幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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1部番外編

初めて見るアシュレイの顔 (1)

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武官に任命されたアシュレイは参謀本部の置かれる宮中執務宮殿の帰り際必ず寄ってくれる。そうして非番の時にはこうやって花売りから買った季節の花を携え、塔に訪問してくれるのだ。秋に咲く桜というその花は、色鮮やかだけど鼻を近づけなければ分からないほど微かに香るだけだった。それがとても可憐で好きだと言ったら、アシュレイは今日も買ってきてくれた。

僕に与えた香を取り上げてしまったことを、アシュレイは心のどこかで償っているのかもしれない。そんなことを気にして欲しくないと思う一方で、毎回少しずつ買ってきてくれる様々な匂いや色の花に、なによりもアシュレイの愛に、僕の心は満たされていた。

「アシュレイ、花売りはこの花をどこで摘んでくるのですか?」

アシュレイが非番の午前は、こうやって様々な花の匂いや色で僕の記憶が特別なものに塗り替えられていく。塔を出て草原に出たならば、真っ先に花を探して今までもらった数だけアシュレイにプレゼントするだろう。僕は彼から貰ってばかりで、ただの一輪も愛を伝えられていなかった。

「この花は元々は標高の高い山岳地帯に自生する高山植物だ。でもこの花を摘みに花売りは命をかけているわけではない。品種改良が進み、栽培で生計を立てているのだ」

「そうなんですね……。この国ではどの辺に標高の高い山があるのでしょうか?」

地図の広げられた机の前、いつものようにアシュレイは僕を抱える格好で2人机に向き合っている。アシュレイは僕を抱えなおして地図に手を伸ばそうとした、その時。アシュレイの袖のボタンが飛んで、それが細い金属音を鳴らしながらベッドの下に潜った。

僕は反射的にアシュレイの膝から降りて、ボタンを追いかける。

「ノア、後で自分で探すから大丈夫だ。もう少しこうしていたいのだ。逃げないでくれ」

「いいえ、いいえ。僕の方が小さいので、任せてください」

僕はベッドの下を覗き込む。手を伸ばせば届きそうだった。膝を床について手を伸ばすが少しだけ足りない。仕方がないので頭を少しベッドに潜らせて手を伸ばす。必死になって尺取虫のような格好になってしまったが後もう少し。

やっとボタンが指の先に着いた時、尻に何かが通過したような感触があった。

「ひゃっ」

変な声を出してしまったことが恥ずかしくて手を握ってしまい、ボタンが奥に遠のいていった。

さっきの感触はなんだろうと振り返ってみると、アシュレイが顔を背け、赤い耳をこちらに晒していた。

「アシュレイ?」

「す、すまなかった。誓って言う。もう2度とこんなことをしない」

その上ずった声と、空中で右往左往する手で、アシュレイが僕の尻を触ったのだとわかった。
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