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2部 焼け落ちる瑞鳥の止まり木
第3話 ルークの訪問
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悪魔はあんなに急げと僕を捲し立てたのに、この朝、ルイスの出勤はいつもより遅かった。
お腹が空いたので台所にあったパンを一切れ頬張った時に、扉が勢いよく開け放たれる。僕はびっくりしてパンを落としてしまった。
「ノア、遅くなってごめん」
僕はルイスが遅刻をしたことよりも、急に扉が開いたことの方がびっくりしたと伝えると、ルイスは力ない笑顔で謝った。そして笑った拍子に顔をくちゃくちゃにして泣きはじめた。
僕は慌てて駆け寄り抱きしめる。ルイスはその腕の中で、アシュレイの父上がこの世を去ったことを告げた。
僕はルイスを抱きながら、呆然と時を過ごしてしまい、彼が泣き止むまでの時間がどれほどのものだったのかわからなかった。ただ、兄様たちが葬儀の手伝いに向かっていて、後にルイスが交代でアシュレイの元に向かうことだけはわかった。
気がつけばルークが扉を叩いて塔に入ってきて入れ違いでルイスが出て行く。それらを自分の目で見ていないかのような感覚で通り過ぎていくのを待つ他なかった。
「ノア、大丈夫か?」
ルークが僕を顔を覗き込む。頭を撫でた手でそのまま頬を撫でたら、ルークは慎重に口を開いた。
「アシュレイから伝言を預かっている。兄様と一緒にこれを聞いてくれるか?」
声を出すと、いろんなものが溢れ出しそうだったので、コクリと頷いた。
「いい子だ。アシュレイにノアを担いでいいと了承を得ている。ここではなんだから、上にあがろう」
ルークは、いとも簡単に僕を抱え上げて、階上まで移動した。僕を抱えたままルークはベッドに座り、しばらく僕の背中を撫でている。
「アシュレイはしばらく塔には来れない。だから兄様に伝言を託したんだ。伝言は短いが、それが全てだ」
僕はその言葉にルークの顔を見上げた。
「俺は十分に孝行をした。ノアのおかげだ。決して自分を責めないでほしい」
ルークは僕の瞳をまっすぐ見て伝えてくれた。そして続ける。
「ここからは兄様の主観だけど、アシュレイは悲しんでいたけど、晴れやかだった。ノアを心配する余裕があるくらいに、しっかり父君の死を受け止めていた。ノアのおかげって言葉。兄様もそう思っているよ」
僕はルークの言っている意味がわからず、ぼんやりと見つめ続けてしまう。
「ノア、ここからはやや現実的な話になるけど、ここのしきたりでは例え家族の葬儀でも塔を出ることはできないんだ。アシュレイを心配する気持ちはわかる。彼もよくわかっているから兄様に伝言を頼んだ。それはわかるね?」
それは分かるとコクリと頷いた。
「葬儀に出れないことを蚊帳の外だと思ってはいけないよ。ノアがそう思うことをアシュレイは1番恐れているんだ」
もう一度僕は頷いた。
ルークはその後僕の理解を確かめることもなく、ただ優しく背中を撫で続けてくれた。
だからどうしても気になっていたことを聞いた。
「お父様は……苦しまずにこの世を去ったのでしょうか?」
ルークの撫でていた手が一瞬止まる。だから僕は怯えて体が固くなった。
「昨日までアシュレイと談笑をしていたそうだよ。ノアに会うまで頑張ると言っていたそうだ。アシュレイの母君に報告するためにね。今日の朝起こしに行って触るまで寝ているのだと思ったと言っていたよ」
「そうですか……」
「父君もきっとノアに感謝を述べたかったと思う。ノアを愛する前と後では、アシュレイの後悔は格段に違っただろう。それはノアには伝わったかな?」
「勿体ないお言葉……」
「ノアも頑張ったね」
不意に投げ込まれた労いの言葉に、僕は抗うことができず、涙してしまう。
「勿体なく存じます……」
「ほら、こっちへおいで」
ルークは息もできないほど僕を抱きしめた後、何度も何度も額にキスを落としてくれる。そうして、僕の気を逸らすためか、アシュレイとの昔話や、ルイスとジルの話をいっぱいしてくれた。
お腹が空いたので台所にあったパンを一切れ頬張った時に、扉が勢いよく開け放たれる。僕はびっくりしてパンを落としてしまった。
「ノア、遅くなってごめん」
僕はルイスが遅刻をしたことよりも、急に扉が開いたことの方がびっくりしたと伝えると、ルイスは力ない笑顔で謝った。そして笑った拍子に顔をくちゃくちゃにして泣きはじめた。
僕は慌てて駆け寄り抱きしめる。ルイスはその腕の中で、アシュレイの父上がこの世を去ったことを告げた。
僕はルイスを抱きながら、呆然と時を過ごしてしまい、彼が泣き止むまでの時間がどれほどのものだったのかわからなかった。ただ、兄様たちが葬儀の手伝いに向かっていて、後にルイスが交代でアシュレイの元に向かうことだけはわかった。
気がつけばルークが扉を叩いて塔に入ってきて入れ違いでルイスが出て行く。それらを自分の目で見ていないかのような感覚で通り過ぎていくのを待つ他なかった。
「ノア、大丈夫か?」
ルークが僕を顔を覗き込む。頭を撫でた手でそのまま頬を撫でたら、ルークは慎重に口を開いた。
「アシュレイから伝言を預かっている。兄様と一緒にこれを聞いてくれるか?」
声を出すと、いろんなものが溢れ出しそうだったので、コクリと頷いた。
「いい子だ。アシュレイにノアを担いでいいと了承を得ている。ここではなんだから、上にあがろう」
ルークは、いとも簡単に僕を抱え上げて、階上まで移動した。僕を抱えたままルークはベッドに座り、しばらく僕の背中を撫でている。
「アシュレイはしばらく塔には来れない。だから兄様に伝言を託したんだ。伝言は短いが、それが全てだ」
僕はその言葉にルークの顔を見上げた。
「俺は十分に孝行をした。ノアのおかげだ。決して自分を責めないでほしい」
ルークは僕の瞳をまっすぐ見て伝えてくれた。そして続ける。
「ここからは兄様の主観だけど、アシュレイは悲しんでいたけど、晴れやかだった。ノアを心配する余裕があるくらいに、しっかり父君の死を受け止めていた。ノアのおかげって言葉。兄様もそう思っているよ」
僕はルークの言っている意味がわからず、ぼんやりと見つめ続けてしまう。
「ノア、ここからはやや現実的な話になるけど、ここのしきたりでは例え家族の葬儀でも塔を出ることはできないんだ。アシュレイを心配する気持ちはわかる。彼もよくわかっているから兄様に伝言を頼んだ。それはわかるね?」
それは分かるとコクリと頷いた。
「葬儀に出れないことを蚊帳の外だと思ってはいけないよ。ノアがそう思うことをアシュレイは1番恐れているんだ」
もう一度僕は頷いた。
ルークはその後僕の理解を確かめることもなく、ただ優しく背中を撫で続けてくれた。
だからどうしても気になっていたことを聞いた。
「お父様は……苦しまずにこの世を去ったのでしょうか?」
ルークの撫でていた手が一瞬止まる。だから僕は怯えて体が固くなった。
「昨日までアシュレイと談笑をしていたそうだよ。ノアに会うまで頑張ると言っていたそうだ。アシュレイの母君に報告するためにね。今日の朝起こしに行って触るまで寝ているのだと思ったと言っていたよ」
「そうですか……」
「父君もきっとノアに感謝を述べたかったと思う。ノアを愛する前と後では、アシュレイの後悔は格段に違っただろう。それはノアには伝わったかな?」
「勿体ないお言葉……」
「ノアも頑張ったね」
不意に投げ込まれた労いの言葉に、僕は抗うことができず、涙してしまう。
「勿体なく存じます……」
「ほら、こっちへおいで」
ルークは息もできないほど僕を抱きしめた後、何度も何度も額にキスを落としてくれる。そうして、僕の気を逸らすためか、アシュレイとの昔話や、ルイスとジルの話をいっぱいしてくれた。
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