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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第10話 宵の訪問(ルーク視点)
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ジルベスタの学友はレオ=キルステンという。父君が急逝したため若くして爵位を賜った2世である。ジルと同じ学年ということはつまりはアシュレイとも同じという計算になる。体は細く男にしては筋肉が無いことから病弱に見えて、留年した年長者かと思ったほどだ。また物静かな性格から年齢よりも大分上にみえた。
「ジル、いらっしゃい。お兄様もお久しぶりです。相変わらずお2人とも精悍で美しい」
使用人ではなく本人が玄関の扉を開け、やや長めの亜麻色の髪が首をかしげた拍子にサラサラと流れる。
「レオ、久しぶり。せっかくジルとの逢瀬に、邪魔者がついてきてしまって申し訳ない。私たち弟のことで聞き出したいことがあってな。許してくれ」
「いいえ、ジルの心は固く、どちらにせよ僕の愛は届きません。邪魔者などそんなことを言わないでください」
栗色のつぶらな瞳を一層大きくして、私の謝罪を受け流す。
「レオ、今日は友人として頼みに来たのだ。後でお前を傷つけるようなことがあってはならない。その点を最初に確認させてくれ」
ジルとレオの間に少し沈黙が訪れる。しかしレオは慣れた笑顔で招き入れる。
「そういうところが素敵なんです。友人としてでも頼ってもらえるのは嬉しい。さあ、上がってください」
屋敷は質素で使用人もいないのか、エントランスはやけに静かだった。客間に通され、ソファを勧められる。
「この屋敷には使用人はいないのか?」
「夜の間はおりません。大抵面会を申し出る方は夜を好むので……」
「しかし、屋敷と牢獄は別だろうに。不便ではないのか?」
「この屋敷の地下から牢獄に繋がっているのです。大抵の場合には地上から案内しますが、今回はジルの頼みともあって特別です」
ブランデーを差し出しながら、レオはニッコリ笑う。彼は幾度となくジルに迫っていると聞く。生計を立てる貴重な収入源も惜しみなく差し出す。その甲斐甲斐しさに憐憫すら感じるのだ。
「ジルは強情だからな……。しかし君も強情か。ジルのなにがそんなに良いのだ? 可憐で美しいのに」
本心だった。ジルは決して揺らぐことはない。それを知りながら恋慕で消費する人生に、哀れみを感じたのだ。
レオはキョトンとして、俯く。
「ささ、途中までご案内します。面会時の会話は秘匿をお約束いたします」
そそくさと立ち上がる彼の耳が赤かった。違和感を感じたが、何はともあれメルヒャー卿の面会が優先だ。来る道すがらジルと念入りに打ち合わせをした。
口を割るとも思えないが……最善を尽くす他ない。
「ジル、いらっしゃい。お兄様もお久しぶりです。相変わらずお2人とも精悍で美しい」
使用人ではなく本人が玄関の扉を開け、やや長めの亜麻色の髪が首をかしげた拍子にサラサラと流れる。
「レオ、久しぶり。せっかくジルとの逢瀬に、邪魔者がついてきてしまって申し訳ない。私たち弟のことで聞き出したいことがあってな。許してくれ」
「いいえ、ジルの心は固く、どちらにせよ僕の愛は届きません。邪魔者などそんなことを言わないでください」
栗色のつぶらな瞳を一層大きくして、私の謝罪を受け流す。
「レオ、今日は友人として頼みに来たのだ。後でお前を傷つけるようなことがあってはならない。その点を最初に確認させてくれ」
ジルとレオの間に少し沈黙が訪れる。しかしレオは慣れた笑顔で招き入れる。
「そういうところが素敵なんです。友人としてでも頼ってもらえるのは嬉しい。さあ、上がってください」
屋敷は質素で使用人もいないのか、エントランスはやけに静かだった。客間に通され、ソファを勧められる。
「この屋敷には使用人はいないのか?」
「夜の間はおりません。大抵面会を申し出る方は夜を好むので……」
「しかし、屋敷と牢獄は別だろうに。不便ではないのか?」
「この屋敷の地下から牢獄に繋がっているのです。大抵の場合には地上から案内しますが、今回はジルの頼みともあって特別です」
ブランデーを差し出しながら、レオはニッコリ笑う。彼は幾度となくジルに迫っていると聞く。生計を立てる貴重な収入源も惜しみなく差し出す。その甲斐甲斐しさに憐憫すら感じるのだ。
「ジルは強情だからな……。しかし君も強情か。ジルのなにがそんなに良いのだ? 可憐で美しいのに」
本心だった。ジルは決して揺らぐことはない。それを知りながら恋慕で消費する人生に、哀れみを感じたのだ。
レオはキョトンとして、俯く。
「ささ、途中までご案内します。面会時の会話は秘匿をお約束いたします」
そそくさと立ち上がる彼の耳が赤かった。違和感を感じたが、何はともあれメルヒャー卿の面会が優先だ。来る道すがらジルと念入りに打ち合わせをした。
口を割るとも思えないが……最善を尽くす他ない。
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