幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第13話 滾る血潮(ルーク視点)

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「最後は出来損ないの前で犯し、殺してやるつもりだった。私は庸人を愛する魔人も嫌いでね。父上も私と同じ嗜みを愛していてな。父は私より崇高で容赦がない。だから父上にもあの薬を献上したいと思っていた矢先に……」

「それはそれは……。家族といえども庸人は庸人。あの木偶の坊も完全なる魔人ではないのでございましょう。だから庸人に入れあげるなどと……」

「あの薬を使った行為は一度知ると後戻りができない。薬無しで庸人の使用人を犯してみたが足りないのだ……お前には分かるまい、この血が滾るような昂りを……」

自らを擦る手を早める。

「ああ、なんたる不幸があったものよ。せめて牢に入る前に貴兄と出会えれば……貴兄の血を鎮める薬も庸人も、いくらでも差し出せたというのに……」

「薬を売るための常套句など、ここではなんの慰めにもならん。せめて信用できるルートだけでも知れたら、ここで庸人を嬲り、辱めることくらいしてやれるのに」

「ああ、ああ。なんたることよ。どうか鎮まりください。薬については私めがこうなってしまった以上、どうすることもできないのです。ただ、貴兄と同じ嗜みを持ったお方をご紹介することができます」

「そんな紹介は要らぬ。同じ嗜みを持ち、薬のつてを持つだけではならんのだ。ブラウアー家は表向き金庫番などと言われているが、そんな体裁を守るために言っているのではない。同じ志を持ち、共にこの国を狂乱で満たすことのできる、力のあるものでなければ……!」

メルヒャー卿が下半身を押さえてへたり込む。

「ああ、ああ! 今から言う貴族をお訪ねください。しかしその前に、私めの願いを聞き入れてくださるとお約束ください」

「なんだ?」

「上にいたレオ=キルステン。あれをここで犯すと約束ください」

「あれは魔人であろう。確かに体は細く、やや小さいが……貴殿には私の崇高な嗜みがわからなかったようだな……私怨に付き合う気も、不純物を生かしておく道理もない」

下半身を摩っていた手を止めて、剣に手を伸ばす。

「誤解にございます! あれは元庸人にございます。かつて幽閉塔の生贄だったのです」

「木偶が少しは役に立ったな。レオは木偶の学友だ。生贄に捧げられてなどいない。お前のいう輩もまた、私を陥れるための紛い物だったのだろう!」

「私めも! 貴兄と同じ嗜みを愛しておりました! あれは正真正銘の生贄です! 信じられないのであればご紹介するお方にお尋ねください!」

「それが最後の言葉か?」

「7賢者にも顔がきくお方です! きっと貴兄と共にこの国を変えられる、誠の、私の悲願でございます」

メルヒャーが手で押さえ込んでいた下半身に剣の鋒を向ける。

「先も述べた通り、レオは木偶の学友だ。この鉄格子に縛り上げ、貴殿の前でよがらせることも、恐怖に顔を痙攣らせることもできるだろう。しかし……」

「ああ……その言葉だけで……私はこんなになっているのです……どうかお確かめください。クルト=ヴァイツ、文官で宮殿に出入りしている者です。父上にお確かめになったらすぐにでも分かる高名なお方です」

「父をも陥れるつもりか」

剣を握り直し、もう一度問う。

「私めの要望よりも前に情報を受け渡しました。これが私めにできる最大の忠誠です。どうか、この国を浄化してくださいますよう」

「貴殿とはなかなかに馬が合うようだな。庸人どもの汚れた血を、我が性液で清めることを約束しよう。しかし、私にも立場というものがあってな。この約束及び訪問については、次私が約束を果たしに来るまで他言無用だ」

「ヴァイツ卿にも、貴兄の赦しがあるまで決して」

ビュッと音を立て一振りしてから剣を鞘に戻す。メルヒャー卿は忠誠からか、顔を上げず、視線も向けなかった。

牢の木戸に向かって歩き出す。途中何度も酸っぱいものがこみ上げてきた。嘔吐だけは許されないと、胸で拳を強く握りきた道を戻る。もう2度と踏み入れることはないだろう。
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