幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
95 / 240
2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第14話 生贄の末路(ルーク視点)

しおりを挟む
「ルーク、顔が青いぞ」

レオの屋敷の応接間に戻った途端、ジルが心配そうに顔を覗き込む。

「大丈夫だ。それより、レオはどこへ行ったんだ……」

「ここに戻ってきた時から姿を見かけん。メルヒャー卿から聞き出せたのか?」

ジルが大きな手で背中を撫でる。相当に顔が青いのだろう。

「ああ、それより……」

「なにを言おうとしているのだ、ルーカス」

唐突に響いた低い声に、私もジルも声の方を見やる。視線の先に震える手で剣を構えたレオが立っていた。

「ジル、そいつから離れてください。ジルが心配するような価値もない。ゴミ以下だ」

「なにを言っているんだ……」

唐突な悪態にジルも驚き戸惑う。

「面会の会話は誰にも聞こえないと言っていたはずだが、レオ、君は聞いていたのか?」

「黙れゴミクズ野郎が! ジル! お願いだから離れて!」

「ルーク」

「ああ……」

言い澱んだ理由はいくつかある。なぜだかわからないが、なんらかの理由があって彼は生贄だったことを今まで秘匿して生きてきたのだ。ジルでさえ知らない事実を、想いを寄せる本人を前に公表してもいいのかと思いとどまる。

「言えもしないことを話していたのだ! こいつはジルや、ジルの弟のことを……ああ、口にすることも悍しい!」

俺も、多分ジルも困って沈黙が流れる。ジルは大筋の会話の内容を事前に知っていた。メルヒャー卿は金や暴力で口を破らないと、私もジルも理解していた。そして相手方の共感できる部分を利用し、同族意識を高めるのが最善だと提案したのはジルだったのだ。ノアとアシュレイを傷つけた者を最後まで見届けようと、何度も宮中に足を運び顛末を追っていたジルは、彼の懐柔方法も心得ていた。ただ、演技力が乏しいため私に役を譲ったまでだ。

「レオ、剣を下ろせ」

ジルが低い声で嗜める。しかしレオは逆上して剣を振り下ろした。ジルが手刀でレオの手首を打つ。カランと乾いた音を響かせ剣が床に転がった。

「こいつは……悪魔だ……! ジル、こいつは悪魔なんだ! 弟を犯し愉悦に浸る、とんでもない悪魔だ!」

悪魔。その言葉に、幽閉塔を思い出さずにはいられない。その時に、頭の中で回路が繋がり呻き声が漏れてしまう。

「塔の悪魔を見たのか?」

ルイスに聞いた話だった。幽閉塔で自殺するものが口を揃えて言う「悪魔を見た」という話。

「塔? 何の話だ?」

メルヒャー卿の話を聞いていないならジルのその疑問も当然であろう。ジルはレオが生贄だった事実すら知らないのだ。

レオはブラウアー兄弟が揃って未子のルイスを溺愛していることなど知っていた。つまりは想いを寄せるジルは人種など気にしていないということを知っていたのに、レオは生贄だったことをひた隠してきた。それはつまり。

「いやぁああああああ! いやぁっ! 悪魔め! 悪魔め!」

半狂乱になったレオをジルが後ろから羽交い締めにして取り押さえる。体は小さい。アシュレイよりも小さいのだ。それに年齢も2年以上年上と考えれば大人びた印象の合点がいく。

アシュレイの審判の日、メルヒャーの悪魔の所業が公示された。薬漬けにされ正気を保てなくなった生贄を、メルヒャーが幾度となく犯し、それに耐えきれなくなった生贄は自ら命を絶った。悪魔とはその薬が見せた幻覚だったのか、メルヒャーこそが悪魔だったのか、今となってはわからない。ただ庸人を愛する想い人にさえ、生贄だった事実を告げなかった。それはつまり、彼もまたメルヒャーの餌食になったということなのだろう。

「レオ、すまない。あれはジルの考えた演技だ」

「うるさい! うるさい! うるさい!」

レオは口の端から泡を吹き出し、呼吸困難に陥っている。

「ジル、このままだとレオは正気が保てない。そのまま抱いて椅子に座るんだ」

「やめて! ジル! あいつの言うことを信じないで! あいつは悪魔なんだ! 演技だってあんな悍しいことを言えない! あいつは悪魔なんだああああ!」

「レオ。わかった。あのクソ野郎の言うことを信じない。落ち着くんだ」

ジルがレオの額にキスを落とす。あ、と短い声をあげたら、泣くだけに留まり喚くことを一旦諦めた。
しおりを挟む
口なしに熱風| ふざけた女装の隣国王子が我が国の後宮で無双をはじめるそうです

口なしの封緘

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...