幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第34話 友達

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アシュレイのことを思い出す。そしてルイスにどうしても言っておきたいことがあった。

「ま、魔力が足りないのは……ぼ、僕が昨日我慢しなかったせいなんだ……ルイス、途中で魔力が底を尽きて湖に落ちたら、その時には多分僕は死んでるから、縄を解いて1人で逃げて」

ルイスは黙々と作業をしていて僕を見ない。

「その越えてはならない境界を超えると死んじゃうの?」

「う、うん。命を削ることになるって言ってた」

「じゃあさ、もし越えそうになったら魔法をやめてね」

さっき魔法を使った時にすぐそこに境界は見えていたのだ。少々無理する覚悟で挑もうとしていたことに釘を刺されて、僕はルイスの顔を見つめた。

「ノアは、僕にさっきみたいな思いさせたいの? 生きるも死ぬも2人一緒だよ」

「そ……そんなこと……」

「友達でしょ?」

当たり前のことのように言った後、ルイスはようやく僕の顔を見て微笑んでくれた。心の中が温かい気持ちでいっぱいになって、そうだそれでいいのだ、と納得することができた。

「生きても死んでも、スコーン食べたい」

「うん、チョコレートと、クルミ、それに紅茶の茶葉を入れるとすごく香ばしいんだよ!」

ルイスは立ち上がって、縄を縛り何度も引いた。その端で僕を結び、反対側の端でルイス自身を縛る。

「他にはどんなものを入れるの?」

2人は立ち上がり、今にも焼け落ちそうな扉の横に立つ。ここから助走をつけて、2人あの窓から飛び出す。

「クランベリー、レーズン、ドライフルーツ全般! 季節ごとに楽しめるし、ナッツも組み合わせると可能性は無限大だよ」

「楽しみ! ルイス作ってくれるんでしょ!?」

ルイスが顔をじっと見て、そして額に祝福を落としてくれた。

「生きても、死んでも、必ず作る。一発勝負だよ」

2人顔を見合わせて大きく頷いたら、手を取り合って走り出した。途中煙の層に突っ込んだけど、決して目を瞑らない。手をほどき、全力で疾走した。窓枠が近づいたら息を合わせて2人ジャンプをする。そうして最後の一歩に渾身の力を入れて、窓枠を蹴った。

ルイスの方が力が強かった。だから2人を繋ぐシーツの縄を引っ張って抱き寄せてくれた。そうしている間にどんどん湖が近づいてくる。2人渾身の力で飛び出したけど、全然湖の縁の方だった。

僕は意識を集中させ、浮くための魔法の縄を垂れ下げた。自分たちが落下する速度の方が速い。だから僕は焦っていた。それを感じ取ってか、ルイスは僕の頭を抱え込み、強く抱く。

水面が迫ってくる。意識は水面にしかない。だから魔力の縄が水面についた時のことを考えていなかった。

僕の縄が水面についた時、制御不能なほどの魔力が僕の体に流れ込み、大声で叫んでしまった。落下は止まった。だけど、塔の反対側で火を放った男たちが騒ぎ出した。

「ノア、落下が止まった! もうこのまま湖に入ってやり過ごそう」

ルイスも男たちに気づいたみたいだった。だけど僕は違うことに気づき、心の底から震え上がっていた。恐怖ではない。歓喜だった。

「ルイス、少しスピード出すよ」

そう言って僕は上昇しながら湖を横切る。男たちもまさか人が飛ぶなんて思うまい。

「すごい! すごい! すごい! もう塔があんなに小さく見える! 鳥になったみたい!」

ルイスはこんな高さでも怖がらずにはしゃいでいた。塔の一本道にいる男たちは湖を探しているようだった。そこに、遣いガラスがやって来て、塔の周りを大きく旋回する。

「あ! 遣いガラス!」

ルイスが叫ぶ。塔は窓という窓から黒煙を上げ、3階の窓からは火の柱のようなものが吹き出していた。今からカラスのところまで行っても、あの男たちに見つかってしまう。カラスは塔の周りを2回旋回した後、振り返りもせず王都へ下っていった。僕とルイスは黙ってそれを見守るしかなかった。

「ノア、すごい高くまで昇ったけど、魔力大丈夫なの?」

「うん、僕は間違ってばかりだ。この塔のことをわかってなかった……」

僕はなんのために責務を果たしているのか、そのことさえ忘れてしまっていた。僕の性液が魔力に増幅転換する。この塔はそのためにあり、この湖に蓄えられた魔力は水路を伝って、王都の魔力を支えている。

ただ一つ知らなかったことといえば、いつもイメージしている縄のようなものが湖に触れると、魔力が自分の中に蓄積されることくらいだった。

僕はこの理解で目が開かれたような錯覚に陥る。悪魔はパンをもらいに来ていたのではない。魔力を補給しに来ていたのだ。

悪魔に教えられて浮く練習をしていた時に何度も思っていた。どうして悪魔は長時間浮いていられるのだろう、と。今、まさに自分が体感している通りだった。この湖の上でだったら自分の魔力を消費せずにいつまでも浮いていられるのだ。
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