のこの能力も魔法なんだけど、塔では自分自身の魔力しか使えなかった。こんなに近くに魔力源があるのに、外に出て自分が魔法を使うまで、そこに魔力源があるということも気づかなかった。今外の魔力を使ってみて……」
僕は今自分自身が垂らす縄のような、管のようなものから僕を通っていくものの説明ができず言い淀んだ。
「説明が難しいんだけど、自分以外の……装置で変換された別の魔力が混ざったのがわかる……だから……塔が元どおりになっても、僕は生贄に戻れないと思う」
「そうなんだ……」
ルイスは少しショックを受けてしまったみたいだ。きっと僕の話し方が良くなかったのだ。
「僕が今魔力を吸っている自分の管だと、細くて、浮いているだけで消費されちゃうんだ。だから、湖に直接触れて魔力を蓄積できたらもう、少し遠くにも飛べると思う」
「ああ、うん。そ、そうだよね。ちょっと考えてみたんだけど、厩舎の方角に向かう道がちょっとした森になっていて、あ、ほらあそこほとり。あそこだったら馬が通れる道もないし、主要な建物につながる道もないからいいんじゃないかな?」
ルイスはさっきのショックから立ち直れないのか不自然な笑みで捲し立てた。
「ルイス、僕が生贄じゃなくても、友達でいてくれる?」
ルイスは目を見開いて、また目を潤ませた。
「こっちのセリフだよ! これからは自由なんだ。どこへでも行けるし、誰とでも遊べるんだよ。アシュレイが好きなのもわかるけど、僕とも遊んでよね」
ルイスが抱きついた。だから僕はゆっくりとルイスが指し示してくれた場所に下っていった。
僕は遠くまで目を凝らすが、さっき見た松明の列は王都周辺には見当たらなかった。
「今日は多分王都を下って、あの丘、あの丘の先に平原があるから、そこで一旦陣形を整えて明日の朝出発すると思う」
ルイスが指差す「あの丘」が遠すぎて場所の検討がつかない。
「夜営って篝火とかないの?」
「周りは森だし、王都のようには明るくないよ」
確かにルイスの言う通りだった。手前の王都が眩しすぎて、奥の丘など闇も同然だった。僕はこの王都に連れられて来た時にただ一度通ったきりで、王都が夜にこんなに明るくなることを知りもしなかった。
ただただ真っ黒な稜線が空とを一本線で分断している。その景色とルイスの言葉で、僕はあることを思い立った。
「あそこまで飛んでいくの?」
「ううん、僕が浮いていられるのはこの下の湖のお陰なんだ。だから湖から離れたらどんどん超えちゃいけない境界が近づいちゃう」
今度は僕が素直に今できること、できないことを話したせいか、嬉しそうに微笑んだ。だから安心して相談することができそうだった。
「ルイス、僕はこの塔のことよくわからなかったんだけど、今こうやって浮いていたら、色々とわかったんだ。こうしている間は安全だから、相談にのってもらいたいことがあるんだけど」
「もちろんだよ! ノアが頼ってくれるのすごく嬉しいんだからね!」
「僕はどうしても下の湖に直接触れたいんだけど、どこか目立たない場所ないかな?」
「目立たない場所かぁ……」
僕は王都の地形には詳しくても、王宮のことについて何もわからなかった。ルイスが考えている間になぜそう思うのか伝えたかった。
「さっき、今浮いている力で湖に触れた時、なぜ生贄は塔を出てはならないのかわかった気がしたんだ」
「え……なんで? 僕も知りたい」
「この塔は他の魔力を通していない純粋な人の責務じゃなきゃいけないんだと思う。だから塔は不可逆で排他的な装置になってたんだ」
女と交わったことがない者。それは塔の応募で優遇される事項だった。きっと妊娠を前提とした行為にはなんらかの魔力の交換があるのだと推測できる。
「ちょ、ごめんもう少し易しく説明して」
「僕のこの能力も魔法なんだけど、塔では自分自身の魔力しか使えなかった。こんなに近くに魔力源があるのに、外に出て自分が魔法を使うまで、そこに魔力源があるということも気づかなかった。今外の魔力を使ってみて……」
僕は今自分自身が垂らす縄のような、管のようなものから僕を通っていくものの説明ができず言い淀んだ。
「説明が難しいんだけど、自分以外の……装置で変換された別の魔力が混ざったのがわかる……だから……塔が元どおりになっても、僕は生贄に戻れないと思う」
「そうなんだ……」
ルイスは少しショックを受けてしまったみたいだ。きっと僕の話し方が良くなかったのだ。
「僕が今魔力を吸っている自分の管だと、細くて、浮いているだけで消費されちゃうんだ。だから、湖に直接触れて魔力を蓄積できたらもう、少し遠くにも飛べると思う」
「ああ、うん。そ、そうだよね。ちょっと考えてみたんだけど、厩舎の方角に向かう道がちょっとした森になっていて、あ、ほらあそこほとり。あそこだったら馬が通れる道もないし、主要な建物につながる道もないからいいんじゃないかな?」
ルイスはさっきのショックから立ち直れないのか不自然な笑みで捲し立てた。
「ルイス、僕が生贄じゃなくても、友達でいてくれる?」
ルイスは目を見開いて、また目を潤ませた。
「こっちのセリフだよ! これからは自由なんだ。どこへでも行けるし、誰とでも遊べるんだよ。アシュレイが好きなのもわかるけど、僕とも遊んでよね」
ルイスが抱きついた。だから僕はゆっくりとルイスが指し示してくれた場所に下っていった。
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