幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第31話 炎の隊列(ルイス視点)

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バーンスタイン家でオットーと別れてから馬を休まず走らせた。でも冬の日は短く、僕が王宮に近いところまで来たときには山の向こうに太陽が沈みかけていた。ふと王都の境界を見ると、丁度自分からは遠い、反対の王宮の門から松明を持った騎馬隊の列が見える。それを辿ると、先頭の方はもう見えないところまで進んでいた。

もう出陣をしている。その事実に不安と恐怖で気が狂いそうだった。

駐屯地は出入りを容易にするため、王都を通らない専用の門がある。少し小高い王宮からは、平原に駆け下りる兵士たちの列がよく見えた。兵士たちの松明が薄暗い遠くの景色に消えていく。

もう、兄様やアシュレイに頼れない。馬を走らせている間中、僕はずっと震えていた。僕はなにもわかっていなかったのだ。軍人が命をかけて国を守っているということを。こんな身近に恐怖が迫るまで、僕は何一つわかっていなかった。だからノアの兄になりたいなど……ノアを守るなどと、軽々しく言えたのだ。

「兄様……兄様兄様兄様!」

僕は兄様たちが軍人になった理由を理解できていなかった。僕を守るためだ。僕を、家族を、友人を命がけで守っているんだ。

僕はハッとして馬の腹を蹴る。嘶く馬の手綱を引いて、再び塔へ向かう。

兄様もアシュレイもオットーも、僕に託した。ノアという一縷の望みを、僕に託したんだ。

塔の一本道の前で馬を乗り捨てて、ひたすらに走る。道半ばまで来たら、僕は塔に向かって叫んだ。

「ノアーーーー!」

塔の鉄格子からノアが顔を出し、そして消えた。僕が塔の厳重な木戸を閉めたときに、急いで降りて来たノアと鉢合わせる。振り返って施錠をした時に、思うことがあって少しだけ身動きを取れずにいた。

「ルイス、お帰り。どうしたの?」

「この鍵は安全なのかな」

魔人は魔法で復号し解錠する。僕たち庸人は物理的な魔法鍵を差し込むことで施錠や解錠を行う。もしこの復号鍵を知っている魔人だったらば。

「ルイス、心配しすぎだよ」

「う、うん。うん。」

ノアが息を飲んで、じっと見つめた。ノアはなにも言わずに抱きしめてくれたから、きっと僕は相当情けない顔をしていたのだろう。

「僕も怖いから、2人で安全な方法を考えよ?」

多分ノアは紅茶のお湯を沸かしながらも、僕の帰りを待ちわびて階上の窓を覗いていたのだろう。1階は暖かく、そして優しい湯気の匂いがした。

「ルークがね、アシュレイの伝言を届けてくれた時、上で話してくれたんだ。すごく安心して。だから紅茶持って行こう?」

ノアは1度ギュッと抱きしめてくれた。そうしたら少しホッとして、どうでもいいことを溢してしまう。

「アシュレイの家でスコーンをもらってくるのを忘れた……」

「スコーン!?」

「前に作ってあげたことあったよね? 今日はチョコレートも入れてもらう予定だったのに……」

「美味しそう……ルイスの作ってくれたやつもほっぺた落ちちゃうかと思った……チョコレートも入ってたんだ……」

心底ガッカリするノアを見たら笑ってしまって、また僕はポロッと涙を落としてしまった。

「ノア……上行って僕の話を聞いて……ノアに助けてもらいたいんだ……」

「うん、うん」

しばらく抱き合ったら、どちらからともなくテキパキと用意をはじめ、手分けしてティーセットを持った。2人階上に登る途中、階段にある小さな窓の外を見てノアが足を止める。きっと王都の横を通る松明の筋を見たのだろう。でもノアはなにも言わずに、また階段を登りはじめた。
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