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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第11話 撒き餌(ルーク視点)
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レオは言葉通り、牢に繋がる最後の扉までしか案内をしなかった。死刑囚は基本独房で、鉄格子を隔てての会話。他の囚人に聞こえるのではないかと心配したが、死刑囚は各貴族領地内に1人までという規定があり、独房はどの牢獄も機密性が高いとのことだった。
突き当たりを右だと教えられ、ジルがその角を曲がる。木戸を開け放ったそこに、鉄格子の前で項垂れる、メルヒャー卿の目が怪しく光った。
「メルヒャー卿、初めてお目にかかる。ジルベスタ=ブラウアーだ」
メルヒャー卿は興味のなさそうな顔でこちらを一瞥したかと思ったら、袖から両手を引き出して、手を揉み始めた。
「ブラウアー卿……王都の金庫番か。実直すぎる性格が時に金の流れを澱ませたものよ。不正に縁遠い父君が、私の望みを満たせるのか」
歯に衣着せぬ物言いで、先に値踏みをする。こうした望まぬ賓客のあしらい方も心得ているのだろう。
「父は確かに厳格で、余剰の資産はない」
ジルはメルヒャー卿の言葉をおうむ返ししただけだった。
「確か賃金の安い庸人を雇い、やりくりしていると聞いた。貴族連中では相手にされないからと、屋敷に貧民を集め、なけなしの金で踏ん反り返っているとな。清貧気取りでその実、なかなか腹の黒いものよ」
ジルは腰に携えた剣に手を伸ばす。しかしメルヒャーは怯む様子もなく話し続ける。
「確か兄弟はもう1人いたはずだ。社交界に現れないということは庸人か? まさか自分の種で庸人が生えてくるとはな。ククク、なかなか興味深い一家だ」
ジルは剣を抜く。そしてその鋒をメルヒャーの頬に当てた。
「差し出すものがないからと、人の命を条件に交渉か。息子も貧民の魂を受け継いだ甲斐あって、なかなかに卑しい。気に入ったよ。私になんの用だ」
「ここに来た貴族の名を全て晒せ」
メルヒャーは目を見開いたあと、クツクツと不快な音を立てて笑い出した。
「図体ばかりの木偶の坊が、虚勢をはる姿がなかなかに哀れみ深い……お望みならば全ての貴族の名を晒そうぞ」
ジルがなにかを言おうと口を開いた。それを遮って、ジルの体を押した。
「もういい、下がっていろ」
「なにを言っているのだ、まだなにも聞き出せて……」
「下がれと言っているのだ。頭も悪ければ耳も悪いのか?」
ジルは胸ぐらを掴んで私を壁に叩きつける。
「兄弟喧嘩なら他所でやれ」
メルヒャーの言葉にジルは掴んだ胸ぐらを離し、木戸に向かって歩く。
「お似合いだ。クソ野郎ども」
どちらにも聞こえるように吐き捨てて、ジルは来た道を戻っていく。
突き当たりを右だと教えられ、ジルがその角を曲がる。木戸を開け放ったそこに、鉄格子の前で項垂れる、メルヒャー卿の目が怪しく光った。
「メルヒャー卿、初めてお目にかかる。ジルベスタ=ブラウアーだ」
メルヒャー卿は興味のなさそうな顔でこちらを一瞥したかと思ったら、袖から両手を引き出して、手を揉み始めた。
「ブラウアー卿……王都の金庫番か。実直すぎる性格が時に金の流れを澱ませたものよ。不正に縁遠い父君が、私の望みを満たせるのか」
歯に衣着せぬ物言いで、先に値踏みをする。こうした望まぬ賓客のあしらい方も心得ているのだろう。
「父は確かに厳格で、余剰の資産はない」
ジルはメルヒャー卿の言葉をおうむ返ししただけだった。
「確か賃金の安い庸人を雇い、やりくりしていると聞いた。貴族連中では相手にされないからと、屋敷に貧民を集め、なけなしの金で踏ん反り返っているとな。清貧気取りでその実、なかなか腹の黒いものよ」
ジルは腰に携えた剣に手を伸ばす。しかしメルヒャーは怯む様子もなく話し続ける。
「確か兄弟はもう1人いたはずだ。社交界に現れないということは庸人か? まさか自分の種で庸人が生えてくるとはな。ククク、なかなか興味深い一家だ」
ジルは剣を抜く。そしてその鋒をメルヒャーの頬に当てた。
「差し出すものがないからと、人の命を条件に交渉か。息子も貧民の魂を受け継いだ甲斐あって、なかなかに卑しい。気に入ったよ。私になんの用だ」
「ここに来た貴族の名を全て晒せ」
メルヒャーは目を見開いたあと、クツクツと不快な音を立てて笑い出した。
「図体ばかりの木偶の坊が、虚勢をはる姿がなかなかに哀れみ深い……お望みならば全ての貴族の名を晒そうぞ」
ジルがなにかを言おうと口を開いた。それを遮って、ジルの体を押した。
「もういい、下がっていろ」
「なにを言っているのだ、まだなにも聞き出せて……」
「下がれと言っているのだ。頭も悪ければ耳も悪いのか?」
ジルは胸ぐらを掴んで私を壁に叩きつける。
「兄弟喧嘩なら他所でやれ」
メルヒャーの言葉にジルは掴んだ胸ぐらを離し、木戸に向かって歩く。
「お似合いだ。クソ野郎ども」
どちらにも聞こえるように吐き捨てて、ジルは来た道を戻っていく。
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