114 / 240
2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第34話 友達
しおりを挟む
アシュレイのことを思い出す。そしてルイスにどうしても言っておきたいことがあった。
「ま、魔力が足りないのは……ぼ、僕が昨日我慢しなかったせいなんだ……ルイス、途中で魔力が底を尽きて湖に落ちたら、その時には多分僕は死んでるから、縄を解いて1人で逃げて」
ルイスは黙々と作業をしていて僕を見ない。
「その越えてはならない境界を超えると死んじゃうの?」
「う、うん。命を削ることになるって言ってた」
「じゃあさ、もし越えそうになったら魔法をやめてね」
さっき魔法を使った時にすぐそこに境界は見えていたのだ。少々無理する覚悟で挑もうとしていたことに釘を刺されて、僕はルイスの顔を見つめた。
「ノアは、僕にさっきみたいな思いさせたいの? 生きるも死ぬも2人一緒だよ」
「そ……そんなこと……」
「友達でしょ?」
当たり前のことのように言った後、ルイスはようやく僕の顔を見て微笑んでくれた。心の中が温かい気持ちでいっぱいになって、そうだそれでいいのだ、と納得することができた。
「生きても死んでも、スコーン食べたい」
「うん、チョコレートと、クルミ、それに紅茶の茶葉を入れるとすごく香ばしいんだよ!」
ルイスは立ち上がって、縄を縛り何度も引いた。その端で僕を結び、反対側の端でルイス自身を縛る。
「他にはどんなものを入れるの?」
2人は立ち上がり、今にも焼け落ちそうな扉の横に立つ。ここから助走をつけて、2人あの窓から飛び出す。
「クランベリー、レーズン、ドライフルーツ全般! 季節ごとに楽しめるし、ナッツも組み合わせると可能性は無限大だよ」
「楽しみ! ルイス作ってくれるんでしょ!?」
ルイスが顔をじっと見て、そして額に祝福を落としてくれた。
「生きても、死んでも、必ず作る。一発勝負だよ」
2人顔を見合わせて大きく頷いたら、手を取り合って走り出した。途中煙の層に突っ込んだけど、決して目を瞑らない。手をほどき、全力で疾走した。窓枠が近づいたら息を合わせて2人ジャンプをする。そうして最後の一歩に渾身の力を入れて、窓枠を蹴った。
ルイスの方が力が強かった。だから2人を繋ぐシーツの縄を引っ張って抱き寄せてくれた。そうしている間にどんどん湖が近づいてくる。2人渾身の力で飛び出したけど、全然湖の縁の方だった。
僕は意識を集中させ、浮くための魔法の縄を垂れ下げた。自分たちが落下する速度の方が速い。だから僕は焦っていた。それを感じ取ってか、ルイスは僕の頭を抱え込み、強く抱く。
水面が迫ってくる。意識は水面にしかない。だから魔力の縄が水面についた時のことを考えていなかった。
僕の縄が水面についた時、制御不能なほどの魔力が僕の体に流れ込み、大声で叫んでしまった。落下は止まった。だけど、塔の反対側で火を放った男たちが騒ぎ出した。
「ノア、落下が止まった! もうこのまま湖に入ってやり過ごそう」
ルイスも男たちに気づいたみたいだった。だけど僕は違うことに気づき、心の底から震え上がっていた。恐怖ではない。歓喜だった。
「ルイス、少しスピード出すよ」
そう言って僕は上昇しながら湖を横切る。男たちもまさか人が飛ぶなんて思うまい。
「すごい! すごい! すごい! もう塔があんなに小さく見える! 鳥になったみたい!」
ルイスはこんな高さでも怖がらずにはしゃいでいた。塔の一本道にいる男たちは湖を探しているようだった。そこに、遣いガラスがやって来て、塔の周りを大きく旋回する。
「あ! 遣いガラス!」
ルイスが叫ぶ。塔は窓という窓から黒煙を上げ、3階の窓からは火の柱のようなものが吹き出していた。今からカラスのところまで行っても、あの男たちに見つかってしまう。カラスは塔の周りを2回旋回した後、振り返りもせず王都へ下っていった。僕とルイスは黙ってそれを見守るしかなかった。
「ノア、すごい高くまで昇ったけど、魔力大丈夫なの?」
「うん、僕は間違ってばかりだ。この塔のことをわかってなかった……」
僕はなんのために責務を果たしているのか、そのことさえ忘れてしまっていた。僕の性液が魔力に増幅転換する。この塔はそのためにあり、この湖に蓄えられた魔力は水路を伝って、王都の魔力を支えている。
ただ一つ知らなかったことといえば、いつもイメージしている縄のようなものが湖に触れると、魔力が自分の中に蓄積されることくらいだった。
僕はこの理解で目が開かれたような錯覚に陥る。悪魔はパンをもらいに来ていたのではない。魔力を補給しに来ていたのだ。
悪魔に教えられて浮く練習をしていた時に何度も思っていた。どうして悪魔は長時間浮いていられるのだろう、と。今、まさに自分が体感している通りだった。この湖の上でだったら自分の魔力を消費せずにいつまでも浮いていられるのだ。
「ま、魔力が足りないのは……ぼ、僕が昨日我慢しなかったせいなんだ……ルイス、途中で魔力が底を尽きて湖に落ちたら、その時には多分僕は死んでるから、縄を解いて1人で逃げて」
ルイスは黙々と作業をしていて僕を見ない。
「その越えてはならない境界を超えると死んじゃうの?」
「う、うん。命を削ることになるって言ってた」
「じゃあさ、もし越えそうになったら魔法をやめてね」
さっき魔法を使った時にすぐそこに境界は見えていたのだ。少々無理する覚悟で挑もうとしていたことに釘を刺されて、僕はルイスの顔を見つめた。
「ノアは、僕にさっきみたいな思いさせたいの? 生きるも死ぬも2人一緒だよ」
「そ……そんなこと……」
「友達でしょ?」
当たり前のことのように言った後、ルイスはようやく僕の顔を見て微笑んでくれた。心の中が温かい気持ちでいっぱいになって、そうだそれでいいのだ、と納得することができた。
「生きても死んでも、スコーン食べたい」
「うん、チョコレートと、クルミ、それに紅茶の茶葉を入れるとすごく香ばしいんだよ!」
ルイスは立ち上がって、縄を縛り何度も引いた。その端で僕を結び、反対側の端でルイス自身を縛る。
「他にはどんなものを入れるの?」
2人は立ち上がり、今にも焼け落ちそうな扉の横に立つ。ここから助走をつけて、2人あの窓から飛び出す。
「クランベリー、レーズン、ドライフルーツ全般! 季節ごとに楽しめるし、ナッツも組み合わせると可能性は無限大だよ」
「楽しみ! ルイス作ってくれるんでしょ!?」
ルイスが顔をじっと見て、そして額に祝福を落としてくれた。
「生きても、死んでも、必ず作る。一発勝負だよ」
2人顔を見合わせて大きく頷いたら、手を取り合って走り出した。途中煙の層に突っ込んだけど、決して目を瞑らない。手をほどき、全力で疾走した。窓枠が近づいたら息を合わせて2人ジャンプをする。そうして最後の一歩に渾身の力を入れて、窓枠を蹴った。
ルイスの方が力が強かった。だから2人を繋ぐシーツの縄を引っ張って抱き寄せてくれた。そうしている間にどんどん湖が近づいてくる。2人渾身の力で飛び出したけど、全然湖の縁の方だった。
僕は意識を集中させ、浮くための魔法の縄を垂れ下げた。自分たちが落下する速度の方が速い。だから僕は焦っていた。それを感じ取ってか、ルイスは僕の頭を抱え込み、強く抱く。
水面が迫ってくる。意識は水面にしかない。だから魔力の縄が水面についた時のことを考えていなかった。
僕の縄が水面についた時、制御不能なほどの魔力が僕の体に流れ込み、大声で叫んでしまった。落下は止まった。だけど、塔の反対側で火を放った男たちが騒ぎ出した。
「ノア、落下が止まった! もうこのまま湖に入ってやり過ごそう」
ルイスも男たちに気づいたみたいだった。だけど僕は違うことに気づき、心の底から震え上がっていた。恐怖ではない。歓喜だった。
「ルイス、少しスピード出すよ」
そう言って僕は上昇しながら湖を横切る。男たちもまさか人が飛ぶなんて思うまい。
「すごい! すごい! すごい! もう塔があんなに小さく見える! 鳥になったみたい!」
ルイスはこんな高さでも怖がらずにはしゃいでいた。塔の一本道にいる男たちは湖を探しているようだった。そこに、遣いガラスがやって来て、塔の周りを大きく旋回する。
「あ! 遣いガラス!」
ルイスが叫ぶ。塔は窓という窓から黒煙を上げ、3階の窓からは火の柱のようなものが吹き出していた。今からカラスのところまで行っても、あの男たちに見つかってしまう。カラスは塔の周りを2回旋回した後、振り返りもせず王都へ下っていった。僕とルイスは黙ってそれを見守るしかなかった。
「ノア、すごい高くまで昇ったけど、魔力大丈夫なの?」
「うん、僕は間違ってばかりだ。この塔のことをわかってなかった……」
僕はなんのために責務を果たしているのか、そのことさえ忘れてしまっていた。僕の性液が魔力に増幅転換する。この塔はそのためにあり、この湖に蓄えられた魔力は水路を伝って、王都の魔力を支えている。
ただ一つ知らなかったことといえば、いつもイメージしている縄のようなものが湖に触れると、魔力が自分の中に蓄積されることくらいだった。
僕はこの理解で目が開かれたような錯覚に陥る。悪魔はパンをもらいに来ていたのではない。魔力を補給しに来ていたのだ。
悪魔に教えられて浮く練習をしていた時に何度も思っていた。どうして悪魔は長時間浮いていられるのだろう、と。今、まさに自分が体感している通りだった。この湖の上でだったら自分の魔力を消費せずにいつまでも浮いていられるのだ。
0
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる