幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
85 / 240
2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木

第4話 王の密会(アシュレイ視点)

しおりを挟む
朝、父が死亡していることを確認してから、使用人たちは粛々と別れの準備に取り掛かった。ブラウアー兄弟も代わる代わる手伝いに来てくれたおかげで、葬儀の手配までつつがなく終えることができた。

俺も、そして使用人も、以前脈が弱くなって大騒ぎした時とは違う穏やかさでこの日を迎えることができた。それは王が与えてくれた奇跡の猶予で、この屋敷全員が、死に別れる覚悟と準備を整えることができたことに他ならない。

葬儀は明日執り行われる。だから夜中のこの時間が父との最後の別れだった。人払いをして父に寄り添う。父は母が病死した時にすぐに後を追いたかったに違いない。俺のために今日この日まで生きてくれたのだ。父の手を握り呟く。

「ちゃんと母さんにもノアのことを報告してください」

母は偉大だった。母が父に託した願いは、とどのつまり自分らしく生きろ、ということだった。その願いが俺を救い、そして父との最後の日をこんな気持ちで迎えることができたのだ。父もきっと幸せだったに違いない。そうした実感を得られるというのはなんと幸福なことか。

その時、扉の方から物音がする。

「なんだ」

オットーかと思い、最後くらい小言を控えてくれと言いかけ振り向いた時。信じられない光景に目を見開いた。国王が立っていたのだ。

「親子の別れに水をさしてすまない。5分でいいから2人の時間をくれないか」

「も、もちろんです。陛下」

「迷惑ついでに、完全なる非公式だ。すまんが扉の前で護衛を頼めるか」

その言葉に度肝を抜かれ、すぐさま返事ができなかった。以前屋敷を訪れた時には、屋敷の外を護衛が囲んでいた。

答える前に王は俺の横を通過して、父の遺体に突っ伏した。浮世離れした佇まいから一転、あまりに生々しい悲しみように、俺は目を逸らして急いで部屋を出る。

扉の前で窓の外の星を眺めながら、王の別れの時間を守る。思えば最後まで父の仕事について理解することができなかった。国王との関係についてもそうだ。旧友というが、父と陛下は10ほど年齢が違う。学友というには歳が離れすぎていて、一体いつの時代の、どういった友人なのか皆目わからなかった。オットーは口を割らないし、陛下に聞くことも憚られる。

その時、扉の内側から名前を呼ばれた。

扉をそっと開け、コソコソと部屋に入ると、陛下はいつもらしく凛と立っていた。

「アシュレイ。お前はちゃんと別れを受け入れられたか」

「はい、陛下のお陰です。陛下に頂いた猶予で、存分に父に孝行することができました。父も幸せだったという実感がございます。お見舞いに来ていただきありがとうございました。葬儀は明日ですが……」

「すまん、葬儀には出れない。色々と面倒ごとがあってな。見舞いの時にも半ば強行で来たんだ。今日のことは他言無用だ」

色々と含みのある言葉の数々に、つい質問がこぼれ出しそうだったが、1番の疑問をぶつけた。

「陛下は、父との別れができましたか?」

非公式という事情からか、5分などという短い時間は、俺に遠慮をしているように感じた。しかし、陛下はこれに答えず2人の間に沈黙だけが横たわった。

「お前は立派な息子だ。ヴェルナーは幸せ者だった」

「陛下……」

俺の呼びかけに陛下の手が伸びてきた。

「今はなにも聞かないでくれ」

俺の肩をそっと掴みながら、陛下が扉を開ける。そのまま部屋を出て扉が閉まった時に、一体ここからどうやって帰るのかと驚き、急いで扉を開けた。陛下はもう廊下にいなかった。さっき眺めていた窓が開け放たれており、夜風が虚しく通り抜けていった。
しおりを挟む
口なしに熱風| ふざけた女装の隣国王子が我が国の後宮で無双をはじめるそうです

口なしの封緘

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...