87 / 240
2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第6話 出征
しおりを挟む
「出征?」
父上との別れも束の間、息つく間もなく立て続けに色んなことが起こる。アシュレイはいつものように僕を膝に乗せ、2人、研究机に向き合っていた。
「出征はこれが初めてではないが……ノアには心配をかけるな……」
アシュレイは僕の気持ちを配慮してくれているが、僕の不安や疑問はそこではなかった。このベルクマイヤ王国は四方他の国に囲まれた独立国家。正確には3カ国に囲まれており、戦争状態になっているのはゴルザ帝国ただ一つ。
「どちらまで赴かれるのですか?」
アシュレイは机に広がる地図に指を這わせ、出征に赴く地を指差す。
「王都からは馬で5日。物資と共に歩く場合は1週間といったところだ」
「以前から疑問に思っていたことがあるのですが……」
「なんだ、なんでも聞いてくれ」
「なぜ、お互い王都が遠いところで戦をするのですか?」
以前アシュレイが赴いた戦地もこの辺だったと記憶している。ゴルザ帝国はここ10年、同じ場所から侵攻を繰り返していた。ベルクマイヤ王国は魔人が住むには最適な場所ではあるが、国土も小さく、庸人が固執する理由が僕にはわからなかったのだ。
「以前、高山植物の話をしたのを覚えているか?」
「はい、僕の大好きな花です。いつか摘みにいってアシュレイにプレゼントしたいと思っています」
アシュレイが不意に僕の頭を撫でた。
「ベルクマイヤ王国と同じくゴルザ帝国もまた3国と隣接しているが、侵攻は必ずベルクマイヤ王国の同じ場所。それは……」
アシュレイは話しながらゴルザ帝国の国境をなぞる。
「どの隣国の国境線も兵を引き連れては越えられない高山が国境となっている。ベルクマイヤ王国のこの辺まで、命がけでないと登れない高い山が連なっているんだ」
アシュレイの指は今回出征する土地まで指を這わせていた。
「この地図では隣同士に見えますが、事実上侵攻できる国はベルクマイヤ王国のみということでしょうか?」
王都周辺の地理には詳しくなったが、隣国との国境線の地理には全く無頓着だった。特にゴルザ王国は人の流入も、史料も少ないため、他の2国に比べれば興味が薄かったともいえる。
「ああ。昔渓谷があったのか、ここだけかろうじて標高が低い場所がある。だから王都はここから遠い場所にあるとも言えるのだが……戦争状態に陥ったのはここ10年だからなんとも……」
「他の2国はこの侵攻を食い止めることを条件に我が国と友好関係が築けているのですか?」
アシュレイは少し黙ってしまったので、間違ったことを言ったかと不安になり振り返った。アシュレイは優しく微笑み僕の頬を撫でた。
「そうだな。以前ノアが言っていた通り、この国は独自の進化を遂げている国家だから、どの国とも条約や協定といったものを取り交わしていない。しかし他の2国が攻め入らない暗黙の協定にはなっていると思う」
「しかし……」
「なんだ、ノアの気になるところはなんでも聞いてくれ」
「アシュレイが最後に出征したのは2年前だと聞きます。その時には一切の侵攻を許さなかった。2年もあればかろうじて経済は立ち直るかもしれませんが、戦力が戻るとは……。局地戦とはいえ……なぜこんな時期に……」
ゴルザ帝国は隣接する3国の反対側は海。国交はどの隣国とも無く、豊かな国とは言い難かった。傭兵を雇うにしても海の遥か彼方から引き合わせるにはそれ相応の代償が必要になるだろう。
「ノアの言う通り今回はゴルザ帝国の兵は少ないと報告を受けている。1週間前ほどに領主から連絡があって、ようやく先に赴いた師団が到着したところだ。正確な戦力というのは……」
変なところでアシュレイは黙ってしまう。
「師団……? 戦力が不明のまま、あとどの程度送り込むというのですか?」
この時ハッとして慌てて取り繕った。
「申し訳ございません。好奇心のまま質問をしてしまいました」
「いや、もし仮にノアがこの出征の判断を下すとしたら、どう考える?」
「いえ、そんな……」
アシュレイは突然僕の頭を掴んで、唇を貪るように求めた。その間に彼の指が胸を這い回る。
「んぅっ……」
「ノア、どう考えるのか教えてくれ。それともこのまま強情に今日を終えるか?」
「あ……今日は愛してくれないのですか……?」
「教えてくれたら、何度でも愛する」
「何度でも……」
「そうだ……ノアの願いを全て叶える。俺のわがままも聞いてもらうぞ……」
僕は懇願してアシュレイの唇を求めた。ある程度僕を受け入れてくれたアシュレイは、唇を離すと、逃しはしないといった目で僕の回答を待った。
父上との別れも束の間、息つく間もなく立て続けに色んなことが起こる。アシュレイはいつものように僕を膝に乗せ、2人、研究机に向き合っていた。
「出征はこれが初めてではないが……ノアには心配をかけるな……」
アシュレイは僕の気持ちを配慮してくれているが、僕の不安や疑問はそこではなかった。このベルクマイヤ王国は四方他の国に囲まれた独立国家。正確には3カ国に囲まれており、戦争状態になっているのはゴルザ帝国ただ一つ。
「どちらまで赴かれるのですか?」
アシュレイは机に広がる地図に指を這わせ、出征に赴く地を指差す。
「王都からは馬で5日。物資と共に歩く場合は1週間といったところだ」
「以前から疑問に思っていたことがあるのですが……」
「なんだ、なんでも聞いてくれ」
「なぜ、お互い王都が遠いところで戦をするのですか?」
以前アシュレイが赴いた戦地もこの辺だったと記憶している。ゴルザ帝国はここ10年、同じ場所から侵攻を繰り返していた。ベルクマイヤ王国は魔人が住むには最適な場所ではあるが、国土も小さく、庸人が固執する理由が僕にはわからなかったのだ。
「以前、高山植物の話をしたのを覚えているか?」
「はい、僕の大好きな花です。いつか摘みにいってアシュレイにプレゼントしたいと思っています」
アシュレイが不意に僕の頭を撫でた。
「ベルクマイヤ王国と同じくゴルザ帝国もまた3国と隣接しているが、侵攻は必ずベルクマイヤ王国の同じ場所。それは……」
アシュレイは話しながらゴルザ帝国の国境をなぞる。
「どの隣国の国境線も兵を引き連れては越えられない高山が国境となっている。ベルクマイヤ王国のこの辺まで、命がけでないと登れない高い山が連なっているんだ」
アシュレイの指は今回出征する土地まで指を這わせていた。
「この地図では隣同士に見えますが、事実上侵攻できる国はベルクマイヤ王国のみということでしょうか?」
王都周辺の地理には詳しくなったが、隣国との国境線の地理には全く無頓着だった。特にゴルザ王国は人の流入も、史料も少ないため、他の2国に比べれば興味が薄かったともいえる。
「ああ。昔渓谷があったのか、ここだけかろうじて標高が低い場所がある。だから王都はここから遠い場所にあるとも言えるのだが……戦争状態に陥ったのはここ10年だからなんとも……」
「他の2国はこの侵攻を食い止めることを条件に我が国と友好関係が築けているのですか?」
アシュレイは少し黙ってしまったので、間違ったことを言ったかと不安になり振り返った。アシュレイは優しく微笑み僕の頬を撫でた。
「そうだな。以前ノアが言っていた通り、この国は独自の進化を遂げている国家だから、どの国とも条約や協定といったものを取り交わしていない。しかし他の2国が攻め入らない暗黙の協定にはなっていると思う」
「しかし……」
「なんだ、ノアの気になるところはなんでも聞いてくれ」
「アシュレイが最後に出征したのは2年前だと聞きます。その時には一切の侵攻を許さなかった。2年もあればかろうじて経済は立ち直るかもしれませんが、戦力が戻るとは……。局地戦とはいえ……なぜこんな時期に……」
ゴルザ帝国は隣接する3国の反対側は海。国交はどの隣国とも無く、豊かな国とは言い難かった。傭兵を雇うにしても海の遥か彼方から引き合わせるにはそれ相応の代償が必要になるだろう。
「ノアの言う通り今回はゴルザ帝国の兵は少ないと報告を受けている。1週間前ほどに領主から連絡があって、ようやく先に赴いた師団が到着したところだ。正確な戦力というのは……」
変なところでアシュレイは黙ってしまう。
「師団……? 戦力が不明のまま、あとどの程度送り込むというのですか?」
この時ハッとして慌てて取り繕った。
「申し訳ございません。好奇心のまま質問をしてしまいました」
「いや、もし仮にノアがこの出征の判断を下すとしたら、どう考える?」
「いえ、そんな……」
アシュレイは突然僕の頭を掴んで、唇を貪るように求めた。その間に彼の指が胸を這い回る。
「んぅっ……」
「ノア、どう考えるのか教えてくれ。それともこのまま強情に今日を終えるか?」
「あ……今日は愛してくれないのですか……?」
「教えてくれたら、何度でも愛する」
「何度でも……」
「そうだ……ノアの願いを全て叶える。俺のわがままも聞いてもらうぞ……」
僕は懇願してアシュレイの唇を求めた。ある程度僕を受け入れてくれたアシュレイは、唇を離すと、逃しはしないといった目で僕の回答を待った。
0
お気に入りに追加
491
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる