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1部 ヤギと奇跡の器
第48話 罪の名前(アシュレイ視点)
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罪状が読み上げられる中、俺は王の前に膝をつき、罪を数えた。先程の王の激昂により、王が下す判断ならばそれを心から受け入れられると感じていた。今こうしてかしずくのは形式によるものではない、心から王に敬服しているのだ。
「よってアシュレイ=バーンスタイン、貴公の塔管理の任を解き、前任士官への異動を命ずる」
一瞬音が消え俺は顔を上げた。そこに後ろの貴族たちのどよめきが耳へ流れ込んだ。
「メルヒャー卿が極刑でなぜバーンスタイン卿が栄転なのか!」
「バーンスタイン卿は元庸人だから量刑が軽いのか!」
「王は庸人を庇うのか!」
貴族は口々に不平不満を口にする。先程追い出された貴族の処遇を見た後でも、王が庸人贔屓という確証を得て、貴族たちは好き放題に言っていた。
「アシュレイ=バーンスタイン、ここに一通の書簡が届いている。これに心当たりはあるか?」
王が帳の後ろで言い放つ。
「いいえ……存じ上げません……!」
「署名は2つ、表書きにルイス=ブラウアー。この書面は代行投函され、この封蝋をもって中の書面に改竄がないことを証明す」
俺の後ろでブラウアー兄弟の独特な足音が響いた気がした。
「中の書面は塔の責務にあたるノア。塔のしきたりにより家名はない。この書面に本当に心当たりはないか?」
「ございません、陛下」
「中の書面には、先日の査問でお前が答えた通りの経緯が客観的に書かれていた。しかし、最後に一文だけ、下した処分とは異なることが記載されていた。なんだかわかるか、奇跡の器よ」
「わ……わかりません、陛下……」
王は持っていた書簡を持ち直したのか、乾いた紙の音が響いた。
「本件はバーンスタイン卿の高潔で純粋な意志の固さが利用された不慮の事故であり、謂れなき罪で彼の時間を奪うことは、いずれ国の損失となりましょう。どうか寛大なご判断を。願わくばこのまま塔の任を手放されませんよう……随分と生贄に信頼されているのだな」
俺はあまりのことに王の読み上げた内容がうまく処理できなかった。
貴族がまたざわめき出す。生贄をたぶらかしている、そこまで言われて離任するのか、庸人同士通ずるものがある、貴族の言っていることが俺の心を蝕んでいく。
「本件の被害者であるノアの証言は一貫しており、査問での質疑応答とも一致している。よってアシュレイ=バーンスタインへの処分は明日正午までに本人が選ぶものとする。これに意義のあるものはおるか!」
王の喝で貴族が静まり返る。
「奇跡の器よ。罪は自分自身の中にある。周りの言葉に惑わされず、明日までに自分の処遇を考えろ」
「御意」
俺は、後ろも振り返らず、横の扉から部屋を出た。赤絨毯の回廊を突っ切り、厩舎へと赴く。厩舎の用務員に銀貨を渡し馬を借り、馬に跨る。
なにも考えられなかった。ただ心が体を突き動かしていた。
王宮のどこからでも見える塔を見据え、馬の腹を蹴った。
「よってアシュレイ=バーンスタイン、貴公の塔管理の任を解き、前任士官への異動を命ずる」
一瞬音が消え俺は顔を上げた。そこに後ろの貴族たちのどよめきが耳へ流れ込んだ。
「メルヒャー卿が極刑でなぜバーンスタイン卿が栄転なのか!」
「バーンスタイン卿は元庸人だから量刑が軽いのか!」
「王は庸人を庇うのか!」
貴族は口々に不平不満を口にする。先程追い出された貴族の処遇を見た後でも、王が庸人贔屓という確証を得て、貴族たちは好き放題に言っていた。
「アシュレイ=バーンスタイン、ここに一通の書簡が届いている。これに心当たりはあるか?」
王が帳の後ろで言い放つ。
「いいえ……存じ上げません……!」
「署名は2つ、表書きにルイス=ブラウアー。この書面は代行投函され、この封蝋をもって中の書面に改竄がないことを証明す」
俺の後ろでブラウアー兄弟の独特な足音が響いた気がした。
「中の書面は塔の責務にあたるノア。塔のしきたりにより家名はない。この書面に本当に心当たりはないか?」
「ございません、陛下」
「中の書面には、先日の査問でお前が答えた通りの経緯が客観的に書かれていた。しかし、最後に一文だけ、下した処分とは異なることが記載されていた。なんだかわかるか、奇跡の器よ」
「わ……わかりません、陛下……」
王は持っていた書簡を持ち直したのか、乾いた紙の音が響いた。
「本件はバーンスタイン卿の高潔で純粋な意志の固さが利用された不慮の事故であり、謂れなき罪で彼の時間を奪うことは、いずれ国の損失となりましょう。どうか寛大なご判断を。願わくばこのまま塔の任を手放されませんよう……随分と生贄に信頼されているのだな」
俺はあまりのことに王の読み上げた内容がうまく処理できなかった。
貴族がまたざわめき出す。生贄をたぶらかしている、そこまで言われて離任するのか、庸人同士通ずるものがある、貴族の言っていることが俺の心を蝕んでいく。
「本件の被害者であるノアの証言は一貫しており、査問での質疑応答とも一致している。よってアシュレイ=バーンスタインへの処分は明日正午までに本人が選ぶものとする。これに意義のあるものはおるか!」
王の喝で貴族が静まり返る。
「奇跡の器よ。罪は自分自身の中にある。周りの言葉に惑わされず、明日までに自分の処遇を考えろ」
「御意」
俺は、後ろも振り返らず、横の扉から部屋を出た。赤絨毯の回廊を突っ切り、厩舎へと赴く。厩舎の用務員に銀貨を渡し馬を借り、馬に跨る。
なにも考えられなかった。ただ心が体を突き動かしていた。
王宮のどこからでも見える塔を見据え、馬の腹を蹴った。
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