幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第5話 紅と藍の瞳

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この後1週間、ジルとルークが代わる代わる来てくれて、僕は不思議とアシュレイとルイスに詳しくなった。

ルークとジルは母が出産のための里帰りからルイスを連れて帰った時に、ひと目で恋に落ちたこと。ルイスが庸人とわかり、赤子を連れ家を出ようとした母を止め、父に談判したこと。ルークが先にキスをして、ジルが初めて愛したこと。

アシュレイは兄弟の恩人であること。今まで浮いた話を聞いたことがなかったこと。貴族内のご婦人方がアシュレイに夢中だから、紳士からの嫉みが激しいこと。そして、僕の自慢を裏でしていること。

僕にとってはどの話も新鮮で楽しく、嬉しいものだった。ルークとジルがどれほどアシュレイと固い友情で結ばれているのかを垣間見ることができたし、何より僕を気遣ってくれる気持ちが嬉しかった。

でも、喪が明け、アシュレイが塔の扉を開けた時、僕は緊張で彼の胸に飛び込むことはできなかった。久しぶりに見るアシュレイの瞳は驚くほど澄んでいて、安堵の色が大きかった。僕が動けずにいるとアシュレイは困ったように笑う。

「ノア、待たせてしまってすまなかった。もう忘れてしまったか?」

僕はなにも言うことができず、おずおずとアシュレイにしがみついた。本当はアシュレイを抱きしめたかったが、体が小さくて、どうしても腰のあたりにしがみつく格好になってしまう。

「ルイス、色々とありがとう。少し2人で話してもいいか?」

「少しなんて言わず、今日は泊まっていきなよ。夕食は食べていくでしょ?」

「ああ、手間でなければご馳走してくれ」

アシュレイは僕を担いで階段を上がる。

「アシュレイ」

アシュレイは僕の問いかけに答えない。僕は、この時何故か悪魔の言葉を思い出した。アシュレイを温めろと悪魔は言っていたのだ。だから僕は余計なことを言わず彼の頭を抱き、彼が口を開くまで彼にしがみつこうと決めた。

部屋に着くと、アシュレイは僕ごとベッドに寝転んだ。そうして僕の胸に顔を埋めて離れない。悪魔にしたように、頭を撫でて背中を撫でて、アシュレイを温め続ける。

「父も2年は難しいと言っていた。なのにノアに期待をさせることを言ってしまった。父に対しては後悔が少ないが、ノアには申し訳ないことをしたと思っている。どうか許してくれ」

2年。それは僕が塔を出るまでの期間だった。

「いいえ、いいえ……」

「父さんはノアに会う気概だけで生きながらえていた。父さんもノアに感謝していた。いい伴侶を得たと、喜んでいたんだ」

アシュレイが父上を父さんと呼ぶのを、この日初めて聞いた。その響きがなんとも哀しく、こみ上げるものがあったが、僕はこれを堪えた。

「お父様にご紹介いただくまで決して離れません」

アシュレイは嬉しそうな息を漏らして、僕を抱き寄せる。父上が亡くなったことはとても悲しい。でもアシュレイが満足のいく別れができて良かったとこの時初めて思えた。身を屈めてアシュレイの額にキスを落とす。たちまちに彼は顔を向け、僕を見つめた。

「もう一度、こっちにもしてくれ」

「はい」

彼の唇に顔を寄せて、そっとキスをする。十分にしたと思ったが、アシュレイは不服そうに僕に覆い被さり、何度も僕の唇を啄み、舌で口中を満たした。

「ああ。このままノアの全てを愛したいが、悪い知らせがもう一つある」

僕が驚いて口を開いたら、そこに彼の舌が再び入ってきた。
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